新年度を迎え、多くの介護事業所が抱える大きな課題の一つに、職員の高い離職率と定着率の低さがあります。
介護職は社会的にも非常に重要な役割を果たしているにも関わらず、その厳しい労働環境や待遇の問題から、多くの職員が職場を去ってしまう現状があります。
本記事では、介護職員がなぜ離職してしまうのかその主な理由を掘り下げ、事業所が新年度だからこそ取り組むべき、具体的かつ実効性のある対策を提案します。
職員一人ひとりが持続可能でやりがいを感じられる職場環境を整えることで、質の高い介護サービスの提供を目指しましょう。
なぜ早期に離職してしまうのか?介護職員の主な退職理由ワースト5とは?
まずは現状についての理解を深めるため、そして既に直面している課題でもある“訪問介護における職員の退職理由”について、その実際の理由や早期退職者(入社から3か月以内)の声を拾ってみました。
退職された方が考える理由は多岐にわたりますが、以下に実際に挙がった退職理由ワースト5をお伝えします。
もし、あなたの事業所にこういった不安の種がある場合、急いで解決する事が大変重要です!
ワースト1位. **肉体的および精神的な負担**
– 訪問介護は肉体的にも精神的にも重労働であり、長時間の勤務や肉体的な疲労が原因で退職する職員が多いです。
– また、1対1で介護を行うという訪問介護ならではのスタイルが合わない方もいます。
施設介護の様にチームで取り組むことが出来ない側面に対して精神的なストレスを感じる方も多く、特に感情的な疲労や“燃え尽き症候群”が原因で退職するケースがあります。
■実際に頂いた声
『利用者の事を考える事は大事だけど、自分の心が追いつかなくなってしまった』
ワースト2位. **賃金の問題**
– 訪問介護に限らず、介護職は比較的低賃金であると言われていて、収入が上がりにくいといった、経済的な理由から職を変えることが少なくありません。
■実際に頂いた声
『かなり長時間残業してやっと一般企業並みの収入では人生設計ができない』
ワースト3位. **キャリアパスの不透明性**
– 介護職は技術職としての専門性の高さを求められる反面、職業としての成長や昇進の機会が限られているケースや就業先のキャリアパスが不明瞭であることから、キャリアアップを望む職員が他の職種や別の事業者に転籍することがあります。
■実際に頂いた声
『(古参の従業員より)介護技術や保有資格は高いのに、年功序列だとやりがいがない』
ワースト4位(同率). **ワークライフバランスの問題**
– 夜勤があることや、日勤であっても毎日の勤務時間が不規則であるといった勤務時間の面や長時間労働が原因で、家庭やプライベートとのバランスが取りづらいと感じる職員は多く、特に女性においては結婚や出産といった大きなライフイベントとのバランスが取れにくいことから退職せざるを得ない方も少なくありません。
■実際に頂いた声
『(自身の親の)介護が始まってしまったため、この仕事自体を続けにくい』
ワースト4位(同率). **職場環境と人間関係**
– 労働環境が整っていない場合や、職場における(訪問先の利用者や同じ利用者のケアにあたる別のスタッフとの)人間関係がストレスの原因となる場合もあります。
■実際に頂いた声
『上司や同僚との“ケアに対する考え”がマッチせず、擦り合わせもなかった』
ワースト5位. **不十分なトレーニングとサポート**
-適切な研修や日々の業務に対するサポートを受けられない場合、不安や不満から退職することがあります。
特に事業所の人材がひっ迫している状態においては十分なトレーニング環境を提供できないことでの悪循環に陥っている事業所も存在します。
■実際に頂いた声
『困っているときに“知らん顔”をされて、信頼がおけなくなった』
様々な問題がありますが、いずれの問題も介護事業全体が抱える課題を浮き彫りにさせるような声が多数挙がっていました。
これらの問題がどうして発生しているのかを理解し、改善策を講じることが、職員の定着率向上に繋がります。
離職防止と定着向上に向けてコストをかけず始められる対策5選
上にお示しした介護職員の主な退職理由に対して、早期離職率を減らし、定着率を向上させるためには、設備やICTの導入といった多くの費用をかけて対策を行うことでカバーできる要素はあります。
ただ、出来るだけコストをかけずに対策をたてること可能であれば、今すぐにでも対策をスタートすることが可能です。
ここでは、ローコストまたはノーコスト実行可能ないくつかの対策をお伝えします。
1. **職場の文化改善**
– コミュニケーションを促進するために、定期的なミーティングやフィードバックセッションを設ける。
– スタッフ間の協力を促進するためにチームビルディング活動を行う。
– 職場の環境を明るく和やかなものにすることで、職場の雰囲気を改善。
■実際に頂いた声
『先輩であっても上司であっても、ちゃんと意見をぶつける場があると良い』
2. **教育とサポートの強化**
– 新入職員へのオリエンテーションプログラムを充実させる。
– 経験豊富な職員によるメンタリングプログラムを導入。
– 職員が直面する問題に対して、相談やサポートを提供するための体制を整える。
■実際に頂いた声
『利用者さんが何を求めているのか知る機会が事前にあるだけで全然違う』
3. **職員のモチベーションと承認**
– 職員の努力や達成を認めることでモチベーションを高めるために、表彰制度を設ける。
– 小さな成功も積極的に称賛し、職員の貢献を評価する。
■実際に頂いた声
『困った時に、手を差し伸べてくれる上司にあこがれる』
4. **ワークライフバランスの向上**
– 柔軟な勤務時間やシフト制を検討し、職員のプライベートな時間の確保を支援。
– 必要に応じて職員の健康を支援するためのリソースや情報を提供。
■実際に頂いた声
『代替要員がスムーズに用意できるようなシフト(人員配置)を希望している』
5. **職場での健康と安全の向上**
– 安全な労働環境を確保するためのプロトコルを策定し、適切なトレーニングを提供。
– 職場の安全対策を定期的に見直し、改善する。
■実際に頂いた声
『スタッフを“突き放す”ような方針の会社は今後の競争の中では続かないと思う』
これらの手法は、大きな予算を必要とせずに、職員の満足度と職場での長期勤務(定着)を促進することができます。職員が働きやすい環境を整えることが、離職率の低下と定着率の向上に直結します。
さらに考えておきたい“理想の事業所”になるための8つのポイント
現状できる対策に加えて、訪問介護で働く方が理想としている訪問介護事業所には「どういった要素があるのか?」について調べてみました。
今すぐ取り組むには難しい要素もありますが、以下のようなものが考えられます。また、退職した方たちに聞いた理想についても声を集めてみました。
1. **適正な報酬と福利厚生**
– 競争力のある給与体系と、健康保険や退職金制度などの充実した福利厚生が重要です。
2. **明確なキャリアパスと成長機会**
– 昇進や専門スキル習得のためのトレーニングプログラムを提供することで、職員のキャリア成長をサポートします。
3. **労働環境の質**
– 安全で清潔な労働環境を確保し、必要な設備や資材を提供することが求められます。
4. **柔軟な勤務スケジュール**
– ワークライフバランスを重視する求職者にとって、柔軟な勤務時間や休日の取得が容易な職場は魅力的です。
5. **尊重と支援のある職場文化**
– 開かれたコミュニケーション、正直で透明性のある経営、職員間の協力を促進する文化が求められます。
6. **定期的なフィードバックと評価**
– 定期的なパフォーマンスレビューを通じて、フィードバックを受け、自身の業務改善につなげられる環境が重要です。
7. **職場での安全と健康への配慮**
– 物理的な安全だけでなく、精神的な健康も支援する施策が整っていることが望ましいです。
これらの要素を充実させることで、求職者にとって魅力的な職場を提供し、優秀な人材の獲得と保持が期待できます。
実は今お伝えした8つの要素の中にも、“離職防止と定着向上に向けてコストをかけず始められる対策5選”でご紹介した対策の中に含まれる内容もあります。
多くの職員さんは『利用者さんのために精一杯頑張りたい』という強い想いを持って働いて下さる一方で『自分の働きをしっかり見て欲しい』という気持ちも併せ持っています。
スタッフの頑張りに対して事業所側が『しっかり見ているよ』というレスポンスは必須の要素となります。
まとめ
訪問介護は慢性的に人手不足している現状を抱えています。そういった中で、“選ばれる事業所”であるために必要なアプローチは多岐に渡ります。
待遇の改善や働きやすい環境の整備だけではなく、離職を発生させないための予防策をどれだけ講じることが出来るのか?といった対策が人手不足を乗り越えるポイントとなります。
訪問介護事業を営む中で人材の安定的な定着と離職低減のためには、専門家によるコンサルティングを受けることが重要です。
第三者的な観点から有益なアドバイスを得られ、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
土屋総研は、日本全国で福祉・看護に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。全国で訪問介護事業の展開も行っていることから同業者へのコンサルティングも行っています。
土屋グループは、多数の事業承継、M&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、スタッフや管理職の教育など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。
将来的な活動のために、しっかりとした基盤を築きながら設立を進めていきましょう。
↓『土屋総研』へのお問い合わせはこちらから