なぜ「和歌山県南部エリア」に事業所開設?中山間・人口減少地域 事業所開設プロジェクトに迫る

全国47都道府県で障害のある方や高齢者への介護サービスを提供する株式会社土屋(本社:岡山県井原市、代表取締役:高浜敏之)が2025年11月、和歌山県新宮市に「ホームケア土屋和歌山南」を開設しました。
障害福祉サービスの提供事業者が存在しない、あるいは著しく少ない中山間・人口減少地域への事業所開設プロジェクトの第一弾。
なぜ「和歌山県南部エリア」に開設したのか。その背景に迫ります。(土屋総研主任研究員 上村広道)

https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020300/kids/wakadata/jinko.html
出典:和歌山県「和歌山県の人口」
【深刻な少子高齢化】
和歌山県の人口は約90万人(2025年1月1日現在)。
65歳以上の高齢化率は33.9%で近畿地方で最も高く、全国でも11番目に高い県です。
人口減少も続いており、国立社会保障・人口問題研究所によると、少子高齢化と労働力不足が深刻化するといわれる2050年には県人口は20万人以上減少すると推計されています。
特に県南部エリアは深刻な状況にあります。
今回、ホームケア和歌山南が事業展開する「新宮・東牟婁圏域」と呼ばれる6市町村(新宮市、那智勝浦町、太地町、古座川町、串本町、北山村)では、高齢化率が古座川町は県内で最も高い54.6%、ほかの4町村も40%を超えています。
2050年にはいずれの市町村も人口が4~5割減る試算です。
県内の身体障害者手帳所持者数は2024年現在、約5万1000人。
手帳を所持する方も減少傾向にあり、2018年に比べて5.5%減っています。
【「陸の孤島」】
厚生労働省によると、障害福祉サービスの利用者数を自治体別でみると、都市部やその周辺部では増加傾向にある一方、中山間地域や小規模自治体は減少傾向にあり、すでに「地域間格差」が起きている実態があります。
特に和歌山県南部エリアは、険しい山々が連なり、「陸の孤島」と呼ばれるほど交通インフラに課題を抱えてきた地域です。
新宮市から県庁所在地の和歌山市までは車で片道約3時間、三重県津市も約2時間かかる距離です。
障害のある方の在宅生活を支える訪問系介護サービスの事業者にとっては都市部の事業所から県全域をカバーするのが困難という地域的な特性があります。
さらに、新宮・東牟婁圏域の各市町村の人口規模は、最も多い新宮市が約2万5000人で、最も少ない北山村は約400人と小さく、人口減少も進む中で、事業者が現地参入する大きな障壁にもなっています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000084582.html
出典:土屋総研「障害者の地域生活を支援する重度訪問介護、関西2府4県の利用格差が最大4.8倍」
【事業者不足】
土屋総研が2023年に関西2府4県の重度訪問介護の利用状況等を調査した結果、「重度訪問介護の利用者がいない市区町村の割合」は和歌山県が最も高い66.7%でした。
大阪府や滋賀県は市区町村の8割超で利用されており、和歌山県の2.6倍に上ります。
その中でも新宮・東牟婁圏域6市町村の重度訪問介護の利用者は「ゼロ」です。
利用者一人あたりの登録事業者数も、奈良県は2.4事業者、滋賀県は1.4事業者でしたが、和歌山県は0.6人でした。
関西2府4県の中で2番目に少なく、和歌山県で登録事業者が不足している実態が明らかとなっています。
このように、和歌山県南部エリアは、▽中山間・人口減少地域▽地形による交通インフラ課題▽登録事業者の不足――などの要因で、障害がある方にとって必要なサービスが十分に提供されてこなかった地域にあるといえます。
今回の事業所開設プロジェクトの責任者である星敬太郎・土屋ケアサービスカンパニー副代表は「事業者が存在しないために、(障害のある方が)サービスを選択できない、ニーズを出すこともできない状況にあった」と言います。

星敬太郎(ほし けいたろう)
土屋ケアサービスカンパニー副代表
【歴史的な背景】
和歌山県では、1911年(明治44年)に紀伊半島で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の多発が学術的に初めて報告される等、歴史的にも特別な地域といえます。
特に県南部は、環境との因果関係は不明ですが、1960年代に古座川地区等でALSの多発が明らかとなり、80年代を境に発症者は激減しましたが、2000年代以降も確認されています。
株式会社土屋の中核である重度訪問介護事業のクライアント約1000人のうち、約4割はALS患者の方です。
星副代表は「全国で重度訪問介護事業を展開する社会的企業としても重要な地域です。
業界のリーディングカンパニーとして中山間・人口減少地域の中でも和歌山県南部からプロジェクトを始めたいという思いは強くありました」と語ります。
おわりに
2025年11月に開設した「ホームケア土屋和歌山南」ですが、必ずしも順風満帆な船出ではありません。
介護業界の人手不足が叫ばれる中、小規模自治体で常勤のアテンダントをどう確保するか、新人アテンダントの現地での養成・研修体制をどう構築するか、といった課題に直面しています。
株式会社土屋では、アテンダントが現地に移住する場合は家賃を全額補助する「移住促進プロジェクト」を立ち上げる等、人材確保策を進めており、春頃にはクライアントの支援が始められる体制が整うとのことです。
星副代表は「経営面でもきちんと黒字化できるモデルをつくり上げ、中山間・人口減少地域でも参入できる姿を社内外に示したい。そのためにも、ホームケア和歌山南を、クライアントのニーズに安定的に応えられる事業所に育てていきたい」と抱負を語ります。
2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)は「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」 を基本理念としています。
中山間・人口減少地域が抱える課題に直面しながら挑戦を続ける「事業所開設プロジェクト」の姿はSDGsの理念そのものではないでしょうか。
今後もプロジェクトの動きをご紹介していきたいと思います。
「土屋総研マガジン」では、障害福祉・高齢者福祉業界の動向や有識者インタビュー、障害のある方とご家族、それを支えるアテンダントの現状等をご紹介していきます。