介護と経済3 障がい者は戦力となる!

障がい者は戦力となる!

横浜市立大学都市社会文化研究科教授
影山 摩子弥

前回は、厚生労働省のデータをもとに、法定雇用率を達成している企業だけで企業群の実雇用率を達成していると仮定して計算すると、43.5-45.5人未満の規模の企業が5.2%も障がい者を雇用していることがわかりました。

この規模については、現実に比較的近い数字です。障がい者が雇用の現場で働けないのであれば、ありえない数字です。

では、障がい者が戦力になっている事例はあるのでしょうか?

そのような事例は、あまりにたくさんあって紹介しきれません。企業規模にかかわらず事例はあるのですが、なるべく規模が小さな企業を選んで事例を紹介しておきましょう。

横浜金沢区の産業団地にある羽後鍍金(うごめっき)株式会社は、社員20名ほどの小さなメッキ会社ですが、知的障がい者が1/4を占めます。しかも、障がい者が一流の職人として働いています。

ポイントはマッチングです。実習でたくさんの障がい者を受け入れ、作業を行う様子を見ていて自社に合う障がい者をスカウトするのです。

自社の業務に合っていれば、めきめきと上達し、顧客の厳しい要求をこなすまでになるわけです。社長と障がい者が2人で作業をする際、障がい者がメインの仕事を担って、社長がサブの業務を行うということさえあるほどです。

マッチングは障がい者を雇用する場合、不可欠です。通常は、障がい特性に合わせて仕事を切り出すという方法をとります。その典型例が、三重県四日市市にあるユーユーハウス株式会社です。

ユーユーカイカンという日帰り温浴施設に食材を提供するための農業を営んでいます。

農業なので、様々な仕事があり、障がい特性に合わせて仕事を割り振ることができます。

暗い場所を好む障がい者は、シイタケ栽培の工程には暗室で行う作業があるのですが、その作業をやってもらいます。孤独を好む障がい者は、一人で行うイチゴの品質管理を担ってもらうという具合です。

それだけではありません。この会社では、朝の様子を見て仕事を割り振るといったことも行っています。あまり元気だと張り切りすぎて翌日体調を崩すこともあるため、落ち着いた仕事をやってもらうなどするのです。

この結果、採算ラインに乗せてきています。

なぜマッチングが重要かというと、障がい者も健常者と同様、得手不得手があります。しかし、健常者の場合、苦手な作業でも、自分の特性に合っていない作業でもなんとかこなします。

つまり、業務は多様ですが、健常者はそれを頑張ってこなしてしまいます。これを私は、「多様性の圧縮」と呼んでいます。

しかし、障がい者はそのような器用な真似ができませんので、障がいと業務とのマッチングが重要になります。その結果、業務の多様性、もしくは、障がいの多様性が前面に出てきます。それゆえ、障がい者雇用は「ダイバーシティの一環」と言われるのです。

また、チョークを作っている神奈川県川崎市の日本理化学工業株式会社は、90名いる社員の7割が知的障がい者で、生産ラインで作業に当たっている全員が知的障がい者です。

この会社では、障がい者が働きやすいよう、様々な工夫をしています。つまり、合理的配慮を行っているのです。

重度の知的障がい者でも色は分かります。また天秤ばかりが水平になったことは分かります。

そこで、ラインに投入する原料が入っているバケツの蓋に色を付けてどの色のチョークの原料か分かるようにし、他方、同じ色を付けた錘で原料の重さを測り、ラインに投入します。これなら、健常者も同じ作業となり、労働生産性は同じです。

このような事例は、全国にあります。障がい特性と業務とのマッチングや職場環境の整備などの合理的配慮によって健常者並みに働くこともできます。しかし、健常者並みとはいかない障がい者も少なくありません。

それでは、やはり大きな価値を生むことはないということになるでしょうか?

いいえ、違います。障がい者は、自分の業務能力を超える相乗効果を生むのです。それについては次回お話ししましょう。

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