相乗効果と心理的安全性
横浜市立大学都市社会文化研究科教授
影山 摩子弥
前回、障がい者を雇用したところ、社内の人間関係が良くなり、業績もよくなった、倒産を免れたという事例を紹介しました。そのようなことがどこででもありうるのか、また、それはどのようなメカニズムで生ずるのか、を明らかにする調査を行いました。
まず、前者です。調査と分析に関する詳細は割愛しますが、2011年から2013年にかけてたくさんの企業を対象に調査を行い、分析の結果、以下のようなモデルを得ることができました。
この中で、e1~e6は、この中に組み込まれていないが、このモデルに影響を与えている要素です。わずかでも何かが影響を与えている可能性があるというだけの表記です。
このモデルが示す重要なポイントだけ、上から見ていきましょう。健常者が障がい者と、仕事場やプライベートの場で深く接触すると(障がい者との接触)、障がい者の働く能力や、社内の人間関係および会社に与えるプラスの影響を認識します(障がい者パフォーマンス)。それは、障がい者がそのような能力を持っているということを意味します。
そのような能力を障がい者が発揮している職場では、健常者の仕事に対する満足度が上がり(職務満足度)、会社の業績(一番下に記載されている業績)にまで影響することが示されています。どこででも成立する可能性があるわけです。
ただ、仕事に対する満足度が上がり、業績にまで影響するほど人間関係がなぜ改善するのかが示されていません。そこで、調査の後、そのメカニズムを探るべく、様々な企業にヒアリングを行い、心理的安全性がカギとなっているのではないかという仮説を導きました。
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱している概念で、簡単に言えば、発言しやすい状態のことを言います。もちろん、人間関係の良さが背景にあると言ってよいです。心理的安全性が高まるとどうなるかというと、各自の労働生産性もしくは業務パフォーマンス(仕事のできる度)を改善し、業績にまで影響を与える可能性が生じます。
なぜ、業績にまで影響するかというと、心理的安全性が高いとミスや事故が生じそうになっていることに気づいた際に、たとえそれが上司の失敗によるものであっても、それを指摘できるので、無用なコストが回避できます。
死亡事故が生ずれば、損害賠償も巨額になります。また、様々な発言が出てくるので、よいアイデアも出てきて新製品の開発などのイノベーションが起こります。コストの回避やイノベーションの結果、業績もよくなるのです。
このような心理的安全性が、障がい者が職場にいることで生ずるのではないか思ったのです。そこで、2020年から2022年にかけてたくさんの企業に協力してもらい、調査を行いました。