高齢化が進み、介護のニーズがますます増えている昨今。「いつかは自分の介護事業所を立ち上げたい」と考えている方に向けて、独立開業するための基礎知識をお伝えします。
介護で独立開業するための必要条件
介護事業を立ち上げるためには、以下2つの条件を満たす必要があります。
- ・法人格の取得
- ・事業者としての指定を受ける
それぞれ詳しくみていきましょう。
法人格を取得する
介護事業は、個人事業主やフリーランスでは営業できません。開業するためには、まず法人を立ち上げる必要があります。社会福祉法人や医療法人、株式会社、合同会社といった形が認められています。
介護事業者としての指定を受ける
法人格を取得したら、次は介護事象者として自治体に届け出て、指定を受ける手続きを進めます。指定を受けるには、人員基準、設備基準、運営基準など、さまざまな要件を満たす必要があります。
過去に指定の取り消し処分を受けている場合は、一定期間経過していないと申請できないので注意が必要です。
法令などが関わる煩雑な手続きで、個人で行うのは負担が大きいため、申請は専門家に任せるのがおすすめです。また、指定の有効期間は6年間のため、期限前に更新する必要があります。
介護事業の主なサービス形態
介護事業といっても、形態はさまざまです。ここでは主なサービス形態について解説していきます。
訪問介護
要介護の利用者の自宅に訪問介護員が出向き、食事、入浴、排泄などの介助を行います。家事や通院時の車の乗降などを支援する場合もあります。
自宅に出向くため施設を用意する必要はありませんが、事務所や備品、移動手段などを整える必要があります。
また、サービス提供責任者は介護福祉士資格、介護福祉士実務者研修、介護職員基礎研修(旧資格)、ホームヘルパー1級(旧資格)のいずれかを持っている必要があります。
デイサービス
利用者が自宅から施設に通って受けるサービス形態。身体や精神に障害があり、日常生活を送るのに支障がある65歳以上の人が対象です。
入浴や食事、機能訓練(体操や排泄の練習)、介護方法の指導などを提供するほか、ゲームや創作活動といったレクリエーションを行うのも特徴です。
広いスペースと基準に見合ったスタッフを用意する必要があるため、開業には多額の資金を要します。
居宅介護支援
居宅介護支援は、要介護認定を受けた人が、できる限り自宅での生活を続けられるよう支援するサービスです。介護支援専門員(ケアマネジャー)が本人や家族の現状や希望を聞き取り、ケアプランを作成。ケアプランにもとづいて、介護保険サービス事業所と調整を行います。
介護事業者が他のサービスと併設する場合も多いですが、ケアマネジャーが単独で開業することも可能です。
認知症対応型共同生活介護
グループホームとも呼ばれます。要介護で認知症の利用者を対象に、専門的なケアを提供します。食事、排泄、入浴の介護のほか、日常生活上の支援や機能訓練を行います。
複数人で共同生活を送る住居です。個室、居間、食堂などのスペースを要するほか、夜間対応もできるようにスタッフを確保する必要があるため、開業には多額の資金が必要になります。
認知症対応型共同生活介護
デイケアとも呼ばれます。利用者でできる限り自宅で過ごせるようにリハビリテーションを行い、運動機能の維持・回復をすることが目的です。利用者の送迎や食事・入浴などの介護も行います。
リハビリ施設のため、専門的な設備や医師、理学療法士といった医療従事者が必要です。また、送迎する車両も確保しなければならず、開業には多額の資金が必要になります。
介護事業の開業・独立にかかる費用
開業を考えるうえで、やはり気になるのが費用面。ここでは主な項目を紹介していきます。
人件費
人員基準を満たしていなければ開業申請はできないため、人材確保は必須です。例えば訪問介護の場合、常勤職員の平均給与は30万円程度とされています。
出典:「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」(厚生労働省)
たとえ利用者がまだいなくても、常勤換算で訪問介護員を2.5人確保する必要があります。開業前から給与が発生すること、サービス利用料はすぐには支払われないことから考えて、人件費は余裕をもって確保しておいたほうが良いでしょう。
事務所の家賃
事務所の取得費用、家賃、場合によっては改装費が必要になります。事業所は開業申請時点で確保されていなければなりません。開業の2ヶ月前までに申請するよう定めている自治体が多いため、早めの準備が大切です。
事務所内の備品
事務作業に必要な備品にも費用がかかります。事務机、相談室用テーブル、椅子、ロッカーなどの家具類のほか、固定電話、携帯電話、パソコン等の通信機器などを確保しましょう。
その他諸費用
備品以外にも、光熱費や通信費、事務用のソフトウェアといった出費が見込まれます。送迎がある場合は車両も必要。また、法人設立時には特許免許税や印紙代もかかります。
介護事業の独立に必要な資金を調達するには?
必要な費用を挙げると不安が増すかもしれませんが、資金調達にはさまざまな方法があります。ここでは融資と助成金について解説します。
日本政策金融公庫から融資を受ける
日本政策金融公庫ではあらたに事業を始める人に向けて、原則無担保・保証人なしで融資を受けられる「新創業融資制度」を設けています。
限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)、金利はやや高めです。選択肢のひとつとして、まずはいったん相談してみることをおすすめします。
助成金を活用する
一定の条件を満たした場合、国や公共団体から助成金を給付できるケースがあります。介護事業者が活用できる助成金の一部をご紹介します。
①介護労働環境向上奨励金
体の負担軽減、賃金などの処遇改善、労働時間や環境の改善などを進めた介護事業者のための助成金です。雇用管理を改善し、一定の効果が得られた場合は、制度の導入にかかった費用の1/2(上限100万円)。体の負担軽減のために機器を導入し、一定の効果が得られた場合は、費用の1/2(上限300万円)が支給されます。
支給を受けるためには、あらかじめ計画書を労働局に提出し、認定される必要があります。
①介護労働環境向上奨励金
ハローワークなどの紹介を通じて、高年齢者や障害のある人を継続的に雇用した場合、事業所規模に応じて助成金が支給されます。
③トライアル雇用奨励金
ハローワークなどの紹介を通じて、安定的な就職が困難な人や配慮を要する人を、一定期間試行雇用した場合に支給される助成金です。
まとめ
介護独立を目指す場合は、自身のキャリアや経験、取り組みたいこと、確保できそうな人材や費用など、一つひとつ整理した上で情報を収集することが大切です。「独立したいけど、やはり手続きや費用面が不安」という方は、まず一度専門家に相談することも有効です。
土屋総研は、日本全国で福祉に関わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。地域生活の維持を目指す福祉サービスを提供し、同業者に対するコンサルティングも手頃な価格で行っています。
土屋グループは、多くの事業承継やM&A実績、同業者向けのコンサルティング実績を有します。介護事業の独立を目指す場合は、金融機関に提出する事業計画の作成支援や資金調達など、さまざまな開業サポートを承っています。ぜひ一度ご相談ください。