訪問介護の4割は赤字|廃業・閉鎖の理由や赤字を防ぐ5つの方法を解説

コロナ禍、物価高、人材不足などにより、介護業界は厳しい状況に立たされています。なかでも訪問介護事業所は赤字経営が多く、公共性の高い必要不可欠な存在でありながらも、廃業に至るケースもしばしば見受けられます。 この記事では、事業所の廃業・閉鎖の理由や赤字を防ぐ方法について解説します。


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訪問介護事業所の4割が赤字に

福祉医療機構(WAM)の調査レポートによると、2021年度の決算で、訪問介護事業所の約4割(40.1%)が赤字であることが明らかとなりました。

また、黒字事業所と赤字事業所を比較すると、黒字事業所のサービス活動収益は、赤字事業所と2倍近い差があり、赤字事業所ではサービス提供回数が少なく、「身体介護」の割合が低いために収益も低くなっているとされています。

出典:「2021 年度(令和 3 年度)訪問介護の経営状況について」(独立行政法人福祉医療機構)

訪問介護事業者の廃業・倒産件数

東京商工リサーチの調査によると、2022年の老人福祉・介護事業の倒産件数は過去最多(介護保険制度が開始された2000年以降)となりました。

倒産件数は143件で、新型コロナ関連倒産も前年比5.7倍の63件と急増しています。

倒産件数が増えた背景には、新型コロナウイルス感染症の収束見通しが立たずにいたコロナ禍の影響や、近年のコスト高による影響が大きいと考えられています。

業種別では「通所・短期入所介護事業」が69件と最も多く、訪問介護も50件と、それに次いで多くなっています。感染リスクを回避すべく利用控えが進んだことや、介護人材不足もその要因に挙げられています。

出典:「コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~」(東京商工リサーチ)

訪問介護事業所が赤字・廃業・閉業する理由

相次ぐ倒産など、厳しい状況に置かれている介護業界ですが、ここでは訪問介護事業所が赤字・廃業・閉業する原因・理由について詳しく解説します。

介護報酬改定の影響

訪問介護事業所は収益の多くを介護報酬が占めますが、介護報酬自体は国が単価を決定し、3年ごとに介護報酬の改定が行われます。

この際に報酬単価の削減等があれば、事業所の運営は一気に厳しくなります。また、どのような見直し方針が発表されるかなど、改定の如何によっては事業に多大な影響が及ぼされます。

事業所の運営に必須の加算においても、新設や廃止などもあることから、加算に依存しすぎることは、却って赤字を招くおそれもあります。

とはいえ、事業所の経営状況を一気に押し上げる特定事業所加算は取得の必須項目です。

*特定事業所加算に関する詳細は下記のページでご紹介しています。
訪問介護の特定事業所加算とは|加算割合や算定要件をわかりやすく解説

慢性的な人手不足

訪問介護業界では、慢性的な人手不足も赤字・廃業・閉業の要因のひとつです。

厚生労働省の調査によると、訪問介護の受給者数数が2021年時点で約153万人であり、2018年度から7万人以上増加している一方で、介護人材は減少傾向にあります。

こうした人手不足により、利用者が満足のいくサービスを受けられなかったり、介護者がいなかったりすることでサービスを断られる状況も発生しています。

また、事業所側も評価が下がるのみならず、人材を呼び込むために給与を上げるなどで人件費が上昇し、経営が苦しくなることも赤字・廃業・閉業の要因となっています。

出典:「令和3年度 介護給付費等実態統計の概況」(厚生労働省)

物価高の影響

近年の物価高も経営難の大きな要因です。新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢により物価が高騰し、とりわけガソリン価格の急騰は、車両を使用することの多い訪問介護事業所に多大な影響を与えています。

訪問介護事業所の赤字を防ぐ5つの方法

ここからは、訪問介護事業所の赤字を防ぐ方法、さらには売上アップを目指す方法を詳しく解説します。

1. 訪問回数や日数を増やす

売上が落ち込む原因として、訪問回数が少ないことが挙げられます。訪問介護事業では、売上は「サービス単価×利用回数×利用者数」となり、訪問回数が少ないと収益が十分に得られないことにつながります。

そのため、売上のアップを図るには、訪問ルートを見直して効率的に利用者宅に伺えるルートを組んだり、訪問回数や日数を増やしたりすることが効果的です。週に1回の利用者に、週に3回利用してもらうことで売上はその分アップします。

2. 事務・管理業務を効率化する

膨大な内勤業務は現場スタッフに負荷を与える要因のひとつです。従業員一人あたりの生産性を高めるためにも、ICTを活用して業務の効率化を図り、負荷を減らすことは重要です。

事務・管理業務に対するITツールは多数存在しており、適切なツールを導入することで経費や人件費を削減できることにもつながります。IT化には国や自治体からの補助金もあるので、活用してみるのもおすすめです。

3. 質の高い訪問介護サービスを提供する

サービスの質が上がると、それに伴って利用者の満足度も上がります。質の良いサービスを提供できれば、おのずと利用回数の増加につながり、売上アップが図れます。

質の高いサービスを提供するためにも、マネジメント人材の配置もおすすめです。価値があると感じると、対応を求められるケアサービスも増え、報酬も高く設定されることになります。

頻繁な利用につなげるためにも、介護スタッフ自身が「利用者は何を希望し、喜ばれる対応は何か」「安心してもらうには何が必要か」について意識してケアをすることが重要です。

そのためにも、スタッフに対する教育や研修、リスクマネジメントの徹底も必要でしょう。

4. 利用者満足度を調査する

アンケートなどを通して利用者満足度ニーズを把握することは非常に有益です。スタッフのサービスは適切か、食事はおいしいか、スタッフは丁寧か、安心してサービスを利用できているかなどを調査し、改善点を洗い出すことで適切な運営に生かすことができます。

利用者のニーズに合ったサービスの提供ができれば、おのずと利用回数の増加につながります。

5. 利用者獲得を目指して営業する

訪問介護事業所は同じ地域内でも多くあります。そうした中で利用者を獲得するには、営業ブランディング戦略が欠かせません。魅力のあるホームページを作成し、ブログやSNSなどで事業所の取り組みや雰囲気、サービス内容など、強みをアピールしましょう。

訪問介護事業所の閉鎖手続きの流れ

もし訪問介護事業所を廃業することになった場合、以下の対応が必要となります。

1.都道府県等(指定権者)へ廃業の相談をする
2.廃業の日程が決まった後、従業員や関係各所(地域包括支援センターや他事業所)へ廃業を報告する
3.利用者やご家族に廃業を報告する4.ケアマネージャーと連携し、利用者の受け入れ先等、別事業所のサービス利用を調整する
5.都道府県等へ必要書類(廃止・休止届出書)を提出する
6.従業員対応(異動・離職・再就職等)を行う
7.事業所を廃業・閉鎖する

訪問介護事業所が赤字になったときの選択肢

訪問介護事業所が赤字になった際には、事業を立て直して存続するのがひとつです。一方、事業所の閉鎖を考えるに至る場合には、主に廃業事業継承(M&A)の2つがあります。

廃業の場合、代表者だけ退任することができ、引継ぎ先を探して事業を引き継ぐことができます。

M&Aを選択した場合は、利用者へのサービス提供や従業員の雇用が継続できます。介護事業所の経営者は目の前の利用者・従業員を真摯に思われる方が多く、M&Aでは利用者・従業員に安心を与えられることが大きなメリットです。また、これにより、譲渡した後の従業員・利用者との契約トラブルを減らすことができます。

なお、M&Aでは譲渡対価が支払われるため、廃業するよりも費用負担が少なくなる可能性もあります。

まとめ

訪問介護の経営を安定させるなら、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界の専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。

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