高齢化が進み、介護のニーズが増えている一方で、介護に従事するヘルパーが不足しています。特に、訪問介護における人手不足は深刻です。この記事では、人手不足の現状や対策について解説します。
訪問介護におけるヘルパー不足の現状
2022年度の訪問介護職員の有効求人倍率は、約15.53倍でした。施設介護職員の有効求人倍率(約3.8倍)と比べると、非常に高くなっています。
厚生労働省によると、人手不足を感じている訪問介護事業所は約8割。ケアマネージャーからの依頼を断った理由(複数回答)をみると、「人員不足により対応が難しかった」が9割に上ります。
厚労省の推計によると、高齢化がほぼピークになる2040年度には全国で約280万人の介護職員が必要になります。しかし、現状と比べると約69万人不足する見通しで、人手不足はますます加速するといわれているのです。
出典:「訪問介護」(厚生労働省)
ヘルパー不足に陥る原因
では、なぜ訪問介護事業はヘルパー不足に陥っているのでしょうか。その原因と思われる背景について解説します。
少子高齢化が加速している
人手不足は、介護業界に限った話ではありません。少子高齢化に伴い労働人口が減少し、さまざまな業界が同様の状況に陥っています。
令和5年版高齢社会白書によると、日本の人口のうち、65歳以上が占める割合は29.0%。75歳以上は15.5%に上ります。「2025年問題」では、人口の約4人に1人が後期高齢者になるとされています。
いわゆる「団塊の世代」が高齢化し、介護を必要とする人が増える一方で、働ける人は減っています。介護サービスの需要に対して、充分な供給が難しい状況にあります。
出典:「令和5年度版高齢社会白書」(内閣府)
採用ハードルが高い
多くの介護事業者は、採用に頭を悩ませています。令和2年度の介護労働実態調査によると、事業者の86.6%が人手不足の原因を「採用が困難である」としています。困難な原因を問うと、「他産業に比べて労働条件等が良くない」が 53.7%、「同業他社との人材獲得競争が激しい」が 53.1%に上りました。
介護業界に対してネガティブなイメージを抱いている人は、決して少なくありません。夜勤業務や身体介護などの負担の大きさや、給与水準の低さなどは、採用を困難にしている要因といえるでしょう。
人手不足が加速する中、職員一人当たりの負担はさらに増え続けています。業務量に対して適正な報酬が受けられないと、採用が難しいのはもちろん、離職者が増えることも免れません。
出典:「令和2年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書」(公益財団法人 介護労働安定センター)
ヘルパー不足を解消する対策6選
では、どのようにヘルパー不足を解消すれば良いのでしょうか。ここでは6つの対策について説明します。
1. 労働環境を整える
現在事業所で働いている職員が、今後も長く働きやすい環境を整えることが重要です。過去に辞めた職員がいる場合は、なぜ辞めることになったのか、可能な範囲で離職の原因を分析します。
「何から手を付ければ良いか分からない」という場合は、職員にヒアリングするのも良いでしょう。何か困ったことはないか、改善してほしい点はないかを聞き取ることで、具体的な課題が浮かび上がってきます。
また、労働環境を整えることにより、コミュニケーションの改善にも期待できます。まだ業務に慣れていない新人職員や、残業など負担が多くなっている職員に対しては、適切なフォローを行うようにしましょう。
2. 採用活動に力を入れる
深刻な人手不足の中、介護職はいわゆる売り手市場となっています。ただ待っていても、採用活動はうまくいきません。事業所側から積極的に攻めの姿勢で進めいくことが大切です。
まずは職場の魅力や独自性を分析して、他社との差別化を図ります。
例えば「研修制度が充実」「職員間のコミュニケーションが多い」など、介護経験が少ない人の不安を解消できるようなポイントを盛り込むと、応募者の増加が期待できます。
また、SNSや自社ホームページ、採用サイトなど、オンラインで情報発信をするのも効果的です。どんな人に来てほしいのかを決めたうえで、ターゲットに対して役立つ情報を発信していきましょう。
そのほか、情報誌への掲載や採用イベントへの出展など、いわゆるオフラインの方法も模索することも大切です。
3. 人事評価や処遇制度を改善する
離職防止のポイントは、職員の満足度を上げること。介護職員の多くは、賃金の満足度が低いといわれています。とはいえ、すぐに賃金を上げるのは難しいかもしれません。
その際は、「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」をしっかり取得することが大事です。申請して基準を満たせば、加算につながります。
また、仕事に対して正当な評価を受けているかどうかも、職員の満足度につながります。上長による個人面談のほか、評価のチェックシートを導入すると、客観的な指標ができます。
適切な評価は離職防止だけでなく、職員のモチベーション向上や団結力アップにも期待できます。
4. ICTシステムを導入する
介護職員の負担軽減も、離職防止につながります。なかでもぜひ検討したいのが、ICTの活用です。仕事の効率や正確性の向上にも期待できます。
・チャットツールの導入
職員間で素早く連絡が取れるだけではなく、文字情報や時間の記録にもつながります。
・ケア記録のクラウド化
編集、情報共有、変更の反映などが迅速にできて、入力の負担が減ります。
・見守りシステムの導入
職員の負担軽減のほか、適切な支援や事故の予防、また事故が起きてしまった場合の再発防止などにも効果的です。ただし、導入する際は利用者やご家族の許可が必要となります。
ICTの導入には補助金を利用できる場合もあるので、積極的に検討しましょう。
5. ハラスメント対策を取り入れる
令和3年度の介護報酬改定で、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのハラスメント対策が全ての介護事業者に義務付けられました。利用者や家族からのセクシャルハラスメントも、措置の対象です。
・基本方針の策定と周知
就業規則などに「いかなるハラスメントも許さない」といった文言を盛り込み、事業所の方針を明確化します。
・マニュアルの作成
ハラスメント予防策、管理者の役割、ハラスメントが発生した場合の対処法などを具体的に明記します。
・相談しやすい環境づくり
普段のコミュニケーションはもちろんですが、窓口を設置して周知することで、相談する際のフローを明らかにしておくのが効果的です。
ハラスメント対策の整備は、職員の安心感につながります。職員間だけでなく、利用者からハラスメントがあった場合の対処法も整理しておくと良いでしょう。
6. 資格取得を支援する
職員のキャリアアップの支援も、離職率低下に効果的です。
・資格取得にかかる費用を負担・補助
受講、教材、受験料などの費用を事業所が補助することで、職員の負担を軽減し、心理的なハードルを下げられます。
・資格取得に向けた研修や講座を開催
施設によっては、介護職員初任者研修の研修や、介護福祉士の試験対策を実施したりしているところもあります。
介護福祉士などの国家資格を取得すれば、仕事の幅が広がるうえに、給与や待遇の改善にもつながります。職員のモチベーション向上だけでなく、事業所全体の介護の質を上げられます。
まとめ
介護現場における従業員不足は、支援の質の低下や事故の要因となり得ます。従業員一人あたりの負担が増えることで、さらに離職者が増えるおそれもあります。
人材確保に悩んでいる場合は、第三者によるコンサルティングを受けることも選択肢のひとつです。介護業界に詳しい専門家に相談すれば、業界の特性を踏まえた有益なアドバイスを得られます。
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