介護保険制度の改正が3年ごとに行われる理由・仕組み
2000年4月に介護保険制度がスタートしてから、その時々の社会情勢や環境の変化に対応すべく、2012年以降は3年ごとに改正が行われています。
少子高齢化が進み、介護サービスのニーズが高まる一方、介護業界では人材不足が深刻化しているため、介護保険制度の維持に向けた定期的な制度の見直しや早めの対策が必要とされているのです。
介護保険制度を改正するに当たり、まず介護保険制度や介護保険サービスのあり方についての調査が実施されます。そして大きなテーマが決まると厚生労働省や財務省の部会が、それに沿って意見交換するなどし、新たなサービスや加算等、改正する事項が決められます。
2024年度介護保険制度改正の基本方針
団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」が目前に迫りつつあります。
医療・介護を問わず、さまざまなニーズを抱える要介護高齢者が急増する中、2024年度は介護保険制度の大々的な改正が見込まれているようです。地方から若者が流出し、過疎化の進む地方と都市では高齢化の実情も大きく異なります。
今回の法改正では、それらも考慮し、優先順位を明確にして介護事業計画を進めることが重要となります。
2024年介護保険制度改正の注目ポイント
介護事業者は収益の大半を介護給付で賄っており、介護保険制度の改正によっては、まさに死活問題にもつながりかねません。
新しくサービス区分が追加されたり、既存のサービスが廃止されたりすることもあるため、事業所側としては早めの対策が必要です。ここでは、2024年の介護保険制度改正に向けた政府提言より、改正の注目ポイントを解説します。
居宅介護支援事業所による予防支援事業指定
要支援1・2のケアプランを行う介護予防支援のサービスは、これまで各地区の地域包括支援センターにより提供されていました。しかし、このセンターではほかの業務も行っているため、多忙により充分なサービスの提供が難しいのが実情です。
このことを考慮し、令和6年4月から、居宅介護支援事業者も市町村からの指定を受け、介護予防支援を実施できるようになります。
処遇改善加算の一本化
これまでは介護職員処遇改善・介護職員等特定処遇加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の3種類の制度が設けられていました。いずれも介護職員の待遇改善を目的とするものです。
しかし、実際にこれらを取得するには手続きが必要です。事務の煩雑さや制度の複雑さ、利用者への負担発生などを理由に加算制度を利用しない事業所も多くいました。
そのような現状に対応するため、3種類あった処遇改善加算が集約化されました。これにともない、これまでよりも手続きが簡素化されるため、今まで制度を使ってこなかった事業所も導入しやすくなります。
また、加算の内容に関してはこれまでと大きく変わることはありません。
介護保険サービス利用に伴う自己負担2割対象者の拡大
現在、介護保険サービス対象者の9割以上が1割負担となっていますが、この基準を見直し、2割負担の対象者を増やすという改正案が出されています。
しかし、これにより利用控えが起こる可能性や、施設利用費を支払うのが困難になる場合なども想定されており、根強い反対により、2割負担の判断は2023年末に持ち越しとなりました。介護業界への影響が大きい問題であり、今後注視すべき事柄です。
通所介護事業所による訪問介護サービス提供
介護業界の中でも、訪問介護はとりわけ人材不足が顕著となっています。しかし、訪問介護は在宅で暮らす利用者にとって、日々の生活を支える重要なサービスです。
この人材不足を補うために、通所介護事業所(デイサービス)が訪問介護サービスも提供できるように改正案が出されています。
また、訪問と通所が連携することで、利用者のニーズへの柔軟な対応などのサービスの質向上も狙いとなっています。一方で、通所介護も潤沢な人材を有しているわけでもなく、効果には疑問の声も上がっているようです。
福祉用具貸与のみのケアプラン費・居宅介護支援費カット
福祉用具貸与のみでサービスを利用する場合、労力が少ないことを理由にケアプラン費をカットする案が出されています。一方で、現場からは連絡調整等もあり、そこまで労力が少ないわけでないと反対の声も多く上がっているようです。
また、廉価な福祉用具(手すりや杖など)は貸与から販売に切り替え、居宅介護支援費のカットを求める案も出されています。
多床室の室料負担見直し
特別養護老人ホームでは、多床室の室料が設定されています。一方で。介護老人保健施設と介護医療院、介護療養型医療施設では室料の負担はなく、室料相当分が介護保険給付の基本サービス費に含まれているのが現状です。
公平性の観点から、上記3施設の室料相当額を基本サービス費から除外することが検討されていますが、この3施設は医療も行われる施設であるため、慎重な意見も出されています。
また、一部の介護老人保健施設などで、多床室利用者の負担を2025年8月から引き上げる方針です。
対象となるのは、介護老人保健施設のうち、「その他型」・「療養型」・「Ⅱ型」の介護医療院です。ただし、低所得者は例外として扱われます。また、在宅復帰機能の「強化型」・「加算型」などは対象外です。
今後も引き続き在宅との負担の公平性・各施設の機能・利用実態などを踏まえて、さらなる見直しが行われます。
経営の大規模化
介護サービスの多くは小規模な法人によって運営されています。介護事業者の倒産も相次ぐ中、大規模法人ではスケールメリットが働くことから平均収支率も良好であるため、法人の大規模化・協働化によって業務の効率化や質の向上を図ろうとする案が出されています。
一方で現場からは、小規模法人が必ずしも非効率的であり、質が低いわけではないと反対の声も上がっているようです。
財務諸表の公表・経営見える化
経営の「見える化」を目的に、介護事業所の財務状況の公開を義務付ける案が出されています。
公開義務化はほぼ決定事項であり、スタッフの給与の公表についても検討されているようです。
これにより、売上や支出、人件費などのデータが誰でもアクセス可能となります。待遇の良い事業所には人が集まり、待遇が悪ければ更なる人材不足に陥る可能性も考えられることから、公表すべき情報に関して注視が必要です。
2024年介護保険制度改正で見送りが決定した事項
2024年の介護保険制度改正において、見送りが決定した注目度の高い2事項について解説します。
要介護1・2の総合事業への移行
今回見送りが決定したのが、要介護1・2の利用者を軽度者とみなし、訪問介護・通所介護・居宅介護支援などのサービスを市町村事業である総合事業に移行する案です。
訪問介護・通所介護等が総合事業になると、市町村において報酬や基準が決められることになり、介護費の抑制、人員基準の緩和による介護人材の拡大が期待できるとされています。
ただし、地域によってはサービスの質が低下したり、利用回数が制限される可能性があるなど、地域間格差の拡大が懸念されているようです。
また、要介護1・2の利用者では認知症が進行しているケースも見受けられます。総合事業への移行は、専門的なサービスを受けられないことにもつながることから、認知症等の重度化も懸案事項となり、総合事業への移行は見送られました。
ケアプランの有料化
現在、ケアマネージャーが作成するケアプラン(介護サービス計画)には利用者負担はありませんが、このケアマネジメント費用を有料化する案が検討されました。
ただし、ケアマネージャーには公平性・中立性が求められることや、利用者負担により、利用者側の意向を反映させてほしいとの圧力から、かえってケアマネージャーの負担が増える可能性もあるなど反対が根強く、今回は見送りとなりました。
介護保険サービス利用に伴う自己負担2割対象者の拡大
現在、介護保険サービス対象者の9割以上が1割負担となっていますが、この基準を見直し、2割負担の対象者を増やすという改正案が出されていました。
しかし、これにより利用控えが起こる可能性や、施設利用費を支払うのが困難になる場合なども想定されており、かつ物価高が続くなか、高齢者の生活に影響を受けるおそれがあることから、見送りの方針となりました。介護業界への影響が大きい問題であり、今後注視すべき事柄です。
通所介護事業所による訪問介護サービス提供
介護業界の中でも、訪問介護はとりわけ人材不足が顕著となっています。しかし、訪問介護は在宅で暮らす利用者にとって、日々の生活を支える重要なサービスです。
この人材不足を補うために、通所介護事業所(デイサービス)が訪問介護サービスも提供できるように改正案が出されていました。
また、訪問と通所が連携することで、利用者のニーズへの柔軟な対応などのサービスの質向上も狙いとなっていました。
しかし、複合型のサービスを提供するにあたり、「規制緩和で良いのではないか」「制度の煩雑化につながる」といった意見もみられたとのことです。
より効果的かつ効率的なサービスがないか、さらに検討を深めることになり、今回は実現に至りませんでした。厚生労働省では今後も議論を深めていく方針です。
2024年介護保険制度改正に備える対策方法とは
2024年の介護保険制度改正に備え、事業所を滞りなく運営するためにも、改正を見据えた事前の対策は必須です。ここでは、その対策方法について解説します。
財務諸表の整理・提出準備
まずは、財務諸表の「見える化」への対策が求められます。どのようなデータを提出すればよいかなど、詳細については依然、議論中ですが、今のうちから財務諸表を整理しておき、時期が来ればすぐに提出・公開できるようにしておきましょう。
2024年から、介護事業者に対して「各都道府県への定期的な財務諸表の提出」が義務付けられました。提出の対象となる財務諸表は決算書ではなく、介護サービスごと・拠点ごとの損益計算書です。これは介護事業の運営基準に規定された「会計の区分」に従って個別に作成しなければなりません。
現状では、財務状況や職種別の従事者数、従事者の経験年数、そして一人当たりの賃金などが公開する情報として提案されています。
未提出または虚偽の報告をした場合は、業務停止になったり指定取消を受けたりすることもあるため注意しましょう。
近隣施設との連携強化
2024年は介護・医療・障害福祉のトリプル改定が行われる年でもあります。介護業界は垣根を越えて、介護・医療・障害福祉のスムーズな連携と有意義な情報共有を図ることが望まれます。
入所施設における医療サービスの提供など、介護と医療の連携が進む可能性が高くなる中、今のうちから、近隣施設とよい関係を築いておきましょう。
ICT化・LIFEの導入・活用
医療機関や自治体とのスムーズな連携のために、各事業所においてもICT化やLIFE(科学的介護情報システム)の導入・活用を進めることも有効です。
2024年の介護保険制度改正から、LIFEは本格的なフィードバックを開始する予定です。LIFEにより、利用者が自身の介護情報を閲覧することができます。そのほか、介護事業所や医療機関が本人の同意の下で利用者の介護情報を活用することで、介護・医療の連携がスムーズに図られ、サービスの質の向上にもつながる可能性があります。
まとめ
介護経営を安定させるためにも、介護保険制度改正への備えは重要です。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、改正への備えに不安のある介護事業所においては、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。
専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
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