介護職員等ベースアップ等支援加算は、介護職員等の処遇改善を目的として、令和4年10月に新設された加算です。「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の取り組みのひとつであった「介護職員処遇改善支援補助金」を引き継ぐ形で設けられました。
当加算を取得することで介護職員の賃金アップを図ることができ、離職率防止にもつながります。
この記事では、令和6年度の取得に向けて、介護職員等ベースアップ等支援加算の取得方法をチェックしておきましょう。
介護職員等ベースアップ等支援加算とは
介護職員等ベースアップ等支援加算とは、令和4年10月の介護報酬改定(臨時改定)で創設された新たな加算です。介護職員に対して、一人当たりの収入を3%程度(月額 9,000 円相当)引き上げるために設けられました。
当加算は、介護職員以外の職種にも配分できるものとなっていますが、「加算総額の3分の2以上は、基本給または毎月決まって支払われる手当」として、賃金改善を行うことが必要です。
また、残りの3分の1に関しては、賞与や一時金に充てることも可能です。
令和6年度の介護報酬改定では、報酬単価がマイナス改定になる恐れもあります。赤字経営に陥らないためにも、当加算をしっかり取得しておきましょう。
介護職員等ベースアップ等支援加算の対象となる職種
対象となる職種は、以下のとおりです。
・訪問入浴介護(介護予防含む)
・通所リハビリテーション(介護予防含む)
・短期入所生活介護(介護予防含む)
・短期入所療養介護(介護予防含む)
・特定施設入居者生活介護(介護予防含む)
・介護老人福祉施設
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・介護医療院
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
・夜間対応型訪問介護
・地域密着型通所介護
・認知症対応型通所介護(介護予防含む)
・小規模多機能型居宅介護(介護予防含む)
・認知症対応型共同生活介護(介護予防含む)
・地域密着型特定施設入居者生活介護
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
・看護小規模多機能型居宅介護
当加算は、介護職員の処遇改善を目的としていることため、それを十分に踏まえた配分となるように留意する必要があります。
介護職員ベースアップ等支援加算の算定方法
次に、どのように加算率を算定するのかについて解説します。
介護職員ベースアップ等支援加算の算定要件
始めに算定要件です。算定要件としては、次の2つの要件を満たす必要があります。
- ・処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得している事業所
- ・賃金改善の合計額の3分の2以上は、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引上げに充てること
Ⅰ~Ⅲのキャリアパス要件
では、①処遇改善加算Ⅰ~Ⅲの算定要件となるキャリアパス要件について確認しておきましょう。
キャリアパス要件Ⅰ…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備し、全介護職員に周知していること
キャリアパス要件Ⅱ…資質向上のための具体的な計画を策定して、研修の実施または機会を設け、全介護職員に周知していること
キャリアパス要件Ⅲ…経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組みを設ける、または一定の基準に基づき、定期に昇給を判定する仕組みを設け、全介護職員に周知していること
加算率と単位数
介護職員等ベースアップ等支援加算の介護サービス種別と加算率は、以下のとおりです。
現行の処遇改善加算と同様に、介護サービス種別ごとに設定された加算率を介護報酬に上乗せする形式です。
訪問介護
夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 |
2.4% |
(介護予防)訪問入浴介護 |
1.1% |
通所介護
地域密着型通所介護 |
1.1% |
通所介護
地域密着型通所介護 |
1.1% |
(介護予防)通所リハビリテーション |
1.0% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護
地域密着型特定施設入居者生活介護 |
1.5% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 |
2.3% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護
看護小規模多機能型居宅介護 |
1.7% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 |
2.3% |
介護老人福祉施設
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 (介護予防)短期入所生活介護 |
1.6% |
介護老人保健施設
(介護予防)短期入所療養介護(老健) |
0.8% |
介護療養型医療施設
(介護予防)短期入所療養介護(病院等) |
0.5% |
介護医療院
(介護予防)短期入所療養介護(医療院) |
0.5% |
出典:「令和4年度介護報酬改定について」(厚生労働省)
介護職員等ベースアップ等支援計画書への入力
介護職員等ベースアップ等支援加算を算定する事業者は、介護職員等ベースアップ等支援計画書の以下の項目を入力し、提出する必要があります。
- ・加算の見込額
- ・賃金改善の見込額
- ・それぞれの加算の算定により賃金改善を行う場合の賃金の総額
- ・前年度の賃金の総額
- ・介護職員の賃金改善の見込額(全体、事業所ごと)
- うちベースアップ等による賃金改善の見込額(全体、事業所ごと)
- ・その他の職員の賃金改善の見込額(全体、事業所ごと)
- うちベースアップ等による賃金改善の見込額(全体、事業所ごと)
- ・賃金改善実施期間
- ・賃金改善を行う給与の種類
- ・具体的な取組内容
- ・取組の開始時期
- ・加算の算定対象月
- ・介護職員処遇
介護職員処遇改善加算等の計画書の新様式が適用
処遇改善計画書の新しい様式が、令和5年(2023年)度分の実績報告書から適用されます。
以下の内容を記入する必要があります。(一例)
- ・介護職員等ベースアップ等支援加算の見込み額
- ・賃金改善の見込み額
- ・ベースアップ等による賃金改善の見込み額等
- ・賃金改善を行う賃金項目および方法
詳しくは、厚生労働省のサイトにて計画書を公開しているので、参照してください。
参照:「介護職員の処遇改善」(厚生労働省)
介護職員等ベースアップ等支援加算の注意点
介護職員等ベースアップ等支援加算を算定する場合、利用者が負担する利用料が変更になります。
加算を算定する前に、重要事項説明書を変更して利用者やご家族に説明し、同意を得る必要がありますので、注意しておきましょう。
2024年の介護報酬改定で処遇改善加算が一本化に!
2024年において処遇改善加算が一本化されました。では、これまでとどのように変わったのか、改定の背景とあわせてみていきましょう。
3種類の処遇改善関係加算を一本化
これまでの処遇改善関係加算は、次の3種類に分かれていました。
- ・介護職員処遇改善加算
- ・介護職員等特定処遇改善加算
- ・介護職員等ベースアップ等支援加算
2024年からは「介護職員等処遇改善加算」という名称のもと、ひとつに集約されました。
ただし、実際に対応するには準備が必要なため、1年間の経過措置期間が設けられています。2024年中であれば、従来の3種類の処遇改善加算を選択することも可能です。
一本化するに至った背景
現在、介護の現場では職員不足が深刻化しています。今までは上記で紹介した処遇改善関係加算を通して賃金向上や職場環境の改善を図り、この問題を解決しようとしていました。
しかし、実際のところは事務の煩雑さや制度の複雑さに加えて、職種間の賃金バランスの調整や利用者への負担発生などを理由に加算を取得していない事業所も少なくありません。
その結果、令和5年度4月の特定処遇改善加算の取得率は77.0%ととどまっています。
一本化することで、事業所の事務負担を軽減させ算定のハードルを下げるのが狙いです。
新たな処遇改善加算の考え方
新たな処遇改善加算は、介護職員の基本的な待遇改善やベースアップなどの推進に加えて、下記のような狙いもあります。
- ・資格や経験に応じた昇給の仕組みの整備
- ・職場環境の改善による職員の定着促進
- ・事業所内における経験・技能のある職員の確保
処遇改善加算の一本化で見直される点
処遇改善加算の一本化では次のような点が見直されます。
職種間の賃金配分
従来の職種間の賃金配分では、3つの処遇改善加算それぞれでルールが設けられていたため、事務作業が煩雑になってしまう課題がありました。
そのような現場の事情を踏まえて、「介護職員への配分を基本としつつ、特に経験や技能のある職員に重点的に配分することとするが、事業所内で柔軟な配分を認める」方針に統一されました。
ベースアップ等支援加算の要件
賃金配分に加え、現行のベースアップ等支援加算で設けられている要件の見直しも行われています。
現行制度では、ベースアップ等支援加算で算定した額の3分の2以上を、毎月決まって支払われる賃金の引き上げに充てるようになっています。
これに対する要件案として、下記が検討されています。
新加算Ⅳの加算額の1/2以上を月額賃金の改善に充てる
■新規取得事業所におけるルール
基本ルールに加え、新加算の取得にともない新たに収入が増加した部分のうち、現行のベア加算に相当する内容については全額を新たに賃金改善に充てるとともに、その2/3相当を月額賃金により改善する
なお、後者は新加算取得以前にベースアップ等支援加算を取得していなかった事業所が対象となります。
ただし、これらの内容は未だ検討段階のため、今後変更されることも十分考えられます。
職場環境等要件の見直し
処遇改善加算の要件は24項目中1項目以上、特定処遇改善加算は区分ごとに1項目以上取り組むこととされていますが、多くの事業所がすでにこれを達成しています。
このことを踏まえて、取り組むべき項目数の追加と内容の変更が検討されていますが、適用時期は令和7年度以降となる見込みであるため、支援加算の要件同様今後の動向に注目する必要があります。
項目内容の変更については、生産性の向上および経営の協働化に関する内容を中心に、以下のような案が提示されています。
- ・職場環境等要件の各項目において具体的な取り組み内容を決定
- ・年次有給休暇取得促進における取り組み内容の具体化(上司からの声掛けなど)
- ・現在の研修受講支援の対象に介護福祉士ファーストステップ研修とユニットリーダー研修を追加
まとめ
ベースアップ等支援加算など、介護報酬の加算に不安を感じる経営者も多くおられると思います。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。
土屋グループは、多数の事業承継、M&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、後継者不足、事業承継、事業の買収・譲渡(M&A)など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。
【 土屋総研へのお問い合わせはこちら 】