訪問介護の経営課題と解決策|人材確保・労働環境・運営体制から解説

令和3年度における訪問介護の受給者は148万人に上り、全国3万5千の事業所の53万人の従事者によって提供されています。 訪問介護の担い手は、公的介護保険制度が創設された2000年以来、大きく増えましたが、地域によっては事業所数の増加により、事業所の小規模化、利用者と従事者の確保に課題を抱えています。 この記事では、訪問介護の経営課題と解決策を、人材確保・労働環境・運営体制から解説します。


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訪問介護業界における経営課題

訪問介護とは、介護福祉士やホームヘルパーが要介護者の自宅に赴き、入浴、排せつ、食事等の日常生活支援を、短時間で行うサービスです。「身体介護」、「生活援助」、「通院等乗降介助」が含まれ、提供時間、時間帯、訪問ヘルパーの人数などで介護報酬の点数が定められています。

ここでは、訪問介護業界の現状と課題を3つの切り口から解説します。

人材確保の課題

介護業界では人手不足が深刻化しており、厚生労働省による と、2023年度には約233万人の人材が必要とされています。2025年度には約243万人、2040年度には約280万人の介護職員を確保する必要があるとの推計が出されています。

また、介護労働安定センターの「令和3年度介護労働実態調査の結果」によりますと、介護事業所全体では「不足感」が63.0%となり、中でも「訪問介護」においては、80.6%の事業所が「不足感がある」と回答しています。

出典:「介護人材確保に向けた取り組み」(厚生労働省)
出典:「令和3年度介護労働実態調査の結果の概要について」(介護労働安定センター)

労働環境の課題

訪問介護業界では、利用者の要望により労働時間が左右されたり、利用者の都合で早朝・深夜勤務が発生したりすることも多くあります。また、賃金が低い等、労働環境が過酷なケースも見受けられ、行政指導が入ることもあります。

こうした賃金面での不満や労働環境の厳しさから、訪問介護員・介護職員の離職率は減少傾向にはあるものの依然として高く、介護労働安定センターの調査によりますと、現在は14%台で推移しています。

また前職を辞めた理由として、「職場の人間関係」が18.8%と最も高くなっています。

出典:「令和3年度介護労働実態調査の結果の概要について」(介護労働安定センター)

運営体制の課題

訪問介護業界では小規模な事業所が多く、介護労働安定センターの調査 では、従業者数が9人以下の事業所が全体の約30%を占めています。また、従業者数が10人~19人の事業所は約39%となっています。

こうした中、需要と供給のバランスが崩れている地域も多くあり、サービスを利用しにくい状況が続くとともに、人材不足等でサービスの質が低下し、適切なサービスを受けられないケースも多く見られます。

小規模な事業所では、人材育成や研修、事業継続計画(BCP)の策定や虐待・ハラスメント防止など 、マネジメントにおける負担が増大するという課題も抱えており、離職率も高く、安定的な経営が難しい側面もあります。

出典:「令和3年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書」(介護労働安定センター)

訪問介護の経営課題の解決策

訪問介護業界では、さまざま な課題に取り巻かれていますが、ここでは、こうした訪問介護の経営課題への対策を解説します。

人材確保に向けた対策

人材不足は訪問介護における最大の課題であり、人材の確保が非常に重要な対策となっています。

具体的な方法としては 、研修制度を 充実させることが挙げられま す。介護技術ならびにコミュニケーション研修を通じて職員のスキルアップを図れるよう取り組みましょう。

また、 サービスの質を高めるのみならず、介護業界未経験者への研修により就業のハードルを下げることも必要です。

そのほか 、自治体と連携し、職業訓練や就職支援などの人材育成を実施するのもひとつの手です 。 「キャリアアップ助成金」など 各種助成金もありますので、これらを有効に活用しましょう。

もし短期で人材を雇用する場合には、介護派遣を活用するのもおすすめです。

労働環境改善に向けた対策

離職率の低下を図るためにも、労働環境の改善は不可欠です。ここでは3つに分けて対策を解説します。

介護報酬加算制度への申請

各種加算制度を利用することで、収益改善と賃金見直しにつなげましょう。訪問介護においては、「処遇改善加算」「介護職員ベースアップ等支援加算」「特定事業所加算」など、さまざま な加算制度があり、これらの取得は事業所の収益の向上に大いに役立ちます。

また、加算を取るためには事業所のサービスの質の維持・向上が必要となるため、事業所の運営改善も図ることが可能で す。これが、ひいては職員の賃金面・環境面での待遇改善にもつながります。

就業体制の見直し

変形労働制など、柔軟な働き方を導入することで、画一的な働き方故に、人材の確保が難しい状況を解消する事に繋がります。また、自社での直雇用人材以外にも派遣会社や人材紹介会社を活用する事で即戦力となる働き手を投入する事で、就業体制が整わない状況を解消するための一助とすることも可能です。就業体制の見直しは疲弊しがちな介護労働者のフラストレーションを解消する事に最も効果があります。また、並行して賃金水準を高めつつ、高スキル人材の定着を図るために職能給や業績給といった、年次昇給以外の給与底上げ施策を行うことも人材の確保につながります。

行政指導対策

訪問介護においては、各事業所の質の向上を目的に、行政による運営(実地) 指導が定期的に行われます。介護経営を安定させるためにも、実地指導に向けた準備は必須です。
「介護保険施設等運営指導マニュアル」に準拠するなどして、適切な経営を行いましょう。

運営体制の改善に向けた対策

最後に、運営体制の改善に向けた対策を3つの視点から解説します。

ICTの導入による業務効率化

小規模事業所ではマネジメント業務の負荷が 高い傾向にあるため 、今後の経営においてICTの導入が 欠かせません。スマートフォンやタブレットなど、デジタルデバイスを活用した業務管理システムの導入を図ることで、マネジメント業務に掛かる負担が大幅に軽減します。

それにより、利用者へのサービスに時間を掛けられ 、利用者満足度の向上も図れます。

介護労働安定センターの調査 によると 、「パソコンでの利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」訪問介護事業所は52.8%と約半数を 占め、 多くの事業所がIT化に積極的であることがうかがえるでしょう 。

出典:「令和3年度介護労働実態調査の結果の概要について」(介護労働安定センター)

地域資源の活用

地域資源の活用も重要です。地域の公共機関、民間企業、ボランティア団体などと連携することで、事業の幅を広げることができるとともに、利用者に対するサポートの幅も広がります。

他事業所との連携ができれば、利用者のサポートを共に行うことができ、一事業所の負荷が軽減します。

事業者向け補助金制度の活用

人材育成や職場改善に対して、補助金が設けられている地域は多くあります。各自治体 のHPなどで助成金・補助金の制度がないか、また自事業所が要件を満たしているかなどをチェックしてみましょう。

訪問介護事業の課題解決なら土屋総研

訪問介護事業の運営にお困りの経営者の方も多くいらっしゃると思います。訪問介護の経営を安定させるなら、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界の専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。また、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。

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