介護業界におけるM&Aの動向は?
介護業界は、高齢者人口の増加や介護保険制度の改正などにより、近年市場規模が勢いよく拡大しています。
しかし、並行して人材不足や低利益率などの課題も抱えており、経営効率化やサービス品質向上のためにM&Aを検討する事業者が増えています。
介護業界のM&Aは、事業規模や地域性によって特徴が大きく異なりますが、一般的には大手事業者による買収や中堅・中小事業者間での提携が多く見られます。
また、医療・福祉以外の異業種からのM&Aを用いた新規参入も活発化している一方、多くの課題やリスクが伴うため、専門的な知識やノウハウが必要となります。
M&Aによる事業継承は活発に行われている
M&Aと聞くと、どこかの大企業や外資系企業のことであって自分とは関係がないように感じてしまう介護事業者の方も多いかもしれません。しかし、近年では介護業界においても規模の大小を問わずM&A(MergersandAcquisitions:“合併”と“買収”)が活発に行われています。
介護業界におけるM&Aの特徴としては、介護保険制度がスタートした2000年以来、経営者の高齢化が進んでいることから、事業承継を目的としたM&Aが多く見られます。
また、人手不足や競争の激化などにより経営が圧迫された事業者が、M&Aで事業を譲渡する例も多くあります。
介護事業者は真面目で責任感が強いものです。目の前にいる利用者の生活を考えると、なかなか事業を止める・廃業するという決断ができないまま月日が過ぎ、やがて取り返しがつかないところまで経営状況が悪化してしまう事業者もいるようですす。
最近ではM&Aも、利用者・経営者、そして引き継いだ側も「やって良かった」と、win-win-winの関係でひとつのゴールを迎えることも多くあります。“合併”や“買収”という言葉に苦手意識を持つことなく、肩肘張らず、M&Aについて知っていただければ幸いです。
異業種からの参入が多い
総務省統計局の発表によると、日本の高齢者人口(65歳以上)は増加の一途を辿り、2040年には3,900万人以上、全人口の35.3%を占めるとされています。
このように、高齢者を主軸と考える介護市場は拡大が見込まれる「成長産業」であるため、さまざまな業種からの新規参入する事例も年々増加傾向となっています。
M&Aは、すでに動いている事業を引き継ぐということからリスクが低く、効率的であり、新規参入のために使われることもあります。
出典:「1.高齢者の人口|統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」
(総務省統計局)
有料老人ホームは“特に”買収ニーズが高い
介護サービスは大きく「在宅介護」と「施設介護」に分けられ、施設介護では主なサービスに「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「有料老人ホーム」などがあります。
このうち、特別養護老人ホームは社会福祉法人、介護老人保健施設は医療法人でなければ運営できません。
一方、有料老人ホームは、一定の基準が満たされていれば社会福祉法人や医療法人でなくても運営が可能なので、民間企業の多くが有料老人ホームを運営しています。
有料老人ホームには介護付き・住宅型・健康型の3種類がありますが、2006年4月の老人福祉法の改正により、介護付き有料老人ホームの新規開設は難しくなったため、買収ニーズが高くなっています。
【譲渡側】介護事業でM&Aを行うメリット
介護事業を譲渡する側のメリットとしては以下の内容が期待されます。
・現経営者の高齢化による後継者不足問題の解決
・譲渡代金を得ることによる資産価値の確保やそれを元にした再投資
・合併などによる人員増を見込むことでの人材不足の解消
・譲渡先との連携による新しいサービス提供や、サービスの質・利用者満足度の向上
後継者問題を解決できる
団塊の世代が後期高齢者へと移る中、後継者が見つからず引退、すなわち廃業というケースが今後増加することは介護以外を含む全業界でも喫緊の課題となっています。当然ながら介護業界においても同様の課題であると考えられます。
しかし、利用者・スタッフの将来を考え、引退したくてもできないまま歳を重ねてしまうという悩みを抱える真面目で責任感の強い経営者も多くいるようです。
M&Aを用いて事業譲渡を行うことで、その買い手が新たな後継者となり、基盤をそのままに事業承継することが可能です。後継者不足による廃業という事態を回避できることからも、勇退の後に残される利用者やスタッフの不安を解消できます。
創業者利益を確保できる
M&Aではなく廃業を選択した場合には、設備の処分費用や、借入金などの金銭的負担があります。さらには利用者の移籍先の調整やスタッフ退職による残務といった“負の側面”しか残らない場合も多いです。
M&Aを用いて事業譲渡を行うことで、創業者が興した事業の価値=売却価格によっては売却益を得られる、つまりは創業者利益を確保できる場合もあります。
人手不足を解消できる
介護業界は慢性的な人手不足に悩まされていますが、買収は採用力のある大手企業によって行われるケースも多くあります。そのような大手企業グループの傘下に入ることで、採用や人員の補充等で人手不足を解消できます。
また、大手のノウハウを享受することによってサービスの質を向上させることにもつながり、余裕を持ったサービスの提供が可能になることも多いです。
集客力がアップする
知名度のあるグループに傘下入りすることで信頼性が向上し、利用者の増加につながることもあります。当然ながら、地域で生活する利用を想定している方やそのご家族にとっても知名度の高さは入所する上での安心材料になります。
介護業界におけるM&Aの売却価格の相場は?
一般的な介護施設のM&A相場は、時価純資産額+営業利益の3〜5年分(“のれん代”ともいわれる)といわれています。
最終的な売却価格は、買い手企業との交渉によって決定しますが、相手側の評価(デューデリジェンスと呼ばれます)を元にして、変動します。
また、注意すべき点として、M&Aを行う際は相談料や着手金、手数料や税金といったさまざまな費用が発生するため、事前相談の際に確認が必要です。
介護業界のM&Aで失敗を避ける!成功させる5つのポイント
失敗を避け、成功させるための5つのポイントは以下のとおりです。
・早い段階から計画を始める
・経営状態をきちんと把握しておく
・利用者や入居者の属性を考慮に入れる
・建物のメンテナンス状況を確認する
・専門家によるコンサルティングを利用する
早い段階から計画を始める
介護事業のM&Aは、行政への指定申請等が絡み、複雑かつ相応の時間を要するものです。希望する条件にマッチする承継候補先をすぐに見つけることは難しいため、希望条件を実現させるには時間的・体力的な余裕を持って交渉することが大切です。
経営状態をきちんと把握しておく
譲渡対象となる事業の利益率や稼働率を、その詳細までしっかり分析することがM&Aを成功させるポイントです。譲渡前において対処可能な課題があれば、事前にきちんと対策をしておくことで希望条件に合った買収先を見つけやすくなります。
利用者や入居者の属性を考慮に入れる
利用者の属性(介護度等)によって収益性が異なり、売却難易度に影響します。要介護度が高い人を対象にしている事業や、専門性が高いサービスを提供している事業の場合は収益性も高くなることから、買い手が見つかりやすくなります。
建物のメンテナンス状況を確認する
介護施設を自社所有の不動産で運営している場合には、その不動産も譲渡対象となります。そのため、施設自体のメンテナンスをしっかりすることで、不動産市況によっては評価額が高くなり、買収価格が上がることもあります。
専門家によるコンサルティングを利用する
専門家によるコンサルティングを利用することによって、自分たちでは気付きにくい評価材料を見出すことや、第三者的な観点から譲渡における有益なアドバイスを得ることも可能です。介護業界は他の産業と異なる特性があるため、介護業界に精通している専門家に相談することで評価を高めることにつながります。
介護事業の譲渡や買収など、介護M&Aを検討している方は、土屋総研にお任せください。
土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。
事業の買収、譲渡(M&A)についてもノウハウがありますので、ぜひご相談ください。
まとめ
介護業界は、高齢者人口の増加や介護保険制度の改正などにより、介護業界外の異業種からの新規参入も活発化しています。
その一方で、人材不足や低利益率などの課題や専門的な知識やノウハウが求められることからM&Aによる事業承継の活用も増加しています。
介護業界におけるM&Aで失敗せずに成功させるためには、
・異なる文化や価値観をすり合わせられる適切なパートナーを早期に見つけること
・M&Aを用いることで何を成し遂げたいのか明確なビジョンを持つこと
・利用者や職員の不安や不満に対するアフターフォローを徹底すること
・専門家の活用によりコンサルティングを受け、理解を高めること
これらの情報を武器として、スムーズかつトラブルを最小限に抑えたM&Aを行えるように準備を進めていきましょう。