介護事業所の倒産の原因は?過去最多の現状や対策、対処法を解説

高齢化社会により介護事業者のニーズが高まる一方で、介護事業者の倒産件数は過去最多となるなど、介護業界では厳しい状態が続いています。この記事では、介護事業者を取り巻く現状や倒産に至る原因、その対策を詳しく解説します。


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介護事業所の倒産数が過去最多を記録

東京商工リサーチの調査では、2022年の介護事業の倒産件数は143件と過去最多となり、前年度比76.5%の増加となりました。うち、デイサービス等の通所・短期入所介護事業が69件と最も多く、次いで訪問介護が50件となっています。

また、倒産した事業者の約8割が小規模事業所であり、小・中規模事業所の苦境がうかがわれるものとなりました。

背景として、コロナ禍における感染防止対策コストや利用頻度の減少、在宅勤務の定着による需要減があり、新型コロナ関連の倒産が前年の約6倍(63件)であることが判明しています。さらには光熱費や食材などの物価高も、倒産件数の増加に影響しているとされています。

出典:「コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~」(東京商工リサーチ)

介護事業所が倒産・廃業する理由

高齢化社会が進むにつれ、介護事業所の需要も増大しているものの、相次ぐ値上げや経済の停滞によって、倒産件数がこれまでになく増加しています。ここでは、介護事業所が倒産・廃業する主な理由を解説します。

新型コロナウイルスによる影響

倒産の理由としては、まず新型コロナウイルス感染症の影響が大きくあります。コロナ禍での利用控えにより売上が減少し、倒産に至ったケースが多く見受けられます。
また、増加する感染症対策コストを介護サービス料金に反映できないことで、経営がより圧迫されたと想定されます。

介護職員の人材不足

少子高齢化により介護業界は深刻な人手不足の状況にあります。さらに介護業界のネガティブイメージにより、人材確保が難しいのが現状です。

2025年には国民の4人に1人が75歳以上となる超高齢化社会が訪れる中、厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、2025年度には介護職員が約243万人必要となる一方で、働き手は約220万人と、約23万人の介護職員が不足するとされ、今後ますます人材不足に拍車がかかるのは明らかです。

こうした中、採用コストや人件費の調整、人材不足による利用者の喪失が介護事業所の経営に影響し、倒産に追い込まれるケースも多くなっています。

出典:「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(厚生労働省)

経営コストの増加

昨今の原油の高騰や相次ぐ値上げラッシュ等、社会環境も介護事業所の倒産に影響しています。とりわけ光熱費の高騰および人件費の上昇の影響が大きいとされています。

というのも、介護事業者の収益の大半を占める介護報酬および介護保険料は、基本的に単位が一律で決まっています。そのため、光熱費や人件費が上昇しても売上は変わらず、一方で費用は増大するため、経営の悪化につながります。

こうした経営コストの増加により、倒産に至るケースも多く見受けられます。

介護事業者が倒産すると利用者はどうなる?

介護施設が倒産した場合、すぐさま退去になることはなく、ほかの事業者が当該施設を引き継ぐか否かによってその後の経緯は異なります。

例えば、当該施設がほかの事業者に引き継がれた事業譲渡の場合、運営元が変わるだけであることから、利用者は引き続き施設を利用できます。職員も継続して勤務することが多く、利用者の日常生活に大きな変化がないこともしばしば見受けられます。ただし、これまで提供されていたサービスを利用できなくなるケースや料金の変動が見られるケースもあります。

一方、当該施設がほかの事業者に引き継がれなかった場合は、施設は閉鎖となるため、新たな転居先を探す必要があります。

施設以外でも、介護事業所が倒産すると、利用者は次の介護事業所を探す必要に迫られます。ただし、新規の利用者を受け入れる余裕のない事業所もあることから、すぐに次の事業所が見つからないこともあります。

また、新たな事業所を見つけて出しても、職員数が不足している場合、質の高いサービスを受けることができなくなる可能性もあります。

事業者は人員基準などの問題で、新たな利用者を受け入れる幅には限界があり、その場合、利用者においては日常生活の継続が非常に困難になるため、事業所の倒産は深刻な問題です。

介護事業所の倒産を防ぐ対策

倒産は利用者にとって深刻な問題ですが、介護事業者にとっても同様です。倒産は自身の人生・経済基盤の喪失のみならず、目の前の利用者、従業員を非常に大切にする傾向の強い介護経営者にとって、利用者の先行きは心に深く突き刺さる問題でもあります。

ここからは、介護事業所の倒産を防ぐ対策について解説します。

人材確保への取り組み

人材は介護業界の要です。収益を増やすには、利用回数の増加、利用者の増加が必要ですが、そのために必要なのが人材です。

人材の確保は採用だけで図れるものではありません。介護事業者によっては、離職率の高さ、定着率の悪さが人員の流出につながっているケースも多々見受けられます。

待遇面はもちろん重要ですが、人間関係を円滑にすることが大切です。離職率の最大要因は人間関係のトラブルであることから、働きやすい事業所にすることで、人材は定着し、人材確保につながります。

そのためにも、経営者のみならず、スタッフ全員でどうすれば働きやすい職場になるのかなどを話し合い、職場環境を改善していきましょう。

職場環境の改善はサービスの向上にもつながるため、利用回数の増加、利用者の獲得にも寄与します。そうすれば、おのずと売上はアップしていくでしょう。

介護現場の生産性向上

介護現場の生産性を向上させることも、倒産を防ぐ有益な手段です。スタッフは、現場と並行して、日々の事務作業を行っています。そうしたスタッフの負担を軽減するため、ITツールの導入を進めることは大切です。

具体的には、記録の電子化やクラウド化によって、記録に要する時間を削減するなど、業務の効率化を図ることがあげられます。また、記録を電子化することにより、情報共有もスムーズになります。

さらに、勤怠管理システム・シフト作成ソフトを導入することで、事務作業の工数も削減できます。こうした業務の効率化は、スタッフの負担を肉体的・心理的に軽減させられるため、ケアの時間を増やせることや質の高いサービスを提供することにもつながり、利用者満足度も向上するでしょう。

なお、ITツールの導入に際しては、補助金が活用できます。 パソコンやタブレット、プリンターやソフトウェアなどの初期費用の軽減が図れるため、ぜひ検討しましょう。

介護事業所を倒産せざるを得ないときは?

あらゆる手段を講じても、倒産・閉業せざるを得ないことは残念ながらあると思われます。ここでは、その場合の対処法を解説します。

自治体に相談する

倒産・廃業を決めた場合は、まず指定を受けている自治体に相談します。閉業する1ヶ月前までに届け出を出す必要があるため、閉業の日程を確定し、その後、閉業に関する届け出を出すことになります。

ただし、自治体によっては利用者の受け入れ先も明記しなければならない場合があります。閉業日程を確定後に受け入れを探すのは時間的に困難なため、計画的に閉業日時を決めましょう。

また、利用者の安定した生活を継続させるためにも、ケアマネージャー等、関係機関やご利用者・ご家族へ報告し、近隣の介護事業者とも連携して、利用の調整を行うことが大切です。

M&Aで売買を検討する

赤字が続く、資金繰りが厳しいなどの状況にある場合は、M&Aという選択肢があります。また、自身の高齢化、後継者不足により廃業を検討している方であれば、M&A専門のコンサルタントに相談するのもおすすめです。

まとめ

介護業界はほかの産業と異なる特性があるため、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。

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