訪問介護サービスは、利用者の自宅で直接介護を提供するため、その手順を明確にすることが非常に重要です。
この記事では、訪問介護の手順書の基本情報、目的、記入例、そして作成時のポイントについて詳しく解説します。
これから訪問介護の手順書を作成される方は、事業スタッフや介護職員が効果的なサービスを提供できるよう、ぜひ参考にしてみてください。
訪問介護の手順書とはなにか
訪問介護の手順書は、介護サービスを提供する際の具体的な手順や方法を記載した文書です。利用者の日常生活の支援に関する詳細な指示が含まれ、介護職員が一貫したケアを提供するためのガイドラインとなります。
法人や自治体ごとに『サービス指示書』や『手順書』といったように呼び方が違うケースはありますが、基本的には『利用者に合わせて作成されるケアの手順を示した書類』といったように認識しても問題ありません。
訪問介護の手順書の目的
訪問介護における手順書は、サービス提供責任者が中心となり作成するものです。利用者の状況に合わせ、適切な介護サービスを継続して提供するために作成されるものです。
この手順書は作成者であるサービス提供責任者だけでなく、利用者やその家族、現場で介護サービスを提供する訪問介護スタッフに加え、ケアマネージャー等が目にすることもある書類です。
手順書を作成することで、ケア内容が利用者の現在の状況にマッチしているか、計画通りにケアが提供されているか、目標達成の可否やその目標についての内容見直しなどについて確認ができます。
(ご家族を含めた)利用者側は目的意識を持つことができ、担当する訪問介護員は自分の仕事内容を理解し、方向性を定めるきっかけにすることもできます。
訪問介護計画書の目標を達成させるため
サービス手順書は、訪問介護計画書における目標を達成するための行動計画に基づいて記載します。
訪問介護計画書では、利用者における“短期目標”と“長期目標”を設定しており、これらを充足させるには、適切なケアサービスを提供することが欠かせません。
そのため、利用者のニーズやADLに応じて内容の変更が発生することもあるのです。
これらの計画書に沿ってサービスの提供が正確に行われているかは、運営指導におけるチェック対象となるケースもあるので、適宜見直しをすることが求められます。
介護職員が困らないようにするため
手順書は、介護職員が利用者の状態や必要なサービスを正確に理解し、適切なケアを提供できるようにするためのものです。
訪問介護では基本的に、1人の利用者に対して複数名の訪問介護スタッフが担当しています。しかし、担当スタッフに欠員が発生したときには、普段その利用者のケアに携わらない代替スタッフが対応しなければいけない状況もあります。
その際、『手順書』があることで、誰が見てもスムーズにサービス提供することが可能です。また、担当スタッフの急な退職により、十分に引き継ぎができなかった場合にも役立ちます。
加えて、“ヒヤリハット”が発生した際に、手順通りにサービス提供が実施されていたのか?という大きな事故を未然に防ぐための側面も持ち合わせています。
法令遵守のため
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)の内、第28条管理者及びサービス提供責任者の責務の中に下記文言が記載されています。
指定訪問介護事業所の管理者は、当該指定訪問介護事業所の従業者及び業務の管理を、一元的に行わなければならない。
2 指定訪問介護事業所の管理者は、当該指定訪問介護事業所の従業者にこの章の規定を遵守させるため必要な指揮命令を行うものとする。
3 サービス提供責任者は、第二十四条に規定する業務のほか、次に掲げる業務を行うものとする。
一 指定訪問介護の利用の申込みに係る調整をすること。
二 利用者の状態の変化やサービスに関する意向を定期的に把握すること。
二の二 居宅介護支援事業者等に対し、指定訪問介護の提供に当たり把握した利用者の服薬状況、口腔機能その他の利用者の心身の状態及び生活の状況に係る必要な情報の提供を行うこと。
三 サービス担当者会議への出席等により、居宅介護支援事業者等と連携を図ること。
四 訪問介護員等(サービス提供責任者を除く。以下この条において同じ。)に対し、具体的な援助目標及び援助内容を指示するとともに、利用者の状況についての情報を伝達すること。
五 訪問介護員等の業務の実施状況を把握すること。
六 訪問介護員等の能力や希望を踏まえた業務管理を実施すること。
七 訪問介護員等に対する研修、技術指導等を実施すること。
八 その他サービス内容の管理について必要な業務を実施すること。
引用:厚生労働省
運営指導においては、当然ですがではこれら法令順守の上でサービス提供がされているか?という点を問われます。
この点において、“四 訪問介護員等(サービス提供責任者を除く。以下この条において同じ。)に対し、具体的な援助目標及び援助内容を指示するとともに、利用者の状況についての情報を伝達すること。”に対する遵守の根拠となる資料が訪問介護計画書及び手順書となります。
※“手順書”という名称の正確性は明示的ルールではありませんが、“具体的な援助内容を指示している”ことを示せる根拠書類が必要です。
訪問介護の手順書の記入例
ここからは、実際の訪問介護のシナリオに基づいた手順書の記入例を示します。
主に利用者の起床支援から食事の準備、身体の清潔保持、就寝までの手順など、日常生活の各シーンにおける具体的な手順を時系列に沿って記載しています。
※以下にサンプル手順書を掲載しますので作成時の参考にしてください。
訪問介護の手順書を書く際のポイント
ここでは、手順書を作成する際のポイントを紹介します。
誰でもわかりやすい表現で記載する
手順書は、すべての介護職員が理解しやすいように、簡潔かつ明確な言葉で記載することが重要です。
介護未経験の新人や介護知識に精通していないご家族が目にしたときでも理解を得られる記載の方法が望ましいです。
「利用者が自ら行うこと」と「ヘルパーがすること」を明確にする
利用者の自立を促すためにも、利用者自身が行うこととヘルパーが支援することの区別を明確にします。
入退室の手順は詳細に記載する
起床時間や就寝前におけるサービス提供を行うケースもあります。安全とプライバシーの確保のため、訪問時の入退室の手順は詳細に記述します。
自宅の開錠を行うなど、細心の注意を払う事項もあるため手順については言葉を余さず記載してください。
NGワードや行動を書く
利用者にとって不快や混乱を引き起こす可能性のある言葉や行動は、避けるべきものとして記載します。
認知機能の低下がある利用者の場合、普段と違う行動や言動がトリガーになってトラブルや事故に発展することもあります。ご家族の協力を得られる場合は事前に詳細をヒアリングして記載をしておきましょう。
主治医からの指示を記載する
医療的なニーズがある場合、主治医の指示に基づく手順を含めることが重要です。
服薬等に関して、介護職員の職責上行ってはいけない行為もあります。その場合、訪問看護スタッフやご家族にあらかじめ協力を得たり、介護職員の職責上で実施できる範囲を先行してお伝えしたりすることが欠かせません。
作成後は利用者やその家族に確認してもらう
事業所側で手順書を作成した後は、利用者やその家族にチェックしてもらうことが大切です。
訪問介護の手順書は、介護計画書における目標設定に対して、適切なケアサービスを提供するための基準ともいえます。利用者とその家族との間に認識の齟齬がないよう、互いの目でチェックを行う事で、より具体性の高い手順書になります。
介護計画書における目標設定に対して適切なケアサービスの提供を行うための教科書となるため、利用者やその家族と協同して作ることもひとつのポイントとなります。
訪問介護の手順書はそのつど改善することが重要!
利用者の状態やニーズは変化するため、手順書は定期的に見直し、必要に応じて更新することが重要です。
まとめ
訪問介護の手順書は、高品質な介護サービスを提供するための重要なツールです。この記事を通じて、サービス提供責任者や介護職員が効果的な手順書を作成し、利用者にとって最適なケアを提供し、事業所の教科書としても活用できるようになることを願っています。
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