介護と経済6 障がい者雇用の心理的安全性創出効果

障がい者雇用の心理的安全性創出効果

横浜市立大学都市社会文化研究科教授
影山 摩子弥

障がい者が人間関係を改善し、業績にまで影響を与えるメカニズムを解明する観点として、心理的安全性に着目しました。障がい者がいることで心理的安全性が高まれば、業績にまで影響を与えることが説明できます。ただ、なぜ心理的安全性が高まるか(メカニズム)も説明せねばなりません。

これまでの研究も踏まえ、以下のような仮説を導きました。

1.まず、健常者集団からなる職場に、障がい者が入ると、健常者側は「自分たちは健常者」という共通性を認識します。共通性は「共同体の基盤」になります。

2.また、障がい者と接すると、障がい者を支援せねば、という健常者の「倫理的な意識」が刺激されます。つまり、「合理的配慮」を行おうとするわけです。しかも、職場では健常者が協力し合って障がい者に対応しようとします。

3.共同性が高く、足の引っ張り合いは望ましくないといった倫理的意識が高まり、相互に協力関係にある人々は、相互に配慮するということです。互いに配慮しあう集団であれば、心理的安全性の高い状態となり、健常者の業務パフォーマンス(仕事ができる度)が高まるはずです。

そこで、2020年に、株式会社ミルボンの三重県にある工場で調査を行いました。その結果、上記の仮説がほぼ正しいことがわかりました。そこで、2021年から2022年にかけて多くの企業の協力を得た調査を行いました。その結果得られたモデルを単純化したものが次です。仮説として想定した通りの結果が得られました。

図1 障がい者雇用による心理的安全性創出メカニズム

ここで、第1回目に戻りましょう。障がい者が戦力になるだけではなく、健常者社員の業務パフォーマンスを向上させ、業績にまで影響を与えるのであれば、障がい者が生む価値は極めて大きいということになります。そうであれば、訪問介護サービスの報酬も従事者の賃金ももっと高くてよいはずです。経済合理性の観点に立ったとしてもこのように言うことはできるでしょう。

しかも、障がい者がそれほどの価値を生むのであれば、Social Inclusion(社会的包摂)は法で強制したり、人権論を唱えたりしなくても進む可能性があります。

しかし、それは企業で働ける障がい者の場合であって、重度訪問介護の対象者が企業で働けるとは思えない、したがって、この分析に当てはまるのは、一部の障がい者にすぎず、重度訪問介護サービスの報酬や賃金を改善すべきとは言えない、という意見もありそうです。しかし、本当にそうでしょうか?

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