訪問介護の平均売上は?市場規模や今後の需要・売上を伸ばす方法について

介護経営は報酬制度という独特の制度に基づいて運用されています。なかなか経営が安定しないと頭を抱えるケースや、ここ数年で目まぐるしく動いている社会情勢、また超高齢化社会の到来に伴うニーズの変容による倒産の連続など、暗いニュースが多い状況です。そんな中でも堅調に売り上げを伸ばしている事業者もいます。そういった事業者は何に注力しているのでしょうか? この記事では訪問介護の平均売上についてのデータやその市場規模、今後の需要・売上を伸ばす方法について解説します。


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訪問介護事業の平均売上は?

厚生労働省が公表している「令和2年度介護事業経営実態調査」によると、介護保険における訪問介護の平均売上は2,645,000円(1事業所あたり)となっており、平成29年に行われた前回の実態調査時の2,263,000円(1事業所あたり)から16.9%増加しています。

その背景には延べ訪問回数が13.0%増加(645.8回→729.8回)していることからも分かるように、超高齢化社会の到来による社会的なニーズの高まりが売上額の押し上げに寄与している状況だといえます。

出典:「令和2年度介護事業経営実態調査」(厚生労働省)

訪問介護事業の現状と課題

超高齢社会が到来する中、訪問介護事業のニーズはますます高まっている現状にあります。
一方で、訪問介護事業を経営する上でいくつか課題があります。

訪問介護事業における現状

厚生労働省「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、訪問介護の事業所数は35,612事業所で、前年度より1.5%増加しています。

介護保険の年間実受給者数も令和2年~令和3年度で3.6%増加しているなど、社会的ニーズの増加に伴う市場拡大を読み解くことができます。

また、事業所の構成比としても営利法人が70.3%を占めていて、医療・福祉に関連する法人のみならず、異業種の法人が自社の強みを活かして新規事業参入している状況が増加しています。

出典:「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」(厚生労働省)

ただ、こういった社会的ニーズの拡大に比例して事業所数が増加している一方で、厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査」によると、収益額に対する収益と費用の差額の割合を示す指標である“収支差率”がマイナス値となっている経営悪化事業者が訪問介護事業所の20%以上となっているのも現状です。

出典:「令和4年度介護事業経営概況調査」(厚生労働省)

訪問介護事業における課題

訪問介護事業で経営が悪化する原因として考えられる課題が、以下の4つとなります。

①訪問介護事業(ホームヘルパー)だけに限らず、介護業界全体においては慢性的な人材不足と従事者の高年齢化が進行しているため、売上を伸ばす社会的需要が顕在化しているにも関わらず供給力不足が深刻な課題となっている。

②ケアマネージャーなどのソーシャルワーカー、またサービスの提供を希望している近隣住民に対して事業所の存在が認知されていない。

③介護に関する制度改正や補助金や助成に対する知見が追いついておらず“利益の見込めない”事業運営に陥っている。

④競合他社との差別化を上手く展開できておらず利用者が増えない、定着しない。

訪問介護事業の売上を伸ばす4つの方法

訪問介護事業の売上を伸ばす方法として、以下の4つがあげられます。

人材確保・定着に関する取り組みを実施する

職員の賃金や労働環境の見直しなどで、人材の確保と定着率アップを目指します。当然ながら労働保険への加入や定期的なストレスチェックといったメンタルケアの拡充によって、職員の定着率を高めることも大事なポイントです。

厚生労働省が公開している「一般職業紹介状況(令和5年2月分)について」では、介護業界の有効求人倍率は3.21倍(除くパート)と他業種と比べて非常に高い水準にあることからも、求職者に対して“どれだけ魅力的に映る事業所なのか”と言う視点での人材確保の取り組みは最重視すべき要素となっています。

出典:「一般職業紹介状況(令和5年2月分)について」(厚生労働省)

一例としては、働きながら資格取得を目指すための金銭的な補助やキャリアップのための研修体制を確立していくことがあげられます。

人材育成に関する制度を取り入れる際は、職員のさまざまなライフスタイルに応じて柔軟にキャリア形成ができるようにすることが大切です。

訪問介護事業の認知度を上げる

ケアマネージャーなどのソーシャルワーカーや、サービス提供地域で生活している近隣住民に対して、訪問介護事業そのものの認知を高める施策を実施することで利用者の取り込みにつながります。

「介護は家族が行うもの」という考えが未だに根強い概念とされているケースも少なくなく、そういった背景の中で“老老介護”や“家族介護”による介護疲れを起因とする共倒れも実際に発生しています。

まずは近隣住民をはじめとする地域に認知されること、そして“訪問介護サービスを享受することのメリット”を理解してもらうことが大切です。地域で行われている“検討会”等に参加するなどして、地域の関係者との信頼関係を構築していきましょう。

介護に関する制度改正への理解を高め、素早い適応を目指す

国や自治体が介護労働環境向上奨励金や雇用管理制度等助成といった事業基盤の底上げを行うための各種補助事業や専門性の高い人員を配置し、介護度が高い利用者等にも積極的に介護サービスを提供している事業所を評価する特定事業所加算といった様々な制度によって基盤整備を進めています。

介護業界は他業種と比較して、低賃金の傾向にあります。介護職員の賃金に対する処遇改善による収入のベースアップ施策への対応を進めることにより、職員のモチベーション向上を図ることも可能です。

また、介護分野就職支援金といった補助事業を活用する事で、他業種からの新規人材確保の手段を得ることも可能です。また、外国人介護人材の受け入れの仕組みに対する知見を高める等、制度改正によりもたらされる恩恵や加算取得を最大活用することで、専門性の高い人材の流出を防止と多様な人材の新規獲得による事業拡を図ることも可能です。

ICTを活用する

利用者の情報管理や職員の勤怠管理といった副次業務、月末月初の請求作業において、以前はアナログな手法が主流だったことから多大な時間が必要となっていました。

しかし、現在ではPC操作が苦手なスタッフであっても簡便かつ安価に使用できるICTツールが非常に多く出回っています。

ITツールを利活用、すなわち“DX(デジタルトランスフォーメーション)”を行うことで、事務業務で発生する工数削減、人件費の圧縮にもつながります。それにより、コア業務である利用者への対応に注力することも可能です。

また、介護ロボットの活用も進んでおり、職員の負担軽減などへの利用可能性が検討されています。

訪問介護事業の立て直しには専門家のコンサルティングもおすすめ

訪問介護事業の売上アップや経営状況の改善には、介護業界の知見があるコンサルティング企業のサポートを受けるのがおすすめです。介護コンサルティングは、正確な市場調査や現状把握のノウハウを持っており、事業再建に役立ちます。

土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。

土屋グループは、多数の事業承継、M&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、後継者不足、事業承継、事業の買収・譲渡(M&A)など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。

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まとめ

介護保険における訪問介護の平均売上は増加の一途を辿っていて、超高齢化社会の到来による社会的なニーズの高まりが売上額の押し上げに寄与する状況となっています。
しかしながら、倒産する事業所も少なくないため、
・”訪問介護事業”の認知拡充に努め、近隣住民の潜在ニーズを顕在化させること
・サービスを享受することのメリットを効果的に展開すること
が求められます。
事業を運営する中では、国や自治体が行っている各種補助事業を活用することで事業運営を円滑に進めることをお勧めします。
また、介護業界は業種として特殊な利益構造を持ち、また公益性の高い事業であることからも、知見の高いコンサルティング企業のサポートを受けることで、迅速な売上アップや経営状況改善を図りましょう。