介護施設を取り巻く課題とは
介護事業者は、介護報酬制度という制度の下に運営を行っています。超高齢化社会に突入する中、介護を必要とする人は大幅な増加の一途を辿っています。
その中では、介護ニーズの多様化や突発的な社会情勢の変化により、旧来の運営手法だけでは成り立たず、淘汰される事業者も出てきております。
ここでは、介護施設における課題面について掘り下げていきましょう。
介護報酬の改定による収益の圧迫とコロナ禍
介護保険制度が適用される介護サービスの利用料は、大部分が保険請求による収入であり、自己負担での利用は非常に少ないといわれています。
介護保険制度内のサービスであることからも事業者が介護報酬の単価によって決定される利用料を自由に設定することはできません。この介護報酬の単価は3年ごとに改定が行われています。
平成29・令和元年度(2017・2019年度)はプラス改定となっていますが、それ以前の平成27年度(2015年度)は-2.27%と大幅なマイナス改定があったことから、それ以降の3年間は売上不振による倒産件数が毎年更新され続けた状況がありました。
出典:「介護報酬改定の改定率について」(厚生労働省)
また、平成30年(2019年)以降は新型コロナウイルス感染症の流行に伴う外出規制を起因とした施設系介護事業所の利用者数減少や、施設側の感染防止費用の負担増を起因とする“コロナ倒産”も発生しています。
つまり介護報酬の単価が引き下げられると、介護事業者の利益は減少します。その結果、従業員に払える給与の原資が減ることになり、介護職員の低賃金問題や人手不足という悪循環に陥ることになります。
また、感染症の大流行など外的要因も重なった場合、利用者の減少に歯止めがかからず根本的な利益原資の確保が難しくなり、最悪の場合は倒産を余儀なくされる事態へとつながります。
出典:「2022年1-9月「老人福祉・介護事業」の倒産状況」(東京商工リサーチ)
慢性的な人手不足
日本は800万人近い“団塊の世代”と呼ばれる世代が2025年には75歳以上となり、いわゆる“後期高齢者”となる“超高齢化社会”に突入する状況となっています。この“超高齢化社会”の到来に比例するように、介護施設利用ケースは近年急増傾向にあります。
ただ、その一方で利用者を受け入れる介護施設側では慢性的な不足状態が続いています。その理由は、肉体的または精神的ストレス過多が起因しているからです。
本テーマの執筆時点(2023年4月)において、「一般職業紹介状況(令和5年2月分)について」における統計状況からも見られるとおり、介護業界の有効求人倍率は3.21倍(除くパート)となっていて他業種から抜きん出て高い水準となっていることからも、慢性的な人手不足状態が続いている現状があります。
出典:「一般職業紹介状況(令和5年2月分)について」(厚生労働省)
後継者不足
近年では、創業経営者である“団塊の世代”が現役を退く時期が訪れている中で、介護業界の人材定着の悪さから後継者へ引き継げないまま、廃業する事業所が出ています。
また、後継者による新陳代謝や活性化ができず、利用者ニーズを満たすことを優先して赤字経営を続けたまま倒産せざるを得ない状況も発生しています。
介護事業者は小規模の事業者が多く、後継者がいないことで廃業となるケースも多く見受けられます。
介護施設の課題を解決するにはM&Aという手がある!
M&Aで事業を譲渡すれば後継者問題を解決でき、その他の事業経営によるリスクも解決できることがあります。
また、売り手買い手間で取り決められる譲渡対価の価格によっては退職金代わりの所得が得られることもあり、売り手買い手の双方がwin-winとなる状態で引き継ぐことも検討できます。
施設運営の面においても買い手側企業からの人員派遣を受け、スタッフを充足できるという利点もあります。
介護施設の種類別!M&Aの動向やニーズについて
介護施設のM&Aは活発に行われており、施設の類型ごとに以下のような特色があります。
介護付き有料老人ホーム
常駐スタッフにより、24時間介護サービスが受けられる施設サービスです。介護保険給付抑制の観点から総量規制が行われているため、新規参入する場合は、同事業を展開する事業者をM&Aを実施することが最短ルートであり、ニーズも高くなっています。
住居型有料老人ホーム
生活支援サービスが付いている施設サービスです。介護サービスが必要となる場合は在宅介護保険サービスを利用します。
介護付き有料老人ホームほどではないですが、同様の理由でM&Aが行われることが増えています。
健康型有料老人ホーム
自立した高齢者を対象とした施設サービスであり、施設数は多くありません。介護付き有料老人ホームほどではないですが、同様の理由でM&Aが行われることが増えています。
介護施設のM&Aの買収ニーズが高い理由
介護施設でのM&Aにおける買収ニーズは他の介護事業に比べて非常に活発な傾向にあります。その理由は新規参入と業務拡大に最適な手法だといわれているからです。
新規では参入障壁が高いから
施設型の介護サービスをゼロから立ち上げるには、人材の確保や資金面でのハードルが高く、大変です。すでに事業展開を行っている企業にM&Aを実施することによって参入障壁は低くなり、スピード感のある新規事業展開が可能となります。
介護に関するノウハウを得られるから
すでに運営されている介護施設では、当該施設の利用者である高齢者のニーズや対処方法に関するノウハウが蓄積されています。M&Aなら、それらで培われたノウハウをそのまま活かせます。
地域に密着したサービスにより新たな顧客を開拓できるから
M&Aで事業を引き継ぐことによって、多大な資金や労力をかけることなく、未開拓のエリアを獲得できます。
介護や福祉はその地域の行政から指定を受けたり、地元住民に密着したサービスであったりするため、M&Aによって、そのエリアの顧客をスピーディーに開拓できる効果があります。
介護施設が赤字経営でもM&Aで買い手はつく?
運営している介護施設の財政状況が赤字でも、場合によってはきちんとした対価を受け取れることがあります。地域を絞って新規参入したい場合など、エリアのニーズが合えば赤字でも買い手がつくことがあります。
また、買い手企業にとって、採用単価と比較してM&Aの方が安価だった場合などでも、赤字にかかわらず買い手がつくこともあります。
介護施設のM&Aで失敗を避けるには
介護施設のM&Aが活発な一方、M&Aでの失敗も少なくありません。下記の注意点をしっかりと確認した上でM&Aを実施するように心掛けましょう。
施設のメンテナンス状況を確認しておく
介護施設を自社所有の不動産で経営している場合には、その不動産も譲渡の対象となります。そのため、メンテナンスをしっかりすることで、不動産市況によっては評価額が高くなり、買収価格が上がることもあります。
コンサルタントに相談する
専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。
まとめ
介護施設のM&Aが非常に活発に行われる中で、自社が売り手となる場合も買い手となる場合も押さえるべきポイントが明確になったのではないでしょうか。土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。
土屋グループは、多数の事業承継、M&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、後継者不足、事業承継、事業の買収・譲渡(M&A)など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。