介護労働者の早期離職理由とは 2/2

【介護報酬の問題】
このシリーズの中で、介護報酬が安い理由を解説しました。介護労働は労働生産性が低いから報酬が安く、賃金が低くなるのは当然などと言われることがありますが、これは間違いです。
国が決めている報酬が低いため、付加価値/労働時間(もしくは労働者数)で計算する労働生産性が低いことになってしまうのです。
では、なぜ報酬を低くするかというと、年齢や障がいが原因となって寝たきりであるため(働けないので)「価値を生まない」と思われている人々を介護するからです。
「価値を生まない人々を介護しているのだから、価値の創出に寄与していない、だから労働生産性は低く、報酬が低いのは当たり前」という考え方です。経済至上主義と言えるでしょう。
その結果、報酬が低く抑えられてしまうわけです。これでは、人手不足になるのは当たり前です。
【賃金の正当性】
しかし、労働が生み出す価値は、その労働がどの程度の時間行われたかによって決まります。サービスの受け手が働けるかどうかが問題なのではありません。
ただ、労働が行われたからと言ってその価値が実現されるとは限りません。つまり、その労働によってつくられた製品やサービスが価値通りに売れるとは限りません。
例えば、人々に必要とされていないモノを作った場合です。ですが、介護サービスを必要としている人々にとって介護サービスは生命の維持にかかわる場合もあり、介護労働が生み出す価値は極めて大きいはずです。
しかし、たとえそうであっても、価値が実現しない可能性があります。お金の裏付けがない場合です。
そのようなニーズを無効需要と言い、お金の裏付けがあるニーズを有効需要と言います。
障がい者や高齢者は就労しにくかったり、就労しても大きな所得を得られるとは限らなかったりします。
しかし、必要なサービスであるため、低所得であってもサービスを利用できるよう報酬が安く抑えられてしまい、介護労働が生み出した価値が十分実現されないわけです。
これは許されることではありません。労働は行われているわけですから、売れるかどうか、需要側がお金を持っているかどうかにかかわりなく、労働の対価は払われるべきです。
【価値の事前創出】
それに加え、価値創出という点では、高齢で介護が必要になった人々は、かつては社会的労働を担い、仕事をし、価値を生んでいました。家事労働も間接的に社会的な価値を生んでいました。
多大な経済的貢献です。退職するまでに価値創出を事前に行っていると解すことができます。
さらに障がいがあって寝たきりであっても、就労している人々はいますし、障がい者は健常者の労働生産性を上げる効果を生みます。
さらに言えば、介護労働者の賃金が増えれば、消費生活で使われることになりますから、経済が活性化します。
消費税を導入し、税率を上げることで経済の停滞に少なからず影響を及ぼしたことを考えれば、介護サービスの報酬が増え、介護労働者の賃金が増えることは経済の刺激となります。
家計が消費財やサービスを購入する支出の総額である民間最終消費支出が名目GDPに占める割合は、バブル崩壊以降も5割を超え、55%前後で推移しています。
■参照:内閣府「国内総生産勘定」『2023年度国民経済計算』【https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2023/2023_kaku_top.html】
一時的なバラマキではなく、消費を安定的、継続的に活性化する方策が必要なのです。
【政府の観点の問題点】
介護報酬をめぐる政府の姿勢の背景には、障がい者、特に介護を受けるほど重い障がいを持つ人々は価値を生まない存在とし、価値を生まない人々を介護する労働は、それに見合うよう安く使わねばならないとする考えがあると言えます。
経済的意味を優先する考え方、つまり、経済至上主義と言えますが、この観点には、2つの問題点があります。
障がい者が価値を生まないとする誤解があること、および、人を機械や原材料と同じ単なる材料と位置づけ効率よく使おうとすることです。この2点がかえって経済に悪影響を与えてしまうのです。
むしろ、経済を優先するのであれば、障がい者がもたらす労働生産性改善効果や労働する人々の処遇が労働生産性や経済に与える影響を積極的に考慮すべきです。
前者については、別の機会に論じました。問題は後者です。後者は、人を人的資源と考える観点です。しかし、近年では、人的資本という言葉が見直されてきました。
次回はこの点について解説しましょう。