介護と経済2 障がい者は経済的価値を生まないのか?
横浜市立大学都市社会文化研究科教授
影山 摩子弥
前回、重労働を伴うにもかかわらず、介護サービス労働の報酬や賃金が低い理由として、「介護が必要な障がい者や高齢者は働けない。
つまり、経済的価値を生まない。したがって、そのような人々をいくらサポートしても経済的価値に貢献することはない。
したがって、介護サービス報酬は相応の額にならざるを得ない」という経済合理性の観点があることを説明しました。福祉の充実は理想だが、霞を食って生きていけるわけではない、というわけです。
しかし、介護が必要な障がい者だけではなく、障がい者は一般的に企業の就労の現場ではほとんど役に立たない、多少働けたとしても、労働生産性は低く、企業が雇用するとしても慈善事業として雇うしかない、と考える方も少なくないのではないでしょうか?
弱者の切り捨てを正当化する優生思想という危険な思想の形をとらなくても、障がい者は働けない、価値を生まないという思い込みは、社会のどこにでもあるのではないでしょうか。
図1は、2021年6月1日現在の企業規模別の実雇用率(障がい者をどれだけ雇用しているか)です。
2021年3月に法定雇用率の緩和措置が廃止され、2.2%から2.3%になりました。
実質的に法定雇用率がUPしたのと同じなのですが、このような場合、厚労省はそれまで法定雇用率が課せられていなかった企業群に関するデータを出してくれています。
それが右端の43.5人-45.5人未満です。その右端の実雇用率が最も低いです。
図2は、法定雇用率2.3%をクリアしている企業がどれだけいるかを企業規模別に集計したグラフです。
規模が小さくなるほど低くなるという傾向は示していませんが、43.5人-45.5人未満の右端が最も低い点は、図1と同様です。
2つのグラフを見ると、障がい者は働けない、だから財務的余裕がない小規模企業では雇用できない、と見えてしまいます。
ここで、少し算数を使ってグラフを加工してみましょう。どのように加工するかというと、図2の雇用率を達成している企業だけで、図1の実雇用率を達成していると考えるとどうなるかを見てみるのです。
つまり、雇用率を達成していない企業は障がい者を1人も雇っていないと考えるのです。もちろん、規模が大きいほど現実性はなく、法定雇用率を達成できていなくとも多少なりとも雇用しています。
しかし、右端にある企業群は、1人雇っていれば雇用率をクリアできますから、かなり現実に近いはずです。そうすると、図3のようになります。
なんと、43.5-45.5人未満は5.2%となり、最も雇用率が高いという数字になります。この企業規模では、現実に近い数字です。
もし、障がい者が役に立たない人たちであれば、このような数字になるはずはありません。
この企業規模では、一人一人が十分な戦力とならねば経営にダメージを与えかねません。ということは、障がい者は戦力になるのではないかと推測されます。次回はその事例をご紹介します。