倒産件数が過去最多となるなど、厳しい状況に置かれている介護業界ですが、倒産・廃業を防ぐには赤字経営からの脱却が不可欠です。そのためにも、デイサービスの稼働率を上げることは必要不可欠です。
この記事では、デイサービスの稼働率を上げる方法を、計算方法や全国平均も交えて解説します。
デイサービスの稼働率の計算方法
デイサービスの稼働率とは、「事業所で受け入れ可能な最大人数に対し、どの程度の割合で利用されているか」を示す数値です。
稼働率の計算方法は、 1ヶ月の延べ利用者数 ÷ (営業日数 × 1日の利用定員 )で算出します。
<稼働率の計算例>
1ヶ月の営業日数:24日
1日の定員:30名
1ヶ月の延べ利用者数:600名
この場合、稼働率は、600人 ÷ ( 24日 × 30人 )= 83.3%で、稼働率が83.3%の施設ということになります。
デイサービスの稼働率の全国平均
独立行政法人福祉医療機構が2021年度に実施した「通所介護事業所の経営状況について」によりますと、デイサービスの稼働率の全国平均と赤字事業所割合は以下のようになります。
【デイサービスの稼働率の全国平均】
地域密着型:73.5%
通常規模型:68.4%
大規模型(Ⅰ):74.7%
大規模型(Ⅱ):74.7%
【赤字施設割合】
地域密着型:44.3%
通常規模型:48.5%
大規模型(Ⅰ):37.2 %
大規模型(Ⅱ):34.3%
例年と比較して、区分に関わらず、赤字割合は年々増えている傾向にあります。
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地域密着型:定員18人以下
通常規模型:定員19名以上かつ前年度の1月当たり延利用者数750人以内
大規模(Ⅰ):定員19名以上かつ前年度の1月当たり延利用者数751人以上900人以内
大規模(Ⅱ):定員19名以上かつ前年度の1月当たり延利用者数901人以上
出典:「2021 年度(令和 3 年度)通所介護の経営状況について」(独立行政法人福祉医療機構)
デイサービスの稼働率が低下すると赤字の原因になる?
稼働率が低下し、売上が減少する状態が続くと、赤字となります。デイサービスの稼働率が落ちる理由はさまざまありますが、主なものは「デイサービスの利用者が少ない」「利用者が頻繁に休んでいる」といったことが原因となります。
また、赤字の原因としては、「稼働が低いにも関わらず人件費率が高い」、「加算を取得していない」なども挙げられます。
デイサービスの稼働率を上げる方法7選
赤字経営に陥らないために、ここでは、デイサービスの稼働率を上げる方法を7つに絞って紹介します。
営業して新規の利用者を獲得する
定員数へ利用者数を近づけ、稼働率100%を目指すためには、新規の利用者を増やすことが重要です。そのために必要なのが営業です。
地域包括支援センターや居宅介護支援事業所、医療機関や地域住民などに営業を掛けると、ケアマネジャーなどから地域の高齢者にサービスを紹介してもらえることがあります。
ケアマネジャーとの信頼関係の構築を意識すると、サービスを紹介してもらいやすくなります。そのためにも営業の際には、ケアマネジャーに適切な事業所・利用者情報を伝えることがポイントです。事業所の利用者の状況や関わり方、事業所の雰囲気や特徴なども、パンフレットを用いるなどして、わかりやすく伝えられるようにしておきましょう。
介護報酬加算を漏れなく取得する
介護報酬加算を取得することは売上アップにつながり、採用費、事業所の設備投入等に資金を回せます。これが、ひいては稼働率のアップにも影響します。そのため、加算は漏れなく取得しましょう。
加算の算定要件を満たしているか、まずは事業所の体制を確認することが大切です。通所介護(デイサービス)で取得できる主な加算として、以下が挙げられます。
・個別機能訓練加算
・口腔機能向上加算
・運動器機能向上加算
・科学的介護推進体制加算
・ADL維持等加算
・生活機能向上連携加算
・栄養スクリーニング加算
・栄養改善加算
・栄養アセスメント加算
・認知症加算
・若年性認知症利用者受入加算
・延長加算
・中重度ケア体制加算
・入浴介助加算
欠席者の対策をする
欠席者が一人でもいれば稼働率は下がります。そのため、新規の利用者確保だけではなく、キャンセルを減らすことが重要です。欠席が多い利用者に対しては、以下の方法を実施してみるのがおすすめです。
・休みがちな方のリストアップ
デイサービスを欠席される方に規則性(特定曜日等)が無いか?チェックしてみましょう。また、季節性や天候に左右されるものであれば、既往症等、体調不良も考えられます。そういった視点から『なぜ欠席するのか?』を明確にすることで、稼働率の回復を目指すことも可能となります。
・利用前日の電話連絡
利用者の中には身体機能の衰え以上に認知機能の衰えが大きいケースもあります。認知症ではないものの“物忘れ”が強く出る傾向がある方に対しては、利用前日の電話連絡や声掛けを行うことでの“意識づけ”を行うことで稼働率の低下を防ぐ対策となります。
・振替利用の促進
ご自身の都合やご家族の都合によって欠席となる場合、当月内の振替利用が可能である旨を事前にご家族含めお伝えする事や、お休みとなった際に電話連絡を行い、振替利用の促進を提案しましょう。ただし、その日ごとに実施しているレクリエーション等によっては振替を希望されないケースもあり得るため、留意してください。
・皆勤賞等の動機付け
年齢が高くなることで、億劫さや意欲が低下する事は否めません。少しの躓きであっても本人にとっては大きなハードルになること想定されます。まずは継続的に利用してもらうことを本人との間での目標設定として、皆勤賞等の動機を持たせることで自発的な利用の促しを行うことにもつながります。
競合分析を行う
自社だけを見ていると、なかなか改善のアイデアは出てきづらいものです。
そのため、同じ地域内のデイサービスやデイケア施設など、地元で評判の良い事業所の情報はチェックしておきましょう。競合他社の魅力のポイントを情報収集するなどして、自社の改善に生かすことも大切です。
また、ケアマネジャーから情報を得たり、地域の同業者の集まりなどで情報を取得したりすることで、自社を客観的・俯瞰的に見ることができ、サービスの改善点が見つかることもあります。
利用者の満足度を高める
利用者の満足度を高めることは、キャンセル率を低下させ、新規の利用者を増やすためにも必須です。そのためにも、利用者が自社のデイサービスを利用している理由を明確にし、サービス満足度上げることを目指しましょう。
そのためには、まずは利用者の声を聴き、利用者の目標を一緒に見つけるなどして、生きがいを感じてもらえるような対応が重要です。
また、自社が優れている部分を明確にした上で、そこに経営資源等を集中することで、他社との差別化を図ることが重要です。
スタッフの業務状況を見直す
利益率をアップするには、収益をあげることも大切ですが、人件費を抑える必要もあります。そのため、スタッフが効率的に仕事できるように、業務状況を見直しましょう。そのためには、事務等のICT化を図ることが効果的です。事務に掛かる時間を削減できるのみならず、事務作業の負担の軽減は、スタッフの満足度の向上にもつながります。
スタッフの満足度が上がれば、ケアの質も向上します。それが利用者満足度にもつながり、稼働率のアップに寄与します。
従業員満足度を上げるためにも、スタッフのことをよく知り、話し合える環境、働きやすい環境づくりが大切です。業務効率や体制を改善することで、稼働率はアップします。研修・セミナー制度を充実するなど、スタッフの能力を伸ばすことも意識しましょう。
自社の特色を売り出す
自社の特色を売り出して、利用者の稼働率を上げましょう。例えば、リハビリは利用者が単調に感じやすいものですが、日本シニアライフ株式会社が運営する「デイサービス ラスベガス」では、リハビリを継続して行えるように、ゲーミングの要素を取り入れ、利用者が自ら「行きたい」と思える場所を作っています。
事業所にはそれぞれ特色があります。自社の特色を見つめ、あるいは探し、ぜひそれを打ち出して稼働率を上げましょう。
出典:「デイサービス ラスベガス」(日本シニアライフ株式会社)
まとめ
デイサービスの稼働率がなかなか上がらないことに、お悩みの経営者も多くおられると思います。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
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