高齢化社会が進む中、介護施設はますます重要な存在となっています。しかし、その運営においてはひとつの大きな課題が浮き彫りになっています。それは、介護スタッフの定着率が低く、退職者が続出しているという課題です。介護施設を経営している方は、この退職者の問題に悩み、その原因や解決策を模索していることでしょう。
本記事では、介護施設で退職者が続出する主な原因と、これを解決するための具体的な対策について詳しく解説していきます。
介護施設で退職者が続出する原因
ここからは介護施設における退職者が続出する原因について深掘りをしていきます。一般業種における勤続年数が12.4年に対して福祉介護施設では6.4年と2倍近い差が発生しています。
これだけ大きな差が発生している原因にはどういったものがあるかお示しします。
出典:「介護労働の現状」(厚生労働省)
職員の労災
介護の仕事は体力的にも精神的にも大きな負担がかかるものです。介護スタッフは日常的に高いストレスと身体的負担にさらされており、これが労災を引き起こすことがあります。
厚生労働省が発表している「社会福祉施設の労働災害発生状況」によると、施設系が2431名と最も大きな値となっています。
またその原因としては、動作の反動・無理な動作が挙げられています。利用者に対して注意を促す“転倒”を伴う負傷が職員側でも頻発しており、転倒を起因とした怪我(労災)退職原因のひとつと考えられています。
出典:「社会福祉施設の労働災害発生状況」(厚生労働省)
職場における人間関係のストレス
介護施設では多くの職員が利用者を介して密接に連携して働くため、職場の人間関係が非常に重要です。
しかし、こういった密接な人間関係がトラブルやコミュニケーションの問題を引き起こすことがあり、職員のストレスや不満の原因となり退職につながることもあります。
特に昨今のコロナ禍においては 介護現場にも大きな影響を及ぼしています。
利用者の多くが高齢者であり、新型コロナウイルス感染症に感染することで重症化しやすいとされています。そういった高い緊張感の中、職員自身と利用者の感染予防に細心の注意を払いながら、日々の業務にあたることは平時よりも大きな心理的ストレスを抱える要因であると想定されます。
また、このほかにも心理的ストレスを高める要因として、利用者の心身の不調、職員に対する差別や偏見、忙しさゆえの職員同士のコミュニケーションロスを引き起こします。
こういった過酷な状況の中での勤務がストレスを引き起こし、退職につながっていることもあります。
ライフスタイルの変化
職員の中には、家庭や個人の事情により、労働時間や勤務体制が合わなくなる場合があります。
とりわけ、女性の場合は結婚・出産・育児・家族の介護といったライフステージの変化に大きな影響を受けやすいです。
いざ介護の仕事と両立しようとした際、「多忙な環境なため育児休暇を取得できない」「育児に専念するにあたり、夜勤対応が難しい」といった理由で余儀なく退職を決めるケースが見受けられます。
介護業界においては、正規職員・非正規職員のいずれも女性が6割~8割を占めている状況です。個々のライフスタイルに応じて適切なサポートが整備されていないと、貴重な人材を失ってしまうことにもなりかねません。
出典:「介護労働の現状」(厚生労働省)
報酬面での不満
介護の仕事は非常に重要な役割を果たしていますが、その一方で給与水準が十分でないと感じる職員も少なくありません。
厚生労働省が行った「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」において、令和3年12月と令和4年9月を比較した際に、介護従事者等の平均給与額等は常勤職員で月額16,500円、非常勤職員で月額12,900円上昇しました。
とはいえ、現在までの報酬額が低水準だったこともあり、報酬面に不満を抱く層は一定数いると想定されています。
こういった状況は、やがて退職の決定につながることがあります。
出典:「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果:第83表」(厚生労働省)
健康面での負担
介護の仕事は身体的にも精神的にもハードな部分があり、長時間の立ち仕事や重い物の取り扱いなどが健康面での負担を増大させます。
前述した労災とも深い関係性があり、労災まで至らずとも、介護職員につきものの“腰痛”を起因とした健康面の不調により、職員の体調が悪化し、退職を選択せざるを得ないケースが見受けられます。
経営方針に対する不満
介護施設が独自で決めているルールや就業規則に対して、不満を抱えている職員は少なからずいます。
とはいえ、勤務を続ける中で、職員自身の考え方が変化し、経営方針と食い違いが発生することは当然あるでしょう。しかし、運営母体側の方針変更などがあった際は、なぜそのような判断になったのか、職員に対してしっかり説明をする必要があります。
もしそういったアクションを行っていなければ、退職を誘発する原因ともなりかねません。
介護施設の退職者を減らすための対策
ここからは前述した退職の原因をもとに、「どうすれば退職者を減らして、定着率を維持できるのか」について、具体的な対策手法をお伝えしていきます。
職員の身体的負担を軽減できる環境を作る
介護の現場では身体的な負担が大きいため、作業環境の改善が必要です。適切な設備や道具の導入、業務の効率化などを行い、職員の身体への負担を軽減する取り組みが求められます。
昨今では、移乗の際に着用するパワードスーツや自動排泄介助装置といった、いわゆる広義の介護ロボットを一部導入することで、身体的負担軽減を図っている事業所もあります。
また、IT化には補助金を活用できる可能性も高いので、優先して取り組むことを推奨します。
個別面談を実施する
定期的な個別面談を通じて、職員の不満や問題を聞き出し、適切な対策を講じることが重要です。施設介護においては狭い世界になりがちです。
職員一人ひとりが何を感じているのか、不満にしても要望にしても、管理者の目や耳が届かない範囲で声が挙がっていることが往々にして存在しています。
「これで大丈夫だろう」という安易な応対をして、職員のメンタルケアを疎かにしたことで連鎖的な退職が発生して、現場が回らなくなったという事例もあります。
すべてを充足させることはできなかったとしても個々の考えや思いを尊重し、改善策を共に考えることで、退職を防ぐことができるでしょう。
職員教育を実施する
新人職員だけでなく、在職中の職員に対しても継続的な教育を行うことで、スキル向上や意識改革を促進します。年次が長い職員になると、入社当初のモチベーションが維持できなくなっている職員も少なからず存在します。
日常業務のローテーションに対する不満や、自身の将来ビジョンに対する不明瞭さ、報酬面が伸び悩むといったことが複合して退職起因になっているケースも多くあるため、自己成長を実感できる環境を整えることが重要です。
マニュアルを作成する
業務の手順やルールを明確にしたマニュアルを作成することで、職員間の意識統一やコミュニケーションの円滑化が図られます。これにより、仕事のストレスが軽減され、定着率の向上が期待できます。
業務効率化を図る
煩雑な業務や無駄な作業を見直し、業務効率化を図ることで職員の負担を軽減します。時間的余裕が生まれることで、職員はより質の高いケアに集中できるでしょう。
こちらも介護ロボットの導入と同様、さまざまなITツールを利用することで、介助以外の事務作業等にかけていた時間を削減できたり、各自の入力したデータをもとに、業務内容の見直しを図ることができたりします。
その結果、個々の負担解消等によるストレスの軽減にもつながるのです。
人事評価制度を見直す
優れた成績を上げた職員を適切に評価し、報奨制度を導入することでモチベーションを向上させます。一方で、不満がある場合にも適切なフィードバックを行い、改善に取り組む姿勢を示すことが重要です。
まとめ
介護施設における退職者の問題は深刻な課題ですが、その原因を理解し適切な対策を講じることで、定着率の向上や人材確保に成功する可能性があります。職員の健康と幸福を尊重し、働きやすい環境づくりに注力することが、経営方針の大切な一環と言えるでしょう。
職員一人ひとりの顔色を伺うのではなく、職員一人ひとりと正面から相対して不満や思いを聞き取り、それに対してのアンサーを提供することが大事です。
特に離職については自社にとって大きな損失となることから、その対応には細心の注意と共に専門的な対応スキームが必要となります。第三者的な観点からのアドバイスや専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。介護事業における離職防止やそのための方策も多数あります。
土屋総研は、多数の事業承継、M&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、後継者不足、事業承継、離職対策など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。