介護施設でよくあるクレーム・苦情事例とは|対処法と注意点も解説

スタッフの負担を軽減し、働きやすい職場にするためには、業務の改善が不可欠です。この記事では、介護業務を改善させるメリット、そして働きやすい環境にするためのアイデアを紹介します。


この記事は約8分で読み終わります。



介護施設の運営において、利用者やその家族からのクレームや苦情は避けられない課題です。これらの声は、施設のサービス改善につながる重要なフィードバックとなり得ます。

本記事では、介護施設でよくあるクレーム・苦情の事例を挙げ、それらに対する効果的な対処法と注意点を解説します。

施設のサービス品質を向上させ、利用者との信頼関係を築いていくためにも、ぜひ参考にしてみてください。

介護施設でよくあるクレーム・苦情事例



ここからは介護施設でよくあるクレームや苦情事例について列挙していきます。

クレーム自体発生しないような運営が望ましいと考えられますが、どうしても避けられないケースもあります。

まずは事例を知ることでその先の対応を考えることにつながります。読み進めながら、ご自身であればどのように対応するか考えながら各事例をお読みください。

【事例1】職員の対応(姿勢)が気になる


利用者や家族からのクレームで最も多いのが、職員の対応に関するものです。これには、態度の問題、言葉遣い、無視された感じがする、などが含まれます。

職員の対応(姿勢)は利用者の心理状態に大きく影響を与えるため、非常に重要です。


■よく耳にする・見かける職員の対応(姿勢)

  • ・利用者からの依頼や要望に対する対応が雑
  • ・乱暴な言葉遣いや粗暴な振る舞い、尊厳を傷つけるような発言がある
  • ・冷たい対応や人を見下したような言葉使いがある


【事例2】怪我や私物の紛失があった


介護施設での怪我や私物の紛失は、利用者や家族の信頼を大きく損なう事態です。これらは施設の安全管理や物品管理の問題と直結し、深刻なクレームにつながることがあります。


■よく耳にする・見かける事例

  • ・利用者の私物がなくなっていた
  • ・消耗品の消耗品度が異常に早い
  • ・怪我をしていることに家族が気付いた
  • ・怪我があったことに対してあやふやな受け答えがあった


【事例3】金銭に関する不満がある


料金体系の不透明さや、追加料金の発生についての不満もよく見られます。明確で理解しやすい料金体系を設定し、事前に十分な説明を行うことが重要です。


■よく耳にする・見かける事例

  • ・契約時に説明されたものと別途で料金の請求がある
  • ・利用していない介護サービスに対する実施記録を発見した
  • ・提供されていない日付の食事が請求に上がっている


介護施設のクレーム・苦情の対処法4選



さて、事例を確認いただいた皆様にはその対処法をお伝えします。

どういったケースにも対応可能な、まず先行して対処すべき内容について記載していますので、記事を読みながら皆さんが考えた対処方法に加えられるエッセンスとしてご参考いただければ幸いです。

①:傾聴を意識する


クレームや苦情を受けた際、「理不尽じゃないか?」や「聞き入れられない」といった拒否反応が出てしまうことは事態を悪い方向にさせてしまう一因です。

頭ごなしにこちらが否定からスタートすることで炎上させてしまうほか、最悪の場合、訴訟等に発展することもあります。

まずは利用者や家族が「何を私たちに告げたいのか?」という視点で相手の話を丁寧に聴くことが大切です。

なかには事業者の提供するサービス改善の機会として、あえて言いづらいことを伝える利用者や家族もいます。

傾聴することで、相手の不満の根本を理解し、適切な対応へとつなげることが必要となりますので、第一に“傾聴”することを意識しましょう。

②:心から謝罪する


「クレームがあった際、開口一番に謝罪をすることが適切なのか?」と言えばそれはまた別の問題があります。

『とりあえず謝れば済むと思っている』『謝ることだけで、原因に蓋をしてなし崩しにされるのでは?』と要らぬ誤解を生むおそれがあります。

単なる言葉上の謝罪ではなく、傾聴して相手の言い分を伺った上で、その問題が発生したことに対する心からの謝罪が重要です。相手の求める内容について明確にし、信頼を回復させていくのが、ファーストステップとなります。

③:共感しながら苦情の内容を整理する


①と②を経てからが本題に取り組むテーブルとなります。苦情の内容を整理し、共感を示しながら解決策を模索します。

この過程で、利用者や家族の意見を尊重する姿勢を見せることが大切です。事態の大小によって差異はありますが、


  • ・いつ、どういった事象が発生したのか?
  • ・その結果、どのような状況になったのか?
  • ・この状況に対して、どう考えていらっしゃるのか?


を整理していきましょう。

お互いの言い分が食い違うケースや、感情の高まりによって内容がすり替わってしまう場合もありますので、聞き取りながら、内容を書き起こして、双方の記録とすることが望ましい場合もあります。

初期対応で解決できない場合は上司に引き継ぐ


自身で解決できない場合は、迅速に上司や専門の担当者に引き継ぎます。そのため、問題を適切にかつ迅速に解決することが可能となります。

初動対応をする方(介護スタッフ自身が対応する事が多いと思います。)が“些細なこと”だと対応を誤ってしまうと、かえって印象を悪くすることがあります。

苦情について柔軟に対応できるよう、『いつ』『どこで』『誰が』『何を』『どうした』という基本的な報告ができる、事業所側の“隠蔽しない”体制作りも必要です。

二次対応を担う方は、初動対応した方がどういった対応をしたのかを理解していないと
話が食い違って不誠実だと捉えかねませんので注意しましょう。

介護施設でクレーム・苦情を受けたときの注意点


対応の姿勢については上記でお伝えした通りですが、ここからは事業所としての基本姿勢や体制作りについてお伝えします。

迅速な対応をする


クレームや苦情には迅速に対応することが求められます。時間が経過するほど、利用者や家族の不満は増大するため、速やかな対応が必要です。

事態の発生(もしくは報告を受けて)から24時間以内に事業所としてのファーストレスポンスを行うことが求められます。

内容の収集ができない場合、事態の悪化を避けるために下記例のような初動対応を行うこともあります。


■対応話法の一例

この度、〇〇と言う事象が発生したことについて報告を受けました。私の耳に届くまでにお時間を要してしまい、誠に恐れ入ります。

また、この度は○○が発生したことに関して大変申し訳ございません。私が誠実に対応させて頂きます。

つきましては現状把握を行った上で、まず●●様からのお話をお伺いさせて頂きたいと考えております。私としても何も分からぬまま、憶測のままお話を伺うのは失礼に当たりますので関連スタッフへの聞き取りのため24時間ほどお時間を頂いてもよろしいでしょうか。



■ポイント

  • ・事象の発生事態に対する謝罪を行うこと
  • ・対応を後手にしない、放置しない事を宣言すること
  • ・いつまでに対応するのか明示すること
  • ・内容によっては一定の時間を要する事の了承を得ること


事業所内で情報共有する


クレームや苦情は事業所内で共有し、同様の問題が再発しないようにします。これにより、施設全体のサービス改善につながります。

まったく関係のない別のスタッフを巻き込むことが無いように、万が一クレームや苦情についての話が利用者やご家族からあった場合の連携経路を明確に定めておくことも重要です。

クレームや苦情をポジティブに捉える


クレームや苦情を改善の機会と捉え、施設のサービス向上に活かします。これにより、長期的な信頼関係の構築につながります。


  • ・課題や問題点に気づくきっかけとなり、業務改善のヒントになる
  • ・相手が不満を抱えたまま何も言わなければ解決につながりにくい
  • ・行き違いを防ぐためにも、施設全体で意識を高めていくことが大切
  • ・日常の会話を気にかける
  • ・利用者満足度調査を行い、利用者の声を知る機会をつくると良い


介護施設におけるクレーム・苦情を起こさないための予防策



対人サービスを提供している以上、多かれ少なかれクレームや苦情は避けて通れなくありませんが、その発生自体を抑制することも必要です。従業員教育の一環として下記内容をご検討いただけると幸いです。

接遇関係の講習会を実施する


職員向けに接遇関係の講習会を定期的に実施し、対応スキルの向上を図ります。

接遇マナーがしっかりしていないと、利用者様に不快な思いをさせてしまうこともあります。信頼関係を構築できるよう、講習会などを通して基本の接遇マナーを学ぶことが有効手段であるといえます。

クレームの定義について共通認識をもたせる


クレームの定義とその重要性について、職員全員が共通の認識を持つことが重要です。
介護を担う上で、無意識下でクレームにつながりかねない対応をしている場合もあります。そのため、クレームの定義をわかりやすく明文化し、すべての職員に周知するようにしましょう。

まとめ


介護施設におけるクレームや苦情は、施設のサービス品質を向上させるための貴重な機会です。適切な対応と予防策を講じることで、利用者やその家族との信頼関係を築き、施設の評価を高められます。常に利用者の立場に立ち、質の高いケアを提供することが、介護施設運営の鍵となります。

土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。

また、土屋グループ自身が教訓としている自社で発生した事象や、事業者様からご相談いただいた事例についての解決までのアプローチを数多く有しています。

また、接遇に対して専門のコンサルタントが情報も多数取り扱っていることから、総合的なサポートが可能です。事業所の接遇向上や対処に対して頭を悩ませていらっしゃる方はぜひ土屋総研にご相談ください。

土屋総研へのお問い合わせはこちら