社会福祉法人のM&Aとは?主なスキームとメリット・注意点について

社会福祉法人は公益性の高い事業であり、今後の福祉ニーズの高まりから、合併や事業譲渡を検討している方もいるでしょう。しかし、社会福祉法人のM&Aは一般的な企業とは異なり、所轄官庁が関わっていることから、手続きが複雑になりがちです。社会福祉法人のM&Aを実施するにあたり、どの点に注意すればよいのでしょうか。 この記事では、社会福祉法人のM&Aについて、主なスキームとメリット、注意点について解説します。


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社会福祉法人のM&Aとは?

一般的なM&Aにおいては、“売り手となる企業”が運営する会社や事業を、“買い手となる企業”が株式の形を用いて買い取る仕組みとなっています。

一方、社会福祉法人がM&Aを実施する場合、社会福祉事業や公益事業、収益事業を目的に設立された法人であるため、株式の発行がありません。

社会福祉法人におけるM&Aでは、株式による対価ではなく、合併もしくは事業譲渡の手法を用いて買い手となる企業に営業権が移ることになります。

社会福祉法人のM&Aに関する国のガイドライン

社会福祉法人がその役割(公益事業である社会福祉事業)を全うできるように、合併や事業譲渡等の手続きや留意点についてまとめた「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」が厚生労働省によって策定されています。

また、社会福祉法人が合併・事業譲渡等を実施する場合のポイントなどが詳しく記載されている「合併・事業譲渡等マニュアル」も厚生労働省が周知しています。

社会福祉法人のM&Aは、上記で紹介したガイドラインとマニュアルに沿って実施されます。

社会福祉法人のM&Aで用いる2種類のスキーム

株式を発行しない社会福祉法人のM&Aで用いられるスキームは、「合併」と「事業譲渡」の2種類となります。

スキーム1:合併

社会福祉法人の合併は、合併先も社会福祉法人に限られるものとなっています。なお、合併には以下の2種類があります。

吸収合併

一方の会社の法人格のみを残し、他方の会社の法人格を消滅させ、消滅する会社のすべての権利義務を、合併後も存続する会社に承継させる方法。

新設合併

全ての法人格が消滅し、新たに設立する新法人へすべての権利義務を承継させる方法。

スキーム2:事業譲渡

特定の事業を継続するために、該当する事業財産を他の法人に譲渡する手法です。事業を営む建物や土地だけでなく、事業に必要な有形および無形の財産をすべて譲渡することになります。

ただし社会福祉法人の事業譲渡は、一部の事業のみ可能(譲受先法人が社会福祉法人でない場合、第一種福祉事業は譲渡不可)となっており、社会福祉事業のすべてを譲渡することはできません。

社会福祉法人がM&Aを利用する背景

社会福祉法人はM&Aを利用する事で得られる事業効率化の効果を元に、今まで取り組むことが難しかった福祉サービスの充実を図ったり地域住民のニーズに合わせた新しいサービス提供を目的としています。

また、M&Aを通じて地域住民とのつながりを深めることも期待されることからも、少子高齢化に伴うニーズに対して柔軟な対応を求められています。

少子高齢化による地域社会のニーズの変化

少子高齢化により、社会福祉事業に求められる地域社会のニーズが多様化・複雑化しています。ニーズの変化に対応できるよう“法人の新陳代謝の活性化”を目的の一つとしたM&Aを実施するところも多く、合併や事業譲渡によりサービス向上を目指します。

経営状況を改善・事業を再生したい

社会福祉法人では零細企業も多く、経営状況が悪化しているケースも多く見られます。経営状況が悪くなっている企業が、改善や事業再生に向けてM&Aを活用することがあります。

M&Aによって経営状況の良くない事業でも残すことができ、利用者へのマイナスとなる影響を最小限に抑える効果が見込めるためです。

社会福祉法人がM&Aを活用するメリット

社会福祉法人がM&Aを活用することで、サービスの質向上・新しい事業の拡大・事業効率化・人材やノウハウの獲得といったさまざまなメリットをもたらします。

その中でも、サービスの提供品質に対して利用者側も強い関心を持っています。当然ながら、ニーズを満たすためには品質の高さは”サービス業”である介護業にも強く求められています。

また、こういった品質面の高さを維持することは地域で長期間事業継続できる要素にもなります。

高い質のサービス提供

経営状況が悪化している社会福祉法人では、提供可能なサービスが限定されていたり、地域社会が求めるニーズに応えられるだけの経営基盤を持っていなかったりする場合も見受けられます。

M&Aを用いることによって、提携先の社会福祉法人の人材やノウハウ、設備を活用することでこれらのネガティブ要素を払拭し、サービスの質の向上につなげられます。また、両方人が保有しているそれぞれのスキル・知識・経験を共有することによって、人材育成にも役立ちます。

効率的な事業展開

M&Aを用いた合併・事業譲渡を行うことによって、相手先の社会福祉法人が有する人材・ノウハウ・設備を獲得することにつながるため、スケールメリットを得ることが可能です。

それにより、新たなサービス開発や資材調達のコストを削減し、効率的に事業展開・拡大ができます。場合によっては、施設の確保や増設なしで新事業を展開できることもあり、経営の再建に役立つこともあります。

経営基盤の強化

法人同士の合併や事業譲渡によって経営基盤の強化が期待できます。それにより、法人としての運営体力を高めることにつながります。

ひいては社会福祉法人の主目的である公益性の高い事業の安定性を向上させ、継続が難しいケースにおいては事業再建と継続に寄与することも可能です。

社会福祉法人のM&Aにおける注意点

社会福祉法人のM&Aにおける注意点として最も意識すべき点としては対価設定に対する取り扱いです。

公益性・非営利性を求められる社会福祉法人は事業の適切な評価とともに法人外への対価性のない支出が認められていないことからも大きな規制がかかる事を理解してM&Aを進める必要があります。

対価設定について

社会福祉法人は株式を発行していないため、“持分”という概念がありません。さらに、公益法人である以上、社会福祉法人以外に向けた対価性のない支出は禁止されています。合併においては、吸収される法人に対価が支払われることはありません。

事業譲渡の場合、譲渡する事業の見積価値以上の対価設定が必要です。そうでない場合、法人外への資金流出に該当すると考えられます。財産などの対価を設定する場合には、財務調査などによって適切な事業価値の見極めが必要となります。

許認可に関する手続きについて

財産や定款に関する手続きには所轄庁の許認可が必要となります。合併や事業譲渡をする前や決定した際には、行政機関と連携して進めていくことが重要です。

譲渡側の職員や利用者への説明について

合併や事業譲渡を行う場合、利用者やその家族には、事前にしっかりと説明しなければなりません。事業譲渡の場合、利用者との再契約が必要になるケースもあります。また、譲渡される側の職員に対して、雇用条件の変更が発生する場合、同意書などを交わす必要があります。

まとめ

社会福祉法人のM&Aを検討している場合、専門家によるコンサルティングを受ければ、第三者的な観点から有益なアドバイスを得られます。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界のことをよく知る専門家に相談するのがベストです。

土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。

事業の買収、譲渡(M&A)についてもノウハウがありますので、ぜひご相談ください。

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