介護と経済25 介護労働におけるバーンアウト 1/2

介護労働におけるバーンアウト 1/2

【バーンアウトとは】

バーンアウト(burn-out)は、日本では燃え尽き症候群と呼ばれています。一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。

バーンアウトは、燃え尽き症候群を指すための造語ではなく、モーターやエンジンの焼き付きやロケットが燃料を燃やしつくした状態などを表現する際に使われてきた用語でした。

そのような状態をイメージさせる症状が、対人サービスに携わる人々の間に生じていることに、米国の精神科医ハーバート・フロイデンバーガーが気づき、1970年代に指摘しました。

それを機に、燃え尽き症候群という症状を指す用語としても使用されるようになります。

つまり、バーンアウトとは、看護労働など対人サービスに従事する人々が過剰な業務負担を担うことによって、慢性的にストレスを感じ、身体的にも精神的にも疲れ切ってしまって、仕事ができないほどの状態になった場合を指します。

一生懸命働いて消耗してしまい、動けなくなってしまった(労働できなくなってしまった)状態が、モーターが過重な稼働をして焼き付いてしまった状態やすごい勢いで飛んでいくロケットが燃料を使い切ってしまった状態をイメージさせるわけです。

バーンアウトは、精神医学的にも問題であったと思いますが、燃え尽きた結果、就労する意欲を失い、熱心に仕事をしていた人が突然勤め先をやめてしまうといった問題も生み出します。

燃え尽きた人が働いていた現場では混乱が生じますし、働くことができなければ収入を得られず生活に支障が出ますから、重大な社会問題と認識されてきました。

【バーンアウトの原因】

バーンアウトの原因としては、対人サービスという人間関係が関わってくる仕事の中で、過重な仕事を担い、ストレスが蓄積してしまうことが考えられます。

例えば、看護労働の場合、人の命にかかわる重要な仕事であり、自分の献身によって患者が快方に向かったり、感謝されたりすることによって一層のやりがいを感じて仕事にのめりこんだり、使命感や利他心、責任感をもって過剰な業務であってもこなそうとしたりすることがあると考えられます。

自分の貢献によってよい成果が出るとモチベーションが上がるので、仕事にのめりこむのはありうることです。

しかし、いつも良い結果が出るとは限りません。

また、人間関係が関わってくる場合、トラブルが生じたり、感情移入してしまったりして、精神的に追い込まれることもあります。

言い換えれば、生産物を作るために道具を使って原料に向かう場合と対人関係でサービスを生み出す場合とでは、精神が置かれる環境は大きく違います。

原料を加工する場合、労働者が向かい合う人的存在は自分自身です。会社であれば上司や同僚がいますが、指示やサポートといった間接的接触を行う存在にすぎません。

しかし、対人サービスではクライアントと直接接することでサービスを生み出しますから、クライアントの感情や考え、価値観をダイレクトに受け止めざるを得ません。

その結果、場合によっては、徒労感やストレス、虚脱感にさいなまれ、バーンアウトに至ってしまうと考えられます。

つまり、対人関係の場合、精神的にも肉体的にも過重な負担を負う可能性が高くなることが指摘できます。

それに加え、責任感や使命感の高さがその傾向を増幅させてしまうことが指摘できるということです。

過剰な労働負担と担い手の責任感・使命感がバーンアウトを促す要因ということができるでしょう。

【介護労働とバーンアウト】

対人サービスという点では、介護労働も該当しますし、相当な負荷がかかる労働です。しかも、やりがいや責任感、使命感をもって業務を行っている方も少なくないと思います。

にもかかわらず、献身が評価されない、成果が出ない、精神的にきついといった状況が生ずることもありえます。介護労働もバーンアウトの可能性が高いことを指摘できるのです。

そこで、介護労働のバーンアウトを研究する人たちも存在します。ただし、それほど多いとは言えない状況です。比較的最近の研究としては、以下のような研究があります。

横浜市立大学の安部猛と西南学院大学の山田美保は2014〜2020年の科研費研究として「介護労働者の感情労働負担軽減を目的としたコミュニケーション・プログラム開発」を行い、旭川市立大学の栗田克実は2019~2023年の科研費研究として「介護職員におけるバーンアウト傾向の規定要因とその対処方策に関する研究」を行っています。

前者では、バーンアウトの要因とされている感情労働と首尾一貫感覚(SOC)

《医療社会学者のアーロン・アントノフスキーが1970年代に提唱した、ストレスに対処するための能力を表す概念です。把握可能感(自分の置かれている状況を把握できる)、処理可能感(対処可能と感じられる)、有意味感(出来事には意味がある、生きる意味が感じられる)の3つの要素からなります。》

の影響が研究され、介護労働の担い手の負担を軽減するためには、個々の労働者の首尾一貫感覚に着目した、業務の経験年数に応じたテーラーメイドの介入(「対応」と解してよいでしょう)が効果的である可能性を指摘しています。

■参照:https://cir.nii.ac.jp/crid/1040282257262334336

また、立花直樹、九十九綾子、中島裕、多田裕二、永井文乃は、大阪市内の特別養護老人ホームで働く介護労働者に対してアンケート調査を実施し、以下のような結論を導いています。

■参照:立花直樹ほか「介護職員の就労継続に関する意識調査の研究:大阪市内の特別養護老人ホームに対するアンケート調査報告」『新潟医療福祉学会誌』巻13号2、新潟医療福祉学会、2014年3月、pp. 31-37

①「良い条件の所があれば転職したい」者は、「できるだけ現在の部署で長く勤めたい」者よりバーンアウト得点が有意に低い。

②介護職の継続要因として「給与待遇」「同僚との良好な人間関係」が多い。

③施設長と介護職員とでは、就労継続要因に対する考え方に相違があり、施設長は「仕事のやりがい感」を最も重視しており、介護職員は「給与待遇」を最も重視していた。

「①」の結果は、わかるような気がします。

より良い条件であれば転職したいということは、就労先を含めた労働環境を変えることに対して柔軟性があり、バーンアウトに至る要因を抱え込む傾向が低くなる可能性があります。

また、「②」のうち給与については、先行研究でも指摘されていた結果でした。

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