介護事業利益率の現状は?利益率を上げる方法も詳しく解説

介護業界は、利益よりも目の前の利用者を思いやる経営者が多くおられる業界ですが、利益率が下がれば、経営の存続が危ぶまれ、倒産・廃業に至る場合もあります。そうすると、利用者・従業員は行き場をなくし、経営者自身の人生も大きく損失されます。そうならないためにも、介護事業者にとって利益率の向上は喫緊の課題です。 本記事では、介護業界における利益率の現状と、利益率を上げる方法について詳しく解説します。


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介護事業全体(介護保険分野)の利益率の現状

利益率は、介護業界では「収支差率」と呼ばれます。本記事では経営に絞る観点から、一般的に用いられている利益率という言葉を使用し、その現状を解説します。

利益率は、業界全体の実態把握や、自社の経営状況や財務分析を行う際に用いられ、売上に対して利益がどれほど出ているのかを図る指標となっています。

厚生労働省の「令和4年度介護事業経営概況調査結果」によると、2021年度の介護保険サービスの利益率は平均3.0%で、前年度より0.9ポイント悪化しました。

要因として、コロナ禍で介護保険サービスの利用控えならびに人件費の増大が影響したとされています。

とりわけ人件費に関しては、介護事業所の収益の大半を占める介護報酬が0.7ポイント上昇したものの、人手不足により人件費の支出が膨らんだことで、利益率の減少につながったということです。

ただし、事業によって利益率の増減も異なっており、多くは悪化しているものの、夜間対応型訪問介護や居宅介護支援ではプラスとなっています。利益率が最も高いのは、定期巡回・臨時対応型訪問介護看護で、8.2%となっています。

出典:「令和4年度介護事業経営概況調査結果」(厚生労働省)

介護事業の利益率が落ち込んでいる原因

介護事業の利益率が落ち込んでいるのには、いくつかの要因があげられます。その要因を大きく3点に絞り、解説します。

介護事業の需要に対する人材供給不足

利益率が落ち込んでいる要因として、まず人材不足があげられます。高齢者、とりわけ後期高齢者が増加し、ニーズが高まる一方で、介護人材の供給は追いついていないのが現状です。国民の4人に1人が75歳以上となる2025年問題も間近に迫る中、今後もその傾向は続くと見られ、人材の獲得にかかるコストが経営を圧迫し、利益率の低下にもつながりかねません。

介護業界では人員配置基準が設けられており、介護人材が不足すると、利用者の受け入れを制限せざるを得なくなります。このことも収益の悪化の要因となっています。

新型コロナウイルスによる影響

新型コロナウイルス感染症も介護業界に大きなダメージを与えた要因のひとつです。クラスターの懸念により、施設の閉鎖や通所介護の休止が相次ぎ、利用者側からも感染不安による利用控えが起こりました。

とりわけ、規模の大きい通所介護サービスでは利益率が大きく下がりました。

同業他社の競争が激化している

高齢者人口の増加により、介護サービスを利用する方も多くなり、これに伴い施設や介護事業所も増加傾向にあります。異業種から新規に参入し、事業拡大を図る動きも目立つ中、同業他社の競争が激化しているのが現状です。

介護事業者の倒産が過去最多となっている中、利用者を確保するには、サービスの維持・向上の努力が欠かせません。また、コストを下げるなどの対策も必要です。これらを怠り、十分な収益を上げられない場合、経営が悪化する恐れがあります。

介護事業の利益率を上げる方法

人材供給不足、新型コロナウイルス感染症、競争激化により、介護業界は厳しい状況にありますが、利益率を上げるにはいくつかのポイントがあります。ここでは利益率を上げるために抑えておくべきポイントについて、詳しくお伝えします。

稼働率を上げる

稼働率の低下は赤字に直結するため、まずは稼働率の向上が必要です。稼働率低下の原因として、利用者数が少ないことや、利用者一人当たりの利用頻度が少ないことがあげられます。

例えばデイサービスにおいては、1日の稼働率は、1日の利用者数÷1日の利用定員数となるため、定員40名で利用者数が30名であれば稼働率は75%となり、長期化することで経営が赤字に陥ります。

介護事業者の収益は報酬単価が多くを占め、「サービス単価×利用回数×利用者数」が売上となります。利用者数・利用回数を上げることができれば、収益の改善につながるため、訪問介護であれば、介護職員が効率的に訪問できるルートを組むことで訪問回数を増やすなども効果的です。また、サービスも質を高め、それぞれの利用者に利用回数を増やしてもらう努力も欠かせません。

新規の利用者を増やすことも重要です。地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などへ営業し、稼働率の向上に努めましょう。HPやSNSなどを活用し、自社の魅力や強みをアピールするブランディング活動も大切です。

業務効率化を図る

人材不足により、職員一人ひとりにかかる負荷が増大する中、サービスの質の低下が懸念されています。介護業界は人対人の業種として、他業種に比べIT化が遅れている傾向にあります。介護職員の負担を減らし、サービスの質を向上させるためにも、業務の効率化は必須です。

とりわけ事務・管理に関する業務の負荷が生産性の低下を招く要因ともなっているため、ITやシステム化を導入することで業務フローの改善を図り、現場の負担を軽減しましょう。それが延いてはサービスの質の向上、そして利用者数ならびに利用回数の増加につながります。

加算を取得する

介護業界では、介護保険制度の定める介護報酬が収益に大きく関わります。介護報酬加算をしっかりと取得するためには、加算の算定要件を満たす必要がありますが、取得できる加算を取りこぼしているケースもしばしば見受けられます。

事業所の体制を確認し、取得できる加算を取りこぼしていないか、また取得できそうなものはないかなど、チェックしましょう。

まとめ

介護業界はほかの産業と異なる特性があるため、経営の悪化や赤字にお悩みの経営者の皆様は、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。
また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
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