訪問介護の特定事業所加算とは
特定事業所加算は、平成18年(2006年)の厚労省告示において創設され、介護福祉士等の人材を確保しているなど、質の高い介護サービスを提供している事業所を段階的に評価する加算を言います。
また、介護度の高い利用者にも介護サービスを提供している事業者を評価するものでもあり、地域における介護サービスの向上が目的とされています。
特定事業所加算には、以下の3つの分類があります。
①居宅系サービスで取得できる加算(介護保険法の居宅介護支援:ケアマネ)
②訪問介護系のサービス(介護保険上の訪問介護)
③障害福祉サービスの障害居宅系(居宅介護、行動援護、同行援護)および重度訪問介護
それぞれ算定要件が異なり、一定の条件を満たし、届け出を行うことで加算が支給されます。
この記事では、②訪問介護系のサービス(介護保険上の訪問介護)の加算について、最新の令和3年より解説します。
特定事業所加算の種類と加算割合
特定事業所加算には5つの種類があり、それぞれ要件と加算率が設定されています。
・特定事業所加算(Ⅰ):所定単位数の20%を加算
・特定事業所加算(Ⅱ):所定単位数の10%を加算
・特定事業所加算(Ⅲ):所定単位数の10%を加算
・特定事業所加算(Ⅳ):所定単位数の 5%を加算
・特定事業所加算(Ⅴ):所定単位数の 3%を加算
訪問介護はⅠ~Ⅴまであり、Ⅰの要件を満たすと、算定率は20%となります。同様に、ⅡあるいはⅢを満たせば、算定率は10%。Ⅳは5%で、Ⅴは3%です。
なお、ⅣとⅤは合わせて算定することが可能で、両方算定することで8%の加算になります。
特定事業所加算は、加算率を基本報酬(サービスにかかる基本となる部分)にかけて計算する加算です。
訪問介護費の基本部分 | ||
身体介護 | ①20分未満 | (167単位) |
②20分以上30分未満 | (250単位) | |
③30分以上1時間未満 | (396単位) | |
④1時間以上 | (579単位に30分を増すごとに+84単位) | |
生活援助 | ①20分以上45分未満 | (183単位) |
②45分以上 | (225単位) | |
通院等乗降介助 | (1回につき99単位) |
例えば訪問介護の身体介護であれば、③30分以上1時間未満のサービスは396単位が報酬単価となり、ここに特定事業所加算の算定率を掛け算することになります。
何の加算もなければ396単位ですが、特定事業所加算のⅠ(20%)を算定した場合は、396×0.2=79.2となりますので、それがプラスされることになります。
つまり、396+79.2=475.2単位となります。
特定事業所加算のⅠ(20%)を算定した場合、全体の2割ではなく、基本部分の×2割、その他となりますので、前月の報酬と比較して、1.2倍弱や1.1倍弱といった数字になると思います。こちらが事業所の収益アップにつながる、大きなメリットです。
ただし、訪問介護においては、現在のところ、特定事業所加算に区分支給限度基準額が適用されます。ここが、特別地域加算や処遇改善加算との大きな違いです。
特定事業所加算では、支給の総単位(要介護5だと通常36000単位前後)の中に特定事業所加算も含めてケアマネさんにプランを組んでもらうことになります。
そのため、利用者の使うサービスに若干調整が生じてしまうことも想定されるなど、少なからず利用者の経済的な負担にはなります。例えば、特定事業所加算をとって単位が増えたために、利用者の方にサービスを少し減らしてもらうなどの調整が生まれてしまう可能性があり、デメリットといえます。
特定事業所加算は、この利用者には適用するが、この利用者には適用しないというように、個別に申請することはできません。事業所としては、加算を取得するかしないかの二択になりますので、利用者の方への丁寧な説明が必要となります。
特定事業所加算の算定項目
算定要件には、体制要件、人材要件、重度者対応要件の3つがあります。加算Ⅰは20%と加算率が高いので、満たすべき算定要件はより多くありますが、加算率が低くなるにつれて、満たすべき要件が少しずつ減ります。
算定要件 | (Ⅰ) | (Ⅱ) | (Ⅲ) | (Ⅳ) | (Ⅴ) | |
体制要件 | ①個別研修計画の策定と実施 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
②技術指導を目的とした会議の開催 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
③サービス提供責任者と従業者との報告体制の整備 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
④訪問介護員等に対する健康診断の実施 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
⑤緊急時における対応方法の明示 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
⑥新規に採用したすべての訪問介護員等に対する同行による研修の実施 | ||||||
人材要件 | ⑦訪問介護員等の資格割合に関する要件 | 〇 | △ | |||
⑧サービス提供者の実務経験 | 〇 | △ | ||||
⑨1人を超えるサービス提供責任者を配置することとされている事業所において、常勤のサービス提供責任者を2名以上配置していること | 〇 | |||||
⑩訪問介護員等の総数のうち、勤続7年以上の者の占める割合が30%以上 | 〇 | |||||
重度者対応要件 | ⑪利用者のうち要介護度4、5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする者の占める割合が20%以上 | 〇 | 〇 | |||
⑫利用者のうち要介護度3~5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする者の占める割合が60%以上 | 〇 |
体制要件
1つ目の体制要件について解説します。
①個別研修計画の策定と実施
体制要件のまず1つ目は、「個別研修計画の策定と実施」で、事業所のすべての従業員に対して策定する必要があります。つまり、正社員や常勤職員のみならず、アルバイト・パート、登録の方にも個別研修計画が必要です。
個別研修計画に記載する項目は、目標・内容・研修期間・実施の時期等で、全員一律のものを作成して配るやり方は問題とみなされますが、複数のグループに分けて作成することは許容されています。
【例】
Aグループ:サ責やサ責に準ずる方々
Bグループ:介護経験1年以上の方
Cグループ:介護経験1年未満の方
このように職位職責や経験によってグルーピングするほか、資格や本人の意向でもグルーピングの根拠は可能となっています。
また研修期間についての定めは特にありませんが、職員が1年間に1回以上研修を受けられるようにする条件がありますので、年間計画を立てるのが無難です。
当然ながら、誰がどの研修に参加したのかという記録は欠かしてはなりません。自治体によっては、出席してどのような感想やレポートが上がっているかという点まで実地指導で確認されることもあります。
なお、研修については社内開催だけでなく、外部機関で開催されている研修や動画視聴の研修も認められています。ただし、他社の研修を使用する場合の費用については会社負担する必要があるのでご注意ください。
②技術指導を目的とした会議の開催
体制要件の2つ目は、従業者の技術指導を目的とした会議を開催しているかどうかです。
会議内容もある程度定められており、利用者に関する情報もしくはサービス提供にあたっての留意事項の伝達、または技術指導等を目的とすることが必要だと謳われています。
こちらの会議の開催については、以下が求められます。
・サ責(サービス責任者)が会議を主催
・訪問介護員等のすべてが参加しなくてはいけない
・議事録の作成
・欠席者への適切なフォロー(内容を必ず伝達しているか)
サ責全員が会議を欠席していた場合は会議として認められません。また、会議は開催したものの、参加者や欠席者、内容、出された意見などの議事録がなければ不適切ということになってしまいます。
そのほか、出席者の方とさまざまな議論をして多様な意見を主張してもらったが、欠席者の方に内容を伝えず放置してしまうのも不適切です。
欠席者に対しては、以下の3つのうちのいずれかを行う必要があります。
①欠席者対象の会議を改めて開催する
②議事録を渡して内容を口頭で説明する
③メール等で議事録を送った場合は、欠席者から内容確認をもらう
会議の頻度については、訪問介護と障害居宅系についてはおおむね1ヶ月に1回以上の開催が必須です。全員一堂に会さず、サ責ごとのグループに分かれて開催してもよく、オンライン上での開催やSNSツールを使用して行う会議(文書会議など)もある程度許容されています。
事業所によっては、常勤職員だけを対象に会議を開催しているところもあると思いますが、特定事業所加算の算定要件で必要とされているのは全職員が対象となる会議です。
内容についても事務事項の一方通行の周知通達だけではなくて、利用者に関すること、サービス提供にあたっての留意事項、そして技術指導をかならず目的としたものになるようにサ責の工夫が必要になります。
③サービス提供責任者と従業者との報告体制の整備
体制要件の3つ目は、サ責と従業者との報告体制の整備をしているか、実際にサービス提供に当たる訪問介護員とサ責とで報告・連絡・相談(ホウレンソウ)ができているかという点です。
この報告・連絡・相談は、内容についても指定があります。
1.利用者のADLや意欲
2.利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望
3.家族を含む環境
4.前回のサービス提供時の状況
5.その他必要な事項
この内容を、必ず文書で伝達することが大切です。メールはOKですが、電話のみ、あるいは会って話をして伝えたのでは共有不足となっています。
報告の頻度は、1日のサービス前にサ責の方が留意事項を伝達し、サービス後に訪問介護員が報告するという、毎回のサービスごとのキャッチボールが想定されています。
ただし、以下のケースに関しては、サ責は訪問介護員に対し、その日の仕事始めの前に、訪問予定の利用者に関する伝達事項をまとめて伝え、訪問介護員は仕事終わりに報告をサ責にまとめて行って良いともされています。
・訪問介護員が1日に同じ利用者を2、3回訪問することが予定されている場合
・1日に複数の利用者を訪問する予定が組まれている場合
その日がサ責の休日に当たる場合は、従業員同士で報告を適切に行うことも可能とされています。
なお、「5.その他の項目」は変更があった場合のみで足りるとされています。
④訪問介護員等に対する健康診断の実施
体制要件の4つ目は訪問介護員等に対する健康診断の実施です。
少なくとも年に1回、訪問介護員全員(登録ヘルパーや非常勤ヘルパーを含む)が対象で、費用は事業所負担となります。
ただし毎年9月に健康診断を実施しているという事業所において、10月に入社された方には翌年9月に実施が見込まれていれば問題ありません。
登録ヘルパーで、ダブルワーク、トリプルワークをされている方から、掛け持ちの仕事先で健診を受けたから個々の事業所では受けたくないという申し出があった場合は、他社で受けた健診結果を事業所に提出してもらうことになります。
⑤緊急時における対応方法の明示
体制要件の5つ目は、緊急時における対応方法の明示で、いずれの加算を算定する場合にも必須となっています。
事業所で、利用者に緊急事態が起きた時の対応方針、緊急時の主治医や事業所の連絡先、および事業所の対応可能な時間帯を記載した文書を交付する必要があります。
この文書については重要事項説明書でも良いとされていますので、そちらを活用するのが効率的です。
⑥新規に採用したすべての訪問介護員等に対する同行による研修の実施
こちらは訪問介護では要求されていないものとなります。
人材要件
次に、人材要件について解説します。
人材要件では、加算の算定率Ⅰ~Ⅴのうち、どの算定率を使うかで、必要な要件がかなり異なりますので注意が必要です。
また、従業員の人事異動や退職で、人材要件を満たさなくなった場合は、加算の算定そのものができなくなりますので、毎月の確認が必要となります。
⑦訪問介護員等の資格割合に関する要件
まず1つ目は、従業員の資格割合に関する要件です。
訪問介護では、この資格割合に関する要件は、以下の2つです。
1.介護福祉士が30%以上であること。
2.介護福祉士+実務者研修修了者+介護職員基礎研修課程修了者+ヘルパー1級修了者の合計が50%以上であること。
⑧サービス提供者の実務経験
サービス提供者の実務経験として、すべてのサ責が3年以上の実務経験を有する介護福祉士、または5年以上の実務経験を有する実務者研修・基礎研修・ヘルパー1級修了者であることです。
この実務経験は、施設・在宅問わず介護に従事した時間であり、資格取得前の期間も含まれます。
また介護福祉士、実務者等については修了証明書までは求められておらず、介護福祉士試験の合格発表が2月末であった場合、合格者の方は3月からの加算算定に含めても良いことにはなっています。ただし、登録証や修了証明書の提出は速やかにしていただくことが重要です。
⑨1人を超えるサービス提供責任者を配置することとされている事業所において、常勤のサービス提供責任者を2名以上配置していること
月のサービス提供時間利用者や職員の数によって、各事業所でサ責の必要人数が変わると思いますが、2人以上が必要とされる事業所においては、一人目も二人目も常勤の方を配置する必要があるという要件です。
⑩訪問介護員等の総数のうち、勤続7年以上の者の占める割合が30%以上
こちらは訪問介護の加算選定のⅤで必要とされる要件で、新設されたものです。
また、ここで言う勤続年数は同一法人内の介護福祉事業で介護した経験年数も含めます。
重度者対応要件
つ目の重度者対応要件は、要介護度、障害支援区分、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする方への支援の割合がどのくらいかが要件となる加算です。
⑪利用者のうち要介護度4、5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする者の占める割合が20%以上
加算算定時のⅠとⅢで必要とされているものです。
利用者のうち、要介護4と5であるもの、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする者の占める割合が20%以上であるというのが要件です。
⑫利用者のうち要介護度3~5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする者の占める割合が60%以上
加算算定時のⅣで必要とされているものです。
利用者のうち要介護度3~5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、喀痰吸引等の医療的ケアを必要とする者の占める割合が60%以上であるというのが要件です。
以上が加算の算定のそれぞれの要件ですが、加算の算定率によって満たすべき要件というのが異なるので、実際の算定では事前にしっかりと確認する必要があります。
特定事業所加算の算定をするにあたっての注意点
特定事業所加算の算定をするには届け出をしなくてはいけません。届け出をするためには一定の要件を満たしている必要があり、なかには届け出時に3ヶ月の実績を必要とすると言った項目もあります。思い立ったらすぐ加算の算定ができるわけではありません。
届け出のスケジュールは、以下の流れで行うのが理想的です。
①算定開始の4ヶ月前に各種要件の学習ならびに検討を事業所や法人等でする
②3ヶ月前からは必要な実績作りを記録と共に開始する
③2ヶ月前にその届出書の書類を作成して
④1ヶ月前に各自治体に届け出をする
ただ自治体によっては、必要とする実績は前月分のみで問題なかったり、算定の届け出は1ヶ月半前とするなどのルールを設けていたりすることがあります。
まずは各自治体の出している特定事業所加算のチェックリストなどを確認するのがベストです。
届出書と共に体制届(処遇改善加算、地域加算など、事業所の全体を通して取得している加算届をまとめた書類)を提出し、算定が開始されます。
体制届も自治体フォーマットがあるので、取り寄せて提出するようにしてください。
特定事業所加算の取得でお悩みの方は土屋総研にご相談ください
特定事業所加算を取得するにあたって体制を整えたい、届け出の仕方がわからない、という方もいるでしょう。
介護業界は他の産業と異なる特性があるため、改正への備えに不安のある介護事業所においては、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。
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