介護労働の報酬は適切か?

介護と経済 介護労働の報酬は適切か?

横浜市立大学都市社会文化研究科教授
影山 摩子弥

介護サービスは、事業者に払われる報酬も、介護サービスの従事者に払われる賃金も、低い印象があります。

表1をご覧ください。クライアント宅を訪問して介護・看護・医療のサービスを提供する場合に、事業者が受け取る報酬を大まかに算出したものです。介護などのサービスを行ったヘルパーや看護師に払われる賃金ではありません。この中から、介護用品の費用などを除いた分が賃金にまわることになります。

障がい者介護については、障がい者宅で1日8時間の業務を行うと想定しています。それ以外の場合、1日4か所を1時間ずつ訪問すると仮定しています。医師は1時間も滞在しないと思いますが、訪問診療も4か所としました。

報酬の算出の際、民間事業者の賃金水準などをもとに、「級地」による支給割合の調整が行われます。この表は、土屋の本社がある岡山県井原市で業務を行った場合を想定していますが、その場合、「その他」になり加算がないので、その表記は割愛してあります。また、介護については、処遇改善のための加算を加えてみました。

処遇改善加算を加えても、介護は、特に障がい者介護は報酬額が低いです。加算は早朝や夜間の場合にも付きますが、そういった加算を加えても、事業所も経営的に厳しそうですし、介護サービス従事者も重労働の割には低賃金という状況にあることがうかがえます。

むしろ、加算がないと相当に厳しくなります。きつい割には低賃金ですと、人手不足になることは目に見えています。そこで、外国人労働力の導入も検討されています。なぜ介護サービス労働の報酬はこれほど低いのでしょうか?

そこには経済合理性に基づいた考え方があると言ってよいと思われます。経済合理性とは何でしょうか?それは、お金で換算できる価値(これを経済的価値と表現しておきます)につながるかどうかで判断してゆく考え方です。

例えば、利益や所得、そのもとになる経済的な価値を生むかどうかということです。現代は、経済の論理になるべく任せようという新自由主義の傾向がありますから、このような発想がいたるところで垣間見ることができます。

この点から言うと、介護サービス労働は経済的な価値を生まないが、最低限の福祉は必要なので、その限りでの報酬が設定されているということであろうと思われます。

では、介護サービス労働が価値を生まないというのはどういうことでしょうか?

障がい者や高齢者が生活するために必要なサービス労働を提供しています。大きな価値があるはずです。しかし、それは人権論的発想です。

経済合理性の観点からすると、「介護が必要な障がい者や高齢者は働けない。つまり、経済的価値を生まない。したがって、そのような人々をいくらサポートしても経済的価値に貢献することはない」ということになります。

他方、医療は、働ける人たちを治療し、その人たちが元気に働くことができれば、経済的価値を生むので、医療は経済的価値に貢献します。それゆえ、報酬も多くて当然ということにもなります。

非常に危険な発想ですが、いつの時代にもみられ、優生思想の背景にもなります。でも、本当に障がい者は価値を生まないのでしょうか?次回はこの点を掘り下げたいと思います。

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