社会福祉法人が事業承継する方法は?
社会福祉法人の事業承継にはさまざまな手法が用いられます。個々の特徴と自法人が求める目的が合致する手法を用いて手続きを進めていきましょう。
1.事業譲渡
事業譲渡等とは、社会福祉法人が運営する特定の事業を継続していくため、譲渡を想定している事業に関するすべての財産を他の法人に譲渡・譲受することです。
土地・建物などの目に見える財産だけではなく、事業を運営していく上でのあらゆる(人材や顧客情報、今までに培ってきたノウハウを含めて)財産を他の法人に譲渡・譲受します。
なお、社会福祉法人が事業譲渡を行う場合においては、一部の社会福祉事業のみを譲渡することは可能ですが、運営している社会福祉事業のすべてを譲渡の形で事業承継することはできません。
2.合併
2つ以上の法人が契約によって、1つの法人に統合されることを“合併”といいます。社会福祉法人が合併を行う場合、社会福祉法に定められているとおり、社会福祉法人のみが合併相手として認められていて、一般法人との合併を行うことは許可されていません。
また、社会福祉法人同士の合併においては“吸収合併”と“新設合併”という二種類の合併方法が存在しています。
3.経営権の譲渡
“経営権の譲渡”とは事業自体を譲渡する手法ではなく、運営意思の決定者である“理事の交代”など“経営権を譲渡する”手法です。
この方法による譲渡に際しては、意思決定機関である理事会の決議を必要とするもので理事会の3分の2以上の決定(賛同)によって譲渡が成立します。
事業自体を他の社会福祉法人に引き継ぐ訳ではないため、合併や事業譲渡よりも金銭的・時間的コストを削減できることが特徴と言えます。
社会福祉法人が事業承継するメリット
社会福祉法人の事業承継にはさまざまなメリットが存在します。事業の拡大だけではなく、事業の選択と集中を目的としたものもあります。
ここではそれぞれのメリットについてお伝えしていきます。
事業譲渡のメリット
自法人が運営している一部の事業を譲渡することで、事業継続が困難な社会福祉事業を整理できます。選択と集中による事業の立て直しにより、事業運営にかかる負担を軽減することにもつながります。
既存の職員やスタッフが困ることがないようなスキームを再構築できることもメリットの1つです。
合併のメリット
異なる法人が合併することで、それぞれの法人が保有している有形・無形の財産が1つにまとまり、経営基盤の強化が期待できます。
法人が持つ財産としては人的リソースのほか、サービスの種類、施設や設備等を含まれます。
また、1つにまとまった基盤を元に、合併相手が有していた人材や独自のノウハウを活かしてサービスの質を向上できたり、新たなサービスの展開を行ったりすることが可能です。
そのほか、今までに保有していなかった知識やスキルをもった職員を獲得することでの人材交流を通じた育成力の強化や教育水準の向上ができるメリットがあります。
経営権の譲渡のメリット
現在の運営基盤が変わることがなく、意思決定機関(理事会)における動きが中心となるため、財産の移動が発生する“事業譲渡”や“合併”において必要となる資産関係をはじめとした調整等の手続きが不要となるため迅速かつ容易に行うことができます。
経営者(法人代表)の高齢化に伴う退任など実行スピードが求められる中で法人の新陳代謝を高める意図においても、柔軟に実行に移しやすいことがメリットです。
社会福祉法人の事業承継手続きは厚労省のマニュアルを参照しよう
厚生労働省は2020年に「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」を策定しています。そのガイドラインの中では、社会福祉法人の合併や事業譲渡などを実施する上での手続きや留意点を解説しています。
また、厚生労働省が同じく公開している「合併・事業譲渡等マニュアル」には、実施におけるポイントや留意点がそれぞれまとめられています。
公益性や非営利性を求められる社会福祉法人の事業譲渡においては株式会社等の一般法人における合併や事業譲渡とは違い、様々な制約や所轄庁等行政との綿密な事前相談を経て実行されることを求められます。
特に事業譲渡や合併においては許認可関係や資産の移動が発生するため、実行から完了までに多くの時間を要する場合がある点や年度をまたぐ場合、手続きが重複する場合がある点からも余裕をもった対応が望まれます。
出典:
「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」(厚生労働省)
「合併・事業譲渡等マニュアル」(厚生労働省)
社会福祉法人の事業承継における注意点
社会福祉法人の事業承継には、独自のルールや法律で定義された注意点があります。それらを押さえた上で事業承継を進めていきましょう。
合併は所轄庁の認可を受けなければならない
当然ながら、社会福祉法人は許認可事業となることからも所轄庁より合併の認可を受ける必要があります。
また、合併完了後は2週間以内に、主たる事業所の所在地における所轄の法務局へ新設または変更の登記申請を行う必要があります。
法人外への対価性のない支出は認められていない
社会福祉法人は、条件を満たすことが可能であれば、社会福祉事業によって発生した剰余金を法人の本体の会計、もしくは同一法人が行う公益事業に充当することが可能となっています。ただし、この社会福祉法人ではない相手に対して、対価性のない支出(助成金や補助金等を含みます)を行うことはできません。
また、事業譲渡等においては、譲渡する事業の見積価格を超える金額を事業譲渡の対価としなければなりません。そのため、財産等の対価を決定する際には、財務調査・分析を通して、事業を適切に評価することが求められます。
なお、社会福祉法人には、一般の株式会社でいう“持分”という概念がないため、株式を対価とした合併において吸収される法人に対価が支払われることはありません。そのため、自法人における譲渡事業の価値を見積もり、その価値以上の受取対価でなければ、法人外への資金流出に該当してしまいます。
寄附財産や国庫補助を受けている財産の取り扱いに注意する
対価性のない支出について記載しているとおりにはなりますが、寄附財産や国庫補助を受けている財産がある場合、合併に際しては、書類の提出が必要となります。
事業譲渡の場合は、原則として非課税承認が取り消されるため、被譲渡法人は納税が必要となります。
職員や利用者に事前説明を実施して理解を得ておく
事業継承前後で発生する変化としては、就業規則・待遇・サービス提供内容等に関する変更が発生する場合があります。これらの様々な変化が職員や利用者に対して、困惑や不安を発生させるおそれがあります。
特に、職員の待遇や利用者に対するサービス提供内容の変更に関して、事前説明会を実施したり、個別での相談会を行うことで同意を得たりすることが推奨されます。
また、事業譲渡に際しては、新法人と利用者や利用者家族との間で再契約を行う必要がありますので、これらの書類を事前に準備して、サービスの切れ目が発生しないような配慮も必須です。
社会福祉法人の事業承継ならコンサルティングを利用しよう
社会福祉法人の事業承継には行政機関も関係するため、専門知識が必要です。コンサルティングを利用すれば、必要な手続きやリスクなどのアドバイスを受けられます。
行政機関との折衝においては、十分な準備や知見を必要とすることに加え、当然ながら承継先・承継元とも綿密な準備を行うことが求められる事から専門のコンサルタントのアドバイスを受けて進めることが最適解となります。
まとめ
土屋総研は、日本全国で福祉に携わる株式会社土屋グループの総合研究部門です。福祉サービスを利用する方の地域生活を維持することを目的として、共に地域を支える同業者へのコンサルティングも比較的安価で行っています。
土屋グループは、多数の事業承継、M&&A実績や、同業者へのコンサルティング実績があり、グループ内にも人材教育研修機関を有しているなど、事業の立て直しや人材不足、後継者不足、事業承継、事業の買収・譲渡(M&A)など総合的なサポートが可能です。ぜひご相談ください。