介護と経済18 お金とコミットメント 

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お金とコミットメント

株式会社土屋顧問/土屋総研特別研究員
影山 摩子弥

【介護サービスの労働生産性】

労働生産性は、同じ従業員数や労働時間でたくさん生産したり、少ない従業員数や労働時間で同じだけ生産したりすれば上がります。

もちろん、IT化やDX化によって仕事の効率を上げることも労働生産性に影響しますので重要です。ただ、介護サービスの場合、IT化やDX化によって労働生産性を格段に上げることは、難しい部分もあるように思います。

これまでの経営学の研究成果を見ると、働き手のモチベーションを上げることが重要となってくるように思います。仕事に対する前向きの姿勢を高めるということです。

サービスの領域は、対面で行われることが多い傾向があります。介護サービスはまさにそのような領域です。現場で介護の仕事にあたるアテンダントのモチベーションの高さが、介護サービスの質を左右し、介護サービスを利用する高齢者や障がい者がよりよい生活を送れるかどうかを左右すると考えてよいと思います。

【モチベーションに影響を与える要因】

仕事に対する前向きの姿勢を高めるためには、仕事を面白いと思っている、やりがいを感じている、仕事を最も優先している、良い会社だと思っている、経営層に共感している、同僚との関係が良いといった要因が重要となってきます。つまり、会社や人間関係、仕事に満足していることがモチベーションに影響を与えます。

ただ、モチベーションは心の動きです。やる気があるように見えても、そのようなポーズをとっているだけで、必ずしもそうではないこともあります。やる気満々には見えなくても、内なるやる気を表面化させない穏やかなタイプであるだけで、仕事に非常に積極的に臨むということもあります。

他方、仕事や会社にどれほどかかわろうとしているか、かかわっているかという観点から、その動機とのかかわりで、かかわろうとする姿勢を整理するアプローチもあります。その場合、コミットメントと表現されます。

【コミットメントの種類】

会社や仕事にかかわろうとする動機が強ければ、一生懸命働くので会社としては望ましいということになるでしょうし、前向きの姿勢であれば、いやいやながら仕事をしているわけではないので、労働生産性も高いでしょう。また、働く側にとっても、仕事を中心とした生活の充実度が高くなるでしょうし、精神的な負荷が少ないのでうつ病になるリスクも低下するかもしれません。

コミットメントは、経営学ではいくつかに分けられてきましたが、愛着的コミットメント、存続的コミットメント、規範的コミットメントなどの分け方がよく見られます。

愛着的コミットメントは、簡単に言えば、会社が好きだからしっかり働くといったケースです。動機としては、会社にとっても本人にとっても望ましいものと言ってよいでしょう。

存続的コミットメントは、所得を得るために働いているというケースです。仕事がつまらない、やる気が出ない、会社への思い入れはない、しかしながら食べるために仕方なく働いているといったケースがイメージできます。会社への帰属意識が低いので、不祥事につながることをしでかしたり、仕事の効率や成果が低かったりといった問題につながることもあり得ます。この場合、給与だけで働かせようとすれば、極めて大きな金額が必要となります。しかし、愛着的コミットメントが高ければ、給与はそれほどでもなくとも働くことになります。

最後の規範的コミットメントは、雇用されている以上きちんと仕事をするのが筋という倫理感ないし規範意識に基づくコミットメントです。存続的コミットメントよりは良いですが、必ずしもやる気につながらなかったり、生産性の高さにつながらなかったりすることもあります。

モチベーションや愛着的コミットメントを高めるには、仕事や会社に対する満足度が高いことが必要です。やりがいがある、仕事が面白い、良い会社だと思う、経営層に共感できるといった要因です。このような要因を高めるためには、ここに合わせた研修やワークライフバランスの制度などが必要となります。

それゆえ、近年では、研修や雇用の制度が人を育てる投資になるという意味合いを伴って、つまり、社員を、価値を生む存在であり、そのためにしっかり投資をせねばならない対象であると位置づける「人的資本」の議論が盛んになっているのです。

【お金の意味】

マズローは、人間の欲求を5つに分けました。生きていくために食べ物が欲しい(生理的欲求)、生命が脅かされないよう安全を確保したい(安全の欲求)、仲間が欲しい(社会的欲求)、仲間に認められたい(承認欲求)、自分が自分であると思える状況を確保したい(自己実現の欲求)の5つです。その後さらに分けるのですが、5つの分類がポピュラーです。このような欲求充足がコミットメントや仕事のやる気につながる可能性があります。

お金はドライな印象を与え、存続的コミットメントと結びつく必然性が感じられます。しかし、給与は、会社や同僚による自分に対する評価という面もあります。その場合、マズローの承認欲求を満たすことになります。それによって仕事への積極性や会社への求心力が上がる可能性も高まります。

給与もどのようなコンセプトで用いるかによって、それほど大きな金額でなくともモチベーションを上げ、愛着的コミットメントを高めることになるのです。

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