近年、高齢化社会の進展に伴い、訪問看護ステーションの需要が増加しています。一方で、その立ち上げは決して容易なものではありません。医療・介護のプロフェッショナルたちが訪問看護ステーションを立ち上げる際には、さまざまな課題が立ちはだかり、成功に向けた努力が求められます。
この記事では、「訪問看護ステーションの立ち上げは失敗しやすい?」という問いに対し、その背後に潜む3つの主要な原因と、それに対する具体的な対策をご紹介します。立ち上げをスムーズに進めるコツを知って、失敗のリスクを防げるようにしましょう。
訪問看護ステーションの立ち上げは失敗しやすいって本当?
訪問看護ステーション自体は年々増加傾向にある一方で、毎年数百件以上の事業者が廃業しています。全国訪問看護事業協会の調査によると、令和3年度中の新規開業数は1,806件に対して廃止数は490件また、休止数は242件となっています。
訪問看護ステーション特有の課題と複雑な要素からくる困難さへの対策を怠ったことにより、失敗する可能性が高いといわれています。
出典:「令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果」(一般社団法人全国訪問看護事業協会)
訪問看護ステーションの立ち上げが失敗しやすいのはなぜ?
訪問看護ステーションの立ち上げが失敗しやすい理由としては大きく考えて3つの理由があります。ここでは、それぞれの理由が抱える課題についてお伝えしていきます。
看護人材の不足
訪問看護ステーションを運営する上で最も深刻な問題のひとつが、適切な看護人材の確保です。
訪問看護は高度な技術と知識を要するため、経験豊富な看護師や診療報酬の複雑な手続きに精通したスタッフが必要です。
また、必要なスキルや経験以上に、個々人の自宅における看護という側面を鑑みた際、人間性も重要なポイントになることから、人材確保に時間がかかることも要因のひとつとなっています。
しかしながら、こういった訪問看護を必要とする人口の増加に対して、看護師が伴って増加していないため、相対的に人手不足の状況となっています。これは全国的な課題であり、訪問看護ステーションの立ち上げにおいても深刻な障壁となっているようです。
出典:「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(厚生労働省)
そのうえ、訪問看護ステーションの開設には、看護職員が常勤換算で2.5名以上という人員基準をクリアしなければなりません。つまり、看護資格を持った人材を一定数以上確保できない限り開業自体が困難になるのです。
もし開業したとしても、人員基準を満たせなくなると廃止や業務休止となるので、注意する必要があります。
集客の難しさ
訪問看護ステーションを必要とする方々は、全国に84.3万人ほどいると言われています。
とはいえ、訪問看護ステーション側がどれだけ新規利用者の募集を広告展開していたとしても、利用者側がその訪問看護ステーションについて理解がない状況であれば、利用依頼にはつながらず、安定的な収益を担保することもできません。
競争の激しい訪問看護業界における集客は容易ではありません。地域の信頼を勝ち得るためには、ほかの施設との差別化や、信頼性の高い情報発信が必要です。
出典:「訪問看護」(厚生労働省)
経営者層の知識不足
訪問看護ステーションを運営するためには、医療・介護業界における知識だけでなく、経営やマネジメントのスキルも不可欠です。しかし、医療従事者であると同時に経営者としての経験が不足しているケースが少なくありません。
適切な予算管理や人材配置、効果的な広報戦略など、ビジネス運営に関する知識が求められます。
特に目が行き届きにくい点として、備品マネジメントに対する概念の不足が収益に対してマイナスの影響を及ぼすことが散見されますので、下記に一時例としてのケーススタディをご紹介します。
≪ケーススタディ①≫
病院内ではディスポーザブルで扱う衛生用品ではあるものの、訪問先では標準予防策に則った上で、かつできる限りの衛生面を考慮した上で、再利用可能な状態であれば再利用することが家族や本人との取り決めとなっていた。
それを知らなかった看護スタッフが備品の大量使用を行った。このケースでは備品について利用者側が費用負担していたため、クレーム発生につながった。
≪ケーススタディ②≫
必要な医療材料の発注に関して、欠品には留意していたものの、在庫管理が行き届いていなかったため、余計なロットの発注を行い、不良在庫を発生させてしまった。
大きなコストではなかったものの、こういった状況がチラホラと散見されるため「塵も積もれば山となる」状態になることを問題視している。
訪問看護ステーションの立ち上げをスムーズに進めるコツ
適性のある人材確保や集客の徹底に関しては当然ながら、それ以外にも立ち上げの段階をうまく乗り切って軌道に乗せるためにはコツがあります。
ここからは、訪問看護ステーションの立ち上げをスムーズに進めるコツについてお伝えしていきます。
経営やマネジメントに時間を割く
訪問看護ステーションの成功には、医療・介護の専門知識だけでなく、経営やマネジメントのスキルが不可欠です。経営者自身がこれらのスキルを磨き、適切な戦略を考えることが重要です。必要に応じて経営コンサルタントの活用も検討しましょう。
特に事業開始の初期段階では報酬面でのやりくりが重要です。訪問看護では、介護や診療のサービスを提供した場合、利用者に1〜3割の金額を請求し、健康保険や国民保険の適応範囲の7〜9割の金額を支払審査機関に請求します。
当月診療分の診療報酬の請求(レセプト請求)は翌月10日まで、その翌月27日前後に支払いが発生します。つまり、翌々月末まで収入が発生しません。そのため、後述する補助金や助成金の活用、また、立ち上げ段階で一定以上の運転資金の確保が必要となります。
《例:9月に利用者のケアを実施した際の訪問看護診療報酬(と介護報酬)の請求の流れ》
■訪問看護診療報酬
※9月に訪問看護を実施した場合、10月10日までに下記③までの作業を実施
①当月における訪問看護指示書と保険証の確認
↓
②訪問看護療養費明細書は、利用者実績を転記して作成
レセプトシステムのデータと実績の照合チェック実施
↓
③訪問看護療養費明細書の印刷・社会保険診療報酬基金に提出(10月10日まで)
↓
④審査実施
↓
⑤訪問看護診療報酬の支払い(11月27日頃)
■介護報酬
※9月に訪問介護を実施した場合、10月10日までに下記④までの作業を実施
①サービス提供表と照らし合わせ、サービス実施内容と一致した看護記録を作成
↓
②利用者の実績をレセプトシステムに入力
↓
③ケアマネージャーにサービス実績を報告(10月5日頃までが望ましい)
※レセプトシステムへの入力データと実績の照合チェック実施
↓
④国保連に提出する(システムでの送信やCD-Rでの提出等)(10月10日迄)
↓
⑤介護報酬の支払い(11月27日頃)
補助金・助成金制度を活用する
訪問看護ステーションの立ち上げには多くの費用がかかりますが、自治体や国の補助金・助成金制度を活用することで、資金調達の負担を軽減できる場合があります。これらの制度を積極的に利用し、経営基盤の安定化を図りましょう。
下記に利用できる補助金・助成金の一覧を記載しますのでご参考下さい。
※執筆当時の情報のため、現時点で終了している助成金を含む場合があります。
■人材採用を目的とした補助金・助成金の一例
- ・キャリアアップ助成金
- ・中途採用等支援助成金
- ・トライアル雇用助成金
- ・特定求職者雇用開発助成金
- ・65歳超雇用推進助成金
■設備導入を目的とした補助金・助成金の一例
- ・IT導入補助金
■その他補助金・助成金
- ・両立支援等助成金
- ・人材開発支援助成金
働きやすい環境づくりを意識する
看護師やスタッフの働きやすい環境を整えることは、人材確保と定着のために重要です。適切なシフト管理や労働条件の改善、キャリアアップの機会の提供などを通じて、スタッフのモチベーションを向上させましょう。
IT技術を導入する
IT技術の活用は、訪問看護の効率化と品質向上に貢献します。電子カルテの導入やオンライン予約システムの導入など、デジタルツールを活用して業務プロセスを効率化し、クオリティの高いサービス提供を目指しましょう。
地域の介護・医療関係者との連携を意識する
訪問看護ステーションは地域との連携が不可欠です。地域の医療機関や介護施設と連携し、緊急時の対応や情報共有を行うことで、スムーズなサービス提供が可能となります。
まとめ
訪問看護ステーションの立ち上げは困難を伴うものですが、これらの原因と対策を十分に理解し、適切な準備と努力を行うことで、成功への道を切り拓くことができるでしょう。失敗を回避し、地域の医療・介護ニーズに貢献する訪問看護ステーションの実現を目指して、慎重な計画と継続的な努力を重ねていくことが大切です。
訪問看護ステーションで安定した収益を確保するためには、専門家によるコンサルティングを受けることが重要です。第三者的な観点から有益なアドバイスを得られ、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
土屋総研は、日本全国で福祉・看護に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。訪問看護事業の展開も行っているため同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。
土屋グループは、多数の事業承継、M&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、後継者不足、事業承継、事業の買収・譲渡(M&A)など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。
将来的な活動のために、しっかりとした基盤を築きながら設立を進めていきましょう。