介護労働者の早期離職理由とは 1/2

【介護労働者不足の原因】
介護は、家電品や文具のような物質的な形をとらない財貨です。このような非物質的財貨のことを経済学ではサービスと呼びます。介護サービスは、社会に不可欠ですから、その担い手不足は深刻な社会問題です。
介護サービスの担い手である介護労働者が不足している原因の1つは、担い手の賃金水準が低いことにあると言われてきました。
東洋大学の花岡智恵は、2010年の論文ですが、データを用いて実証分析を行い、興味深い結果を導いています。
[ 花岡智恵「介護労働者の早期離職要因に関する実証分析」PIE/CIS Discussion Paper 472, Center for Intergenerational Studies, Institute of Economic Research, Hitotsubashi University
花岡智恵「介護労働力不足はなぜ生じているのか」『日本労働研究雑誌』(658)、pp.16-25、2015年も参考になります。]。花岡が導いた結論だけを抜き出せば次のようになります。
1.他職種に比べて賃金が高い場合、施設系非正規職については勤続1年未満で、施設系正規職については勤続1~3年未満で、早期離職が減少。
2.同職種と比べて賃金が高い場合、施設系正規職については勤続1~3年未満の早期離職割合が減少。
3.特別区・特甲区では他職種と比べて賃金が高くても勤続1年未満の施設系正規職の離職が増える一方、勤続1~3年未満の場合は減少。
4.施設系正規職・非正規職の腰痛予防を行った場合、訪問系正規職の安全対策を行った場合、施設系非正規職の資格取得研修を行った場合、離職者割合が減少。
正規職・非正規職および勤続年数によるばらつきがあるものの、介護サービスの担い手の賃金は、早期離職に影響がある面があることが分かります。
東京大学の大久保将貴も賃金との関係に着目した研究を行っています。
[ 大久保将貴「介護労働における就業継続意向の規定要因」『フォーラム現代社会学』15 (0)、関西社会学会、pp.46-59、2016年、大久保将貴「介護労働における早期離職率の規定要因」『福祉社会学研究』14(14)、pp.147-167、2017年などが参考になります。]
介護報酬は、介護サービスの担い手の賃金にダイレクトに影響を与えるので、介護サービスの担い手不足が社会課題であるなら、介護報酬引き上げは必須であると言えます。
【賃金以外の離職要因】
ただ、花岡の研究にみられるように、賃金が正規職・非正規職におけるすべての勤続年数の早期離職に影響を与えているわけではありません。
上記「4」に見られるように、お金の問題だけではないことがうかがえます。
この点では、関西学院大学の大竹恵子は、リアリティショックとの関係に着目していますし[ 大竹恵子「介護労働者の早期離職に関わる要因」『同志社政策科学研究』15 (1), pp.151-162, 2013年9月20日。]、大久保は注2に掲載した論文「介護労働における就業継続意向の規定要因」において次のような結論を導いています。
(1)賃金が就業継続意向に与える効果は仕事満足度を媒介とする。
(2)仕事満足度の高さは就業継続意向に正の影響を与える。
(3)入職動機が内発的動機に基づく労働者は、仕事満足度が就業継続意向に与える正の効果が小さい。
大久保の結論の(3)に記されている内発的動機とは、利他心のような心の動きです。
介護労働者が仕事を継続するためには、賃金ももちろん大切ですが、やりがいや使命感といった要因も大事であることが示されていると言ってよいでしょう。
他方で、大久保の研究での結論(1)にみられるように、仕事満足度を媒介とするものの賃金が就労継続意向に影響を与える点は否定されていません。
賃金が重要であるとすれば、それにダイレクトに影響を与える介護報酬が問題になってきます。
この点については後半に続きます。
※大竹恵子「介護労働者の早期離職に関わる要因」『同志社政策科学研究』15 (1), pp.151-162, 2013年
9月20日。