【横浜市社会福祉協議会 高齢福祉部会 生活介護研究会 研修会】客観的に見る介護業界

客観的に見る介護業界

1 介護業界を取り巻く背景

介護業界を取り巻く背景に、長きにわたって続いている人材不足の状況が挙げられます。

1人の求職者に対して、何社の事業所がその人材を欲しがっているかを表す「有効求人倍率」(厚労省)を見ると、2021年現在では一般職が1.13であるのに対し、社会福祉の専門的職業が2.88、介護サービスの職業は3.60であり、1人のケアワーカーに対して3.6事業所が獲得を希望している状態です。

ただし、都市部ではより過当競争の波に揉まれていて、2012~13年頃は東京における介護職の有効求人倍率は6倍を超えていました。

また、介護業界の中でも訪問介護は人材不足がはなはだしく、2023年8~9月の訪問介護ヘルパーの有効求人倍率は16倍を超えるなど、危機的状況にあります。

訪問介護事業所の倒産も相次いでいますが、理由はただ一つ。「ヘルパーが確保できないから」、これに尽きます。

ニーズはいくらでもあるけれども人材が不足しているためにサービスが提供できず、売上がどんどん下がり、後継者もいないことから「もう限界だ」と廃業する事業者が多くあります。

このように常時、人員が不足する中では求人に応募がある時点で貴重であり、採用条件を緩和せざるを得ない現状があります。

いろいろと悩ましい部分はあると思われる方も採用に至るケースが多くあり、介護業界における就業のハードルは下がり続けています。

もっとも、それにより社会復帰を果たせる人もいることから良い面もありますが、不安定な人材の流入があることも事実です。

2 介護の仕事の負担

不安定な人材が入流する一方で、介護の仕事にかかる負担も様々あります。

まずは、弱者支援です。弱者は基本的に不安が大きく、負の感情(怖れ・怒り・猜疑)に陥りやすい傾向があります。

認知症における物取られ妄想などはまさにその典型ですが、こうした負の感情(怖れ・怒り・猜疑)に向き合い続けることは、精神的負担が大きいと思われます。

二つ目は、不規則勤務です。生活リズムが不規則になり、身体的・精神的負担が大きくあります。

三つ目は、教育の課題です。介護ヘルパーは最速で約1か月で研修を終えた後、すぐに現場に出ることが可能です。

可能性としては素晴らしいですが、学んだことを使えているのかと言えば疑問視されるところではありますし、技術的な負担もあると感じます。

四つ目は、心理的安全性が確保されにくいことです。例えば営業であれば契約件数が評価基準となり、価値が明確ですが、介護においては基準が不明確になりやすい。

「介護に正解はない」という言葉に象徴されるように、何が正しくて何が間違っているのかがシンプルに答えづらいために、心理的安全性の観点で負担が生じます。

最後に、介護は生活の延長の仕事です。利用者に寄り添い、その方の日常を支援するのが仕事ということもあり、仕事のスイッチが入りにくいものでもあります。

人に寄り添い、距離を縮めながら利用者に快適に過ごしてもらうために、言葉の使い方も含めて、気づくと仕事のスイッチではなく、日常のスイッチが入っていることも多々あり、それにより仕事用の顔と、本来の自分自身との境目が曖昧になることで精神的な負担につながっていると感じます。

つまり、多様な過負荷を抱えて仕事を行うのが「介護」であり、健康な人であっても負担が大きいにもかかわらず、心身の不調や色々な課題を抱えている人も担っています。

もちろん、そういう方々が虐待を起こすわけではありませんが、健康な人よりも負担が大きいのは間違いないと思います。

虐待を防ぐ事業所の取り組み

昨年、介護業界で起きた虐待事件を見ても、性的暴行・盗難・暴行・日常的な暴力など、日常的にこうした事件が起きていることがうかがえます。これは業界として課題があると言わざるを得ない。

虐待は、介護という仕事上、一定の必然性があり、何もせずに放っておけば起こるものであると考えて良いと思います。だからこそ、しっかりとした対策を事業所ごとにする必要があります。

平成25年度の高齢者虐待対応状況調査(厚労省)では、「倫理観や理念の欠如」が約10%、「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ」が約13%となっています。

令和2年度の介護労働実態調査では、転職理由として「成長できない」が約15%、「経営理念への不満」が約10%となっています。

双方に“組織的”な意味合いがあり、虐待が単純に“虐待をしてしまった個人の問題”だけではないことがうかがえます。個人の問題で片付けると、事業所としては一切対策ができないわけです。

倫理的に素晴らしい人たちが集まっていてさえも、過負荷がかかったりなどで虐待しかねない状況であるのに、そうでもない業界にもかかわらず、個人のせいにしていると虐待を絶対に防止できません。

1 虐待を防ぐための事業所の取り組み

「介護に正解はない」、けれど何やってもいいのかというと、ここが介護事業所の難しさだと思います。例えば、施設で「家帰りたい」という利用者に対し、様々な対応が取られていると思います。

嘘をついてなだめることもあるでしょう。でも、こうした嘘が正しいのかどうかも含め、何をしてもいいのかが曖昧です。そして、これが不適切なケアや虐待を招きやすい要因の一つではないかと感じます。


だからこそ、虐待を防ぐための事業所の取り組みとして、事業所の「クレド」を具体的に作ってPDCAを実行すべきだと思っています。

<クレド(Credo)とは?>
企業全体の従業員が心がける具体的な信条や行動指針のこと。

(1)クレドを浸透させることが虐待防止につながる理由

①同じ価値観で仕事を行う

介護は生活の支援であり、生活の延長で介護職はサービスを利用者に提供しなくてはいけない部分があります。その中で、ケアワーカー自身の生活の価値観が入り込みやすい背景があると思います。

例えば、利用者がカレーに入れるニンジンをみじん切りにしたところ、非常に怒ったスタッフもいましたし、トイレ以外の場所で排尿した際に、スタッフによっては許せなかったりもします。

排泄物に関して厳しいしつけを受けて育った人はえてしてそうなりがちですが、こういった細かい生活の価値観が、生活の延長の仕事だからこそ、非常に入り込みやすい。

そして、ふとした時に生活と仕事の境目が曖昧になって、緊張感を失って感情的になってしまい、これが虐待につながるケースもままあります。

そのため、スタッフが同じ価値観で仕事を行えるように、クレドを作成することが虐待防止のキーとなります。

(2)クレドをどのように根付かせるか?

①事業所の理念・基本方針をかみ砕く

事業所でクレドをどう根付かせるかですが、事業所の理念・基本方針をかみ砕いて現場に合わせたものを作成するのが有効だと思われます。

そのため、土屋グループの定期巡回では現場に落とし込んだ運営方針を大きく二つ、掲げています。

①クライアントの在宅生活を支えるために365日24時間サポートします。
②介護保険の理念である「尊厳の保持と自立支援」を元に、サービス提供を行います。

①においては、「自宅にいても施設のように生活全般をサポートできるサービスを提供しましょう」と、施設介護の考え方を取ることを明確にしています。

そして、「この時間にサービスに入ってほしい」というニーズには応えられなくとも、「最期まで家で暮らしたい」というニーズには全力で応えましょうとしています。

②では、尊厳の保持について「自己決定、プライバシーの保護、人格尊重」の3点をしっかりと行い、自立支援に関して、「身体的自立、精神的自立、社会的自立」等を目的とした本人の「自発性」に注目してサービス提供しましょうとしています。

このように事業所が目指すべき姿を明確にした上で、一人一人のケアワーカーがすべきことを細かくまとめています。

目指すべきクライアントの姿・生活

  1. 自分で決める
  2. よく話す(会話)
  3. よく動く(楽しみ、趣味、家事等)
  4. 「何かをしようとする」自発性 
  5. 健康に

<アテンダントの対応・行動>

  • クライアントに尋ねる(勝手に決めない)
  • クライアントを促す(少しでも動いてもらう為に)
  • 自立支援を念頭に、クライアントのその瞬間のニーズに応えようと努力する
  • クライアントを急かさない
  • クライアントの言うこと・やることを否定しない
  • 決まった呼び名の使用と丁寧な接遇
  • 丁寧かつ素早く

<一人一人のアテンダントが目指すべきこと>

  • クライアント(家族を含む)一人一人との信頼関係の構築
  • クライアントの情報収集
  • クライアントの真のニーズの把握(小さな声を探す)

②振り返りシートの作成

事業所で求められることが明確になっても、それだけでは不十分です。そのため、振り返りシートを作成し、勤務開始より20日間実施しています。

<振り返りシートの一部>

・あなたは今日一日、計画に基づいた支援が行えましたか?
1、できた  2、まぁまぁできた  3、あまりできなかった  4、全然できなかった理由は?(                         )

・あなたは今日一日、クライアントが自分の意思で生活できるように支援しましたか?
1、できた  2、まぁまぁできた  3、あまりできなかった  4、全然できなかった理由は?(                         )

・あなたは今日一日、クライアントの心身の状況に応じて生活する上で必要な支援を行えましたか?
1、できた  2、まぁまぁできた  3、あまりできなかった  4、全然できなかった理由は?(                         )

・あなたは今日一日、クライアントのプライバシーに配慮した支援を行えましたか?
1、できた  2、まぁまぁできた  3、あまりできなかった  4、全然できなかった理由は?(                         )

事業所の理念をかみ砕き、現場のケアワーカーの行動レベルまで一つ一つ落とし込むことによって評価基準が明確になり、ずれが生じにくくなります。

③目標設定


毎月、現場の理念に基づいた目標設定を行うのも効果的です。例えば、有料老人ホームでスピーチロックの増加が課題である場合、目標を「入居者に『ダメ』と言わない」に設定します。

そして経過を翌月の会議で報告し、細かい修正を掛けながらPDCAを回していきます。

すると、利用者の行動に対し、制止する言葉を掛けたり、「ダメ」と言ってしまったスタッフも「言っちゃった!」と、その都度反省して、大幅にスピーチロックが減少します。

しばらくして同じ課題が現れると、その都度取り上げて解決していくのが有効です。

(3)クレドを使ったPDCAは何をもたらすのか?

クレドを浸透させることにより、介護現場における「ケアの質の基準」、とりわけが「やってはいけないケア」の最低ラインが決まると思います。

介護に正解はなくとも、明らかに利用者にとって不快なことなど「不正解」はある。虐待防止を考えると、この「やってはいけないケア」の最低ラインを決めることは優先順位としては高いと考えます。

ケアの質の基準を偏差値で例えると、とてもいいケアする人が75、標準の人が60、少し心配な方が45と、どの事業所でもばらつきがあると思いますが、チームとしてこの偏差値が高ければ高いほど虐待は起きにくく、下がれば下がるほど不適切なケアが日常化してしまうので、虐待発生確率が非常に高まります。

接し方や呼び方など、細かいことの積み重ねでケアの基準は決まってくると考えますが、マネージャー・リーダーのすべきことは、この基準をどう高め、維持するかであり、これが虐待防止を考える上で、事業所にとって最も重要なテーマの一つだと思います。

そのために、クレドから外れている支援の事例改善に取り組むということが重要となってきます。月に1回程度、具体的な事例の改善を実施するのが有効です。

ポイントとしては大きなことよりも、細かい小さなことを随時改善する。自分たちの行っているケアの延長で、一つ一つの事例に基づいてディスカッションするのが大切だと思っています。

虐待から自分を守る取り組み

介護職は過負荷のかかる仕事をしているので、気づくと自分自身が無防備になっていることが多いと思います。だからこそ自分で自分を守らなければいけない。

平成25年度の高齢者虐待対応状況調査(厚労省)では、「職員のストレスや感情のコントロールの問題」が虐待発生要因の約26%を、「教育・知識・介護技術等に関する問題」は約66%を占めており、これらの問題は個人で取り組むべき要因だと思います。

介護は長年の知識と経験でそれなりにできてしまう仕事だとは思いますが、30年前の価値観と現在の価値観も違う中で、“どれくらい自分自身をアップデートしているのか”が虐待加害から自分を守り、自分のストレスを感じにくくすることにつながります。

長く働いている中で、夜勤帯や忙しい時、プライベートに課題を抱えている時に虐待しそうになったことは多くの方が経験していると思います。

虐待は一度でもしてしまうと虐待加害者の立場になってしまうので、そうならないための対策が必要です。

高齢者に対する虐待の50%以上が認知症の方であり、認知症ケアは虐待の中で大きなポイントになると思いますので、認知症を例に解説します。

(1)知識、技術の向上

介護現場では、利用者の言動に対して、介護職員がストレスを感じる現象が起きると、そのまま対応するということになりがちです。けれど、これを本来あるべきプロセスにすることが重要です。

つまり、
「ストレスを感じる」⇒「考える」⇒「分析する」⇒「理解する」⇒「対応する」

このプロセスを経ることで、ストレスがかなり緩和し、気持ちも落ち着くはずです。結果的に、虐待加害から身を守れます。そのために知識が必要となります。

介護のプロは、実践し、それに対して説明責任を果たせることだと考えますが、現場では“なんとなく対応”していることが多いと思います。

実践はしているし、その対応が間違っているわけではないけれど、忙しい中では対応が優先されて、そこに対して根拠・理解を持てているかと言うと疑問です。

例えば、「物忘れ」と「記憶障害」の違いを言葉で説明できる人は、介護歴が長くともなかなかいないものです。けれど、言葉で伝えられるということは、職員同士でもその人の症状や状態に対して客観的な意見交換ができるということです。

また、ドクターなど多職種とやり取りするときに非常に重要になります。

①どうして知識定着が難しいのか?

介護現場でよく見られる光景として、利用者が「家に帰る」と言った際のケアワーカーの対応です。

・とりあえずごまかす!
「自分は車運転できないから行けない。運転できる人が後で来るから待ってて。

・必死になって説得する!
「あなたは、ここに住んでるんです!家には帰れないんですよ!」

・脅す! 
「一人で家に帰っても、誰もいなくて、食事も出ないし、困るでしょ?それでもいいの?」

ここに見られるのは、すべて「知識を使ってない」ということです。これが良くないことだと分かっていない。忙しすぎて対応に追われ、知識を使うことがないので知識が定着しない。

そして「教育期間の短さ」です。知識と利用者の症状が一致するだけの教育プロセスを経ていない。

認知症のケースでは、見当識障害がどう出てくるかが人によって異なり、中核症状や性格、育ってきた環境や生活歴、そしてその時の心理的背景など様々なものが絡まって、

「ご飯食べてない」「家に帰りたい」「嫁に物取られた」

というように、いろんな形で込み合って出てきます。

非常に難しいにもかかわらず、現場に出ると忙しすぎて考える余裕がなく、すぐに対応しなければいけません。気づくと学んだことを忘れ、どう対応するかが優先されると思うようになっています。

だから、知識と利用者の症状が一致していないわけであり、こうした認知症に対する理解不足、技術経験不足が上記の不適切なケアに至る要因です。

不適切な対応をしているスタッフは事業所に一定数いると思いますが、やる気がないわけでも意地悪なわけでもなく、単純に対応できない、専門性が足りないからだと考えます。

②知識を定着するための取り組み

専門性をもったプロセスとは、まず「どのような症状か」を冷静に考えることから始まります。例えば、「家に帰りたい」と言う利用者は“見当識障害”が起きているんだと。

次に、対応するに当たり、その原因を、性格・生活歴・状況等を考慮しながら探ります。すると「そういえば子どもが家に帰るのを迎えに行く」と言っていたから、子どもを迎えに行かなくてはいけない生活的な背景があるようだと。

ケアワーカーはえてして、利用者を落ち着かせようと、対応するところが優先されていて、そこに基づく認知症の症状が忘れられています。専門職として、「対応」する前に「考える」癖をつけることが必要です。

そうすることで、「見当識障害が極度だからこうなっている」とラベリングすることで客観的に見ることができ、自分自身のイライラもかなり落ち着くはずです。

ただ、そう簡単には癖付けは難しいので、例えば下図の“中核症状からみた食事のアセスメント”などをするのが効果的です。

複数の食器が配膳されると食べ始められない、これは「注意障害」だといったように。こういったものは、現場では「認知症だから」で片付けられていることが多いです。

でも「注意障害」だということがわかれば、どういう環境を作れば食事に集中できるかを検討できるわけです。

なるべく周りの音を遮断して、なるべく視界を狭めてあげて、食事に目が行く形を取れば、食事もちゃんと進みます。

でも、「認知症だから」で片付けていると、「認知症だからなかなか食べないんだよね、○○さん、ご飯だよ!」となってしまうわけです。

同じように、BPSD(行動心理症状)のアセスメントをするのが効果的です。

BPSDは性格や気持ち、生活歴なども含めて考えなくてはいけないため、実際はもう少し複雑ですが、まずは認知症の症状の何が影響しているかを考えることは重要です。

こういった「考える癖」を日常的に行うことでアセスメント力も高まります。ケアワーカーが持っている情報量は非常に多いですが、あまりうまく使われていません。

個々の情報を結び付けながらチームで支援するのがチームケアとして望ましいことですが、アセスメントがしっかりできることで、より早くチームで利用者の状況を共有し、適切なケアにつながります。

③知識を定着するための具体的な訓練方法

認知症の方の基本的な心理状態として、「常に包まれる不安・不快」「自分の存在に対する危機感」「つながりの喪失」「役割の喪失」「孤独感・寂しさ」が挙げられます。

人は成長する過程で何かを獲得することによって評価されてきていますが、認知症では機能も記憶も失っていく過程に入ります。だからこそ不安で仕方がないはずで、マイナスな感情に陥りやすい。

介護職はそういう方々のサポートをしているので、自分自身がより芯をもって関われる状態になった方がいいのは言うまでもありません。

そのため、知識を定着させるために、学びではなく「訓練」が必要だと思います。まずは下図のアセスメントを繰り返し行うのが有効です。

アセスメントを毎日繰り返す

あなたが今日困った認知症の症状は?
・状況(         )
・その元となる中核症状は?(           )
・その時の利用者の心理状況は?(         )

高齢者に対する虐待の50%以上が認知症の方という中で、認知症ケアは虐待の中では大きなポイントになると思っています。

介護者が認知症の方に「専門職」としてではなく、「一個人」として対応してしまうと、バタバタして焦っている中で個人の価値観が出てきやすく、客観的な視点の欠如などから様々な問題が生じてしまいます。

それを避けるには上記のアセスメントを振り返りシートなどで習慣化することが重要です。

どんなに忙しくても「対応」する前に「知識」のフィルターを通して「考える」ことで、冷静に客観的に利用者と対応することができ、自分のイライラが減って自身をコントロールすることが可能になります。

ただ、間違えないで欲しいのは、認知症の「知識」を通して利用者一人一人を見ていくのは大切ですが、その方の「人」としての個性や価値観、背景、どう生きたいのかなどはより大切です。

あくまで、知識は利用者の背景や心の状態を理解するための大切な要素の一つにすぎないということは注意すべき点ではあります。

(2)ストレスマネジメント

介護は「感情労働」であり、ケアワーカーにかかるストレスも多大です。利用者一人一人の価値観と向き合い、受け入れていかなくてはなりません。

90歳の人が急に18歳だと言い出したりするなど驚愕の瞬間があり、自分たちの「常識」が通用しなくなる場面も多々あります。そして、人の負の側面と向き合っていくプロセスでもあります。

そうした中で、数々の虐待が起こっているのが現状ですが、その原因は感情をコントロールできなくなることにあります。それ故、感情をコントロールする訓練が必要となります。

(1)感情コントロールの対処法(短期的訓練)

①焦点を変える

まずは『自分にプラスになる質問をする』のが効果的です。

「Aさん、どうしてわかってくれないのかな?」
➡「Aさん、どうしたらわかってくれるだろ?」

プラスの見方に変えるだけで感情をコントロールできるようになります。

②言葉を変える

『マイナスの言葉を言わない』ことも重要です。

「もう、本当にイライラする」
➡「さあ、仕切り直していこう!」

前向きに物事を捉え、今ある状況をどう楽しもうと考えるだけでイライラは減少します。

③身体の使い方を変える

『良い身体の姿勢をする』こともポイントです。イライラしている時は身体が緊張し、力が入っています。

肩が内側に入り込み、姿勢が悪くなり、視野が狭くなっているので、上を向いたり、身体を伸ばしたり、肩や首を回す等のストレッチを行うことで一呼吸おけて気持ちを切り替えることができます。

(2)感情コントロールの対処法(長期的訓練)

感情コントロールの長期的対処法として「ストレスに強い自分を作る」ことが重要になります。

ストレスがたまった時、脳内では「セロトニンの減少」が起きるとされています。セロトニンが不足すると、いくら寝ても寝不足状態になり、疲れがたまりイライラするようになります。

表情はいつも鈍く、猫背で全身がたるんだ感じになり、さらに食欲が抑えられず太ってきます。

セロトニンが不足する原因として、

「慢性的な運動不足」「昼夜逆転といった不規則な生活」「毎日数時間パソコンやスマホ、ゲームをしている」「ひどい便秘」「肉や魚、乳製品をあまり食べない」「アルコールの飲み過ぎ」

が挙げられますが、現代においては仕方のない側面もあります。

では、セロトニンをどう増やすかですが、次の3点が挙げられます。

①笑顔を作る

口角をキュッと上げて笑顔を作ると、脳が「楽しいらしい」と勘違いしてセロトニン神経が活発になります。

また、セロトニンは人に伝播すると言われるので、笑顔になっていると利用者の笑顔にもつながります。

②しっかり噛む

柔らかいものを食べることの多い現代人ですが、そう言う食文化の中で意識してしっかり噛むことが大切です。ガムを噛むのもよいと言われています。

③呼吸を整える

呼吸と精神は深いつながりがあると言われ、一定のリズムで深い呼吸を繰り返すとセロトニン神経が活性します。

コツは「呼吸に集中する」「5秒吸って10秒吐く、吐く方を意識する」「姿勢を正して、10回以上行う」というもので、ヨガや瞑想、マインドフルネスなどが、ストレス緩和に有効です。

とりわけマインドフルネスは集中力が上がり、物事を客観的にみられるようになると言われています。

(3)介護のプロとして、しっかりと準備する

介護のプロとして、自分自身のメンテナンスは大切です。介護は感情労働であるとともに、肉体労働でもあります。

介護現場の「肉体労働」におけるリスク例として、「腰痛、肩こり等」「睡眠不足による集中力の低下」「筋肉低下における事故」が挙げられます。

「腰痛、肩こり等」を防ぐためにはストレッチ等を、「睡眠不足による集中力の低下」には睡眠時間の確保を、そして筋肉低下における事故」を防ぐためには筋トレや定期的な運動を行うことが必要です。

また、介護現場の「頭脳労働」における準備も大切です。

研修への参加や読書などにより、「認知症に対する理解の不足」「基礎的な医療知識の不足」「誤った介護技術」を解消し、護職同士の集まりに参加することで「誤った認識」を正しましょう。

自分自身が虐待加害者にならないためにも「プロとしての準備」が非常に重要です。

まとめ

虐待は、事業所でも自分自身でも、いつでも起こりかねないという危機認識をもつことが大切です。

質の高いケアを目指すことで虐待を未然に防ぐことが可能になります。

利用者・介護職を守ること、そして事業所を守ることは同じベクトルを向いているため、それぞれが自分のできることに取り組んでいくことが必要です。

質疑応答

○価値観がご本人とご家族で食い違うとき、何かいい工夫があれば教えてください。

⇒これは、どのサービスを提供しているか、サービスの目的がどこにあるかによって変わってくると思われます。

施設、入居系であれば、基本的には家族に説明もしますが、利用者のニーズに振り切っていいと思っています。

なぜなら家族は利用者を施設に預けている状態なので、利用者のニーズが家族にとって思わしいものでなかったとしても、極論を言えば、家族の生活に支障は出ません。

そういった意味では、利用者のニーズを優先した方がいいと考えています。もっとも、事業所としてのリスクマネジメントとして、例えばクレームなどに発展しないためにも、ご家族への説得・説明は大切だと考えます。

一方、在宅では趣が変わってきます。なぜなら在宅で生活されてる場合、利用者には在宅で過ごし続けるという一つの大切な目的があると思います。

その中で、利用者の気持ちを優先するがゆえに、家族の負担が増え、それによって在宅で暮らせなくなるということが起きると、事業所としても、在宅で暮らし続けるという利用者の目的を侵害することになりかねません。

そのため、利用者とご家族の考えに齟齬がある場合、ご家族のニーズを優先すべき時はあると思います。

家族だから分かりあえているというのは一つの誤解で、価値観が共有されていない面もあったりするので、ご本人の想いとご家族の想いとの間にパイプになるのもケアワーカーの役割だと思います。

○振り返りシートですが、個人で振り返った後にチームのみなさんで話し合いをしたりするのか、研修のシステムはありますでしょうか?

⇒当社では、振り返りシートは上長に提出します。提出した中で、必要があれば上長がケアワーカーと話し合う形をとっています。ケアワーカー一人一人が書いたことを全体に開示するのは心理的安全性に欠けるので、それは基本的にしていません。

ただ、当社の振り返りシートでは、「働いている中で今日疑問に思ったことはありましたか」という他のスタッフのケアも書ける構図にしてあるので、上長やリーダー層が、それぞれの振り返りシートからチームでの話し合いの材料を得ることはできます。

その点では、個人名は出さないで、事業所の共通の課題としてディスカッションすることは可能だとは思いますが、当社では行っていません。

○ケアの偏差値ですが、数値化するということにおいて、比較するためのシートなどを活用していますか?

⇒実際に数値化は行っていません。偏差値はあくまでも例えであり、明確に数字を使って評価はしていません。

ただ、この部署は良いけれど、あの部署は心配だというのは各事業所であると思います。

やはり介護現場で肝となる役割は、現場に近いリーダーだと思うので、彼らのマネジメントをどうサポートしていくのかが非常に大切だと思います。



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