経費削減の前に知っておきたい、介護事業でかかる経費の種類
この記事をお読みくださっている方は“経費問題”に頭を悩ませていると思います。
そこで、経費削減以前の前提知識として、介護事業の諸経費について解説します。経費は一般的に「固定費」と「変動費」に大別されますので、まずは固定費と変動費についてどういったものがあるのか明確にしていきましょう。
介護事業における固定費
まず“固定費”です。固定費とは、売上高にかかわらず常に一定量発生する費用です。
介護事業者の場合、固定費の具体例は以下のようになります。
・租税、公課
・地代、家賃
・動力、用水、光熱費(一般管理費のみ)
・保険料(賠償責任保険等)
・支払利息
・従業員教育費
・従業員給与、賞与
・役員給料手当
・退職金
・福利厚生費(社会保険関係)
・修繕維持費(積立金)
・減価償却費
・事務用品費
・補償費
・通信交通費
・交際費
・その他管理費
介護事業における変動費
次に“変動費”です。変動費とは、売上に比例して増減する経費のことです。介護事業における変動費には以下のようなものがあります。
・材料費(食材や消耗品など)
・労務費(派遣社員や契約社員など)
・外注費(介護サービスや清掃サービスなど)
・運搬費(送迎バスやタクシーなど)
・機械等経費(レンタル機器や修理代など)
・兼業原価(デイサービスなどで提供する食事や入浴など)
・消耗品費
・広告宣伝費(不定期の場合)
介護事業における経費削減案・アイディア10選
ここからは実際に経費削減のため出来る具体策を10選紹介します。
利益の安定化を図るためには毎月支出が発生する「固定費」をどれだけ削減出来るかが重要なポイントです。
1.減額請求を用いた賃料の削減
介護事業所や施設が賃貸である場合、家賃の減額交渉は最大の経費削減手法のひとつです。「家賃の減額交渉=関係性悪化による退去」と考え、減額交渉をしない介護事業所や施設は少なくありません。
賃料の減額交渉は借地借家法32条1項で法的にも認められているため、どうしても経費削減が必要だと考える場合は検討してください。
ただし、以下の4つのパターンに当てはまる場合、交渉が難しいと考えられます。
①契約書内に賃料改定不可の記載が存在している場合
②入居から日が浅い(例入居後1〜2年程度)場合
③人気物件や競合事業所が近くにある物件の場合
④元々の賃料が相場価格より安い場合
2.通信費の削減
現在、事業所で契約している回線状況を確認することが先決です。
大きな施設の場合、使っておらず料金だけ支払い続けている回線や、ISP(インターネットサービスプロバイダ)契約がある場合があります。こういった休眠回線は解約しましょう。
また、介護事業者の中には、FAXを利用しているケースも見受けられます。こういった場合、インターネットを利用したFAXサービスに切り替えることで用紙の節約につながるでしょう。
なお、法人で携帯電話貸与を行っている場合、個人携帯を業務活用してもらい、業務負担分を通信手当として充当することで、通信費を削減することも可能です。
3.水道費の削減
介護施設では特に入浴介助や洗濯等、水道使用量が高額になるケースがあります。節水機器を取り付けることによって、使用水量を抑えることも可能です。
また、意外と効果が高いのが職員に対する“節水意識”の声掛けです。
水の使い方は個々人で大きな差があります。水を無駄遣いしないよう注意するだけでも、大きな効果が見込めます。
4.光熱費の削減
現状として、電気代はさらに値上がり傾向を見せています。照明装置を電球からLEDに変えるだけで消費電力を大きく下げることができます。LEDは熱の発生が少ないため、夏場の空調に与えるマイナスの影響を削減することにもつながるでしょう。
また、電力会社との現在の契約内容を見直してプラン変更を実施するのもひとつの手です。
そのほか、電力小売自由化によって、現在契約している事業者よりも安価なプランを提供している事業者がある場合は、契約先の変更を見直してみると良いでしょう。
なお資産に余裕がある場合、空調機器を新調することで消費電力を下げることが可能です。
5.業務効率化による残業代の削減
属人的になっている業務はありませんか?『この業務はAさんしか出来ない』といった業務は非効率的です。そういった意味では従業員教育に対する投資を行い、スキルの平準化や業務自体の手順見直しを行うことで、残業を削減することにもつながります。
ベテラン職員しかできないことが増える事業所は人件費の圧迫が大きくなるため、早期に改善したい削減アイディアになります。
6.業務フローのICT化による人件費の削減
福祉業界はアナログな手法で運営している事業所が少なくありません。介護記録を手書きしていたり、申し送りのために残務が発生したり、シフト作成に多大な時間と人件費が発生したりする無駄な作業による人件費が発生しがちです。
これらの作業は、ITツールを積極的に活用することで、業務効率化につながります。
介護記録→介護記録ソフトの活用で、手書きからの脱却
申し送り→ビジネスチャットの活用で申し送りを迅速化する
シフト作成→シフト作成ソフトにより、作成時間の大幅な削減
なお、これらの業務フローを自動化するにあたってはコンサルタントへ相談することで間違いのないアドバイスを受けることが有用です。
7.厨房工程の見直しによる人件費・消耗品費の削減
介護施設での昼食など料理で使う消耗品は、単価自体は低いものの、使用量が多いため積み重なると大きな金額になります。消耗品が適性に使用されているのか発注頻度から確認してください。
あわせて、食材等の利用におけるフードロスについてもできる限り少なくなるような献立の検討を行うことも重要です。
加えて、コロナ禍においては衛生面や感染対策に重きが置かれ、そこに加え食材費も高騰している状況があります。そういった際に、調理工程自体をアウトソーシングする委託給食等を活用することも効果がみられるケースもあります。
8.急速冷凍機や真空包装機の導入で食材費・光熱費・人件費の削減
大規模な施設では自前のキッチンで調理を行い食事の提供を行うケースもあります。利用者に応じてさまざまなメニューを提供するような場合、材料費が大きなウェイトを占めます。
食材の保存に関してもストックの劣化を最大限抑えられるように、急速冷凍機や真空包装機を使って保存することで、調理における時間短縮が期待できます。
9.備品の「見える化」で消耗品費の削減
消耗品等の備品に関しては意外と見落としがちな項目です。グローブや消毒液などの衛生用品は日常的な使用頻度が高いため、年間を通じると使用量も大きなものになります。
実際に使用した料を金額に換算するとそれなりのコストになっていることもあるため、まずは現状把握として、月間の使用量は人員や業務内容に対して適正かといった部分から「見える化」を進めていきましょう。
10.SNS運用による広告費の削減
求人広告や施設利用を促す広告に毎月多額の出費を行っているにも関わらず、採用活動が思うように進まないという声も聞きます。
そういった場合、アプローチ手法の見直しが必要になります。募集活動はFacebookやTwitter、InstagramといったSNSを使うことで、今までの広告を目にすることがなかった層にもアプローチできるケースもあります。
SNS運用に関してはノウハウやコツが必須となることからも、専任担当者を設けることが大事です。コンサルタントの活用、業務委託を行う等も検討してください。
介護経費削減の4ステップ
経費削減においては、すぐ実行したいと考える方も少なくありません。ただし、無計画にすべてを削減してしまっては不便になったり、職員のモチベーションを下げたりしてしまい、効果を発揮しないおそれもあります。
効果的に経費削減を実施するためにはPDCA(Plan→Do→Check→Action)の繰り返しによる運用を意識していきましょう。
ステップ1:現状の「見える化」
まず現状を明らかにする必要があります。どの経費項目に対してどれ位の支出が発生しているのか、その理由を含めて、まずは削減できそうな経費項目を絞り込むことが大切です。大きな改善が見込める項目や手をつけやすい項目など、優先順位をつけてみましょう。
ステップ2:削減計画の策定
優先順位が明確になったら、次は“何の項目”に対して“どういうアクションを起こすのか”を決定しましょう。削減計画の達成時期や、具体的に何を行うことで削減に向けたこうどうとするのか、職員全体で取り決めを行います。
その際、当然ながら反発があると思います。正当な理由で経費削減が難しいという場合は、すぐに取り組めやすい、現実的なプランを考えましょう。
ステップ3:削減計画の実行
計画を実行するには、全職員に協力してもらう必要があります。
あまりにも大きすぎる目標は職員のモチベーションを下げる原因につながるため、大きな目標を達成するための小さな一歩として、どのように実行させていくか、管理側と共に実行しましょう。
ステップ4:効果測定
計画の実行がやりっぱなしにならないよう、計画に沿った行動が出来ているか定期的な進捗確認を行いましょう。
効果が得られない場合もあります。その際に“何が原因だったのか”を明確にすることが重要です。「職員側の行動が不足しているのか」「計画自体が現実的ではなかったか」とさまざまな側面から原因分析を行って、計画の修正を図ってください。
常にPDCAサイクルを回し、経費削減の積み重ねが大事です。
まとめ
コロナ禍で収益が下がり、運営に苦心する事業所も少なくありません。介護施設の運営において発生する経費削減において着手できる手法は数多くあります。ただし、どんなに簡単な手法であっても、一概に簡単ではないのが実情です。実務が多忙故になかなか着手できないといった場合、専門家によるコンサルティングを受けることや、専門的な知識や豊富な経験によるノウハウを共有してもらえれば、今後の経営に役立ちます。
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