小規模多機能型居宅介護経営の厳しい現状とは?赤字を黒字化するためにしたおくべきこと

地域包括ケアシステムの中核を担う小規模多機能型居宅介護。地域に密着し、メリットの多い在宅サポートですが、近年、厳しい経営状態にある事業所が増えつつあります。この記事では、小規模多機能型居宅介護の現状と、赤字経営から黒字化へ転換するポイントを解説します。


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小規模多機能型居宅介護とは

在宅生活は、デイサービスや訪問介護、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、定期巡回サービスなど、各種の介護サービスを使いながら今まで通り自宅で生活する仕組みです。

なかでも小規模多機能型居宅サービスは、デイサービス・訪問介護・ショートステイをひとつの事業所で提供することから、非常に柔軟な体制となっています。

通常、デイサービスや訪問介護は、ケアマネージャーが作った計画に基づいて職員を配置しているので急な変更(柔軟な対応)は難しいです。

一方、小規模多機能型居宅サービスであれば、デイサービスに行きたくない日は訪問介護で家に来てくれたり、ご家族が仕事等で迎えに行けなかったりする場合は泊まることができます。

このように、小規模多機能型居宅介護は、デイサービスへの通いを軸に、ショートステイや自宅への訪問という、通所・宿泊・訪問を組合せ、日常生活のサポートや機能訓練を行う場所となっています。

以前は、「通所介護」や「訪問介護」、「短期入所生活介護」など、各サービスを必要なときに個別に契約するのが基本的な形態でしたが、2006年の介護保険制度改正時に、「地域密着型サービス」のひとつとして導入されました。

小規模多機能型居宅介護は利用料金が「月額定額制」という点も大きな特徴であり、食費や宿泊費は別途支払う必要はあるものの、通所・宿泊・訪問をどのように組み合わせても自己負担額は一定となっています。

小規模多機能型居宅介護が厳しくなる要因とは

地域密着型サービスとして、非常にメリットのある小規模多機能型居宅介護ですが、近年、経営の厳しさが目立ってきています。独立行政法事福祉医療機構の調査によると、2017年度では小規模多機能事業所の約4割が赤字という結果になりました。ここでは、小規模多機能型居宅介護の経営が厳しい理由を解説します。

出典:「平成 29 年度 小規模多機能型居宅介護事業の経営状況について」(独立行政法事福祉医療機構)

登録率が低い

まず挙げられるのが、施設の定員数に対して、どれくらいのサービス利用者を登録しているかという「登録率」の低さです。福祉医療機構によると、黒字施設では登録率が86.4%だった一方で、赤字施設は74.7%にとどまっているなど、11.7ポイントの差があります。

そして、登録率が40%未満の施設では、すべて赤字という結果になっています。赤字施設から黒字施設へと移行するには、登録率を上げることが重要でしょう。

要介護度の水準が低い

小規模多機能型居宅介護の利用料金は、利用者の要介護度が上がるほど高くなります。要支援1では約3,000~3,400円、要介護1では約9,300~10,300円、要介護5では約24,200~26,800円となっています。

これは、中・重度者が多いほど施設の収益が上がることにもつながります。福祉医療機構の調べでも、要介護度の水準が高いほど、黒字施設の割合が多いことが明らかとなっています。

一方で赤字施設では、平均要介護度1.0~1.8未満の軽度者を中心に運営する施設が多いとされています。

小規模多機能型居宅介護経営の赤字を解消するには

約4割の施設で赤字という、非常に厳しい小規模多機能型居宅介護経営ですが、ここでは赤字を解消するにはどうすべきかについて、詳しく解説します。

定員数上限まで要介護度の高い利用者を登録する

前述したように、登録率の低さ・介護度の低さが赤字経営の一因であることから、定員数の上限まで、要介護度の高い利用者に登録してもらうことが黒字経営への近道です。

まずは地域包括センターや居宅ケアマネとの連携を図り、利用者を獲得することが大事です。施設においては訪問サービスを基軸に、地域の高齢者と関わることで、通所・宿泊につなげていくのも良いでしょう。

小規模多機能型居宅介護は、地域包括ケアシステムの中核を担うものであることから、厚生労働省の検討会においては、今後ますます小規模多機能型居宅介護の役割が高まっていくことが期待されています。

そのためにも、他の包括型サービスと比べ、要介護1・2の報酬が低いことが指摘されており、全体のバランスを見直す時期にきているとの意見も出されているようです。

赤字解消には各施設の努力も大切ですが、それのみならず、国・制度側にも現状を踏まえた抜本的な改善策が求められています。

加算をしっかり取得する

小規模多機能型居宅介護では、「総合マネジメント体制強化加算」と「訪問体制強化加算」の加算単位が突出して高くなっています。両者の取得が収益に大きく影響を与えるため、これら加算の取得は必須です。

現状では、訪問体制強化加算の取得割合は半数を切っていますが、取得することで要介護者(要支援除く)1人あたり1,000単位が取得できます。利用者の人数に比例して収入もアップするので、収益の改善が見込まれます。

人材確保をする

小規模多機能型居宅介護においても人手不足は深刻です。職員は事業所の近隣に居住している割合も高いため、地域密着型サービスらしい人材の確保・育成に取り組むのが良いでしょう。

たとえば利用者の家族、あるいは介護のみならず地域自体に関わっている強みを活かし、運営推進会議のメンバーを職員として雇用するなども考えられます。そのほか、外国人雇用にも取り組むなども良いでしょう。

利用者と長いお付き合いをする

小規模多機能型居宅介護は地域密着型の介護です。質の高いサービス、居心地の良さなどを通して、地域の利用者からの信頼を獲得し、長いお付き合いをすることで経営の安定性につながります。

軽度の利用者が、中重度者になったとしても、自宅や地域で支える仕組みを作ることが大切です。利用者の有する自立等の能力を発揮できる機会を増やし、その人らしい人生をサポートすることに重点を置くことが、信頼性の獲得につながり、赤字経営解消の一因になると考えられます。

まとめ

小規模多機能型居宅介護経営が難しい場合は、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界の専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。

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