介護と経済27 従業員満足度調査とは?

従業員満足度調査とは?

【従業員を把握する必要性】

人間は機械ではありませんから、スイッチを入れれば、いつでもすぐに十分なパフォーマンスをもって稼働するわけではなく、また、動きが悪くなってきた場合、油をさせばスムーズに稼働するわけでもありません。

気分や体調によって調子にばらつきがありますし、休息すればすぐに元に戻るとは限りません。

一方、会社の業務が効率よく処理されるか、良い成果を出せるかは、従業員一人一人の稼働にかかっていますから、従業員の精神的、肉体的状態が業務に支障をきたさないようにしたり、むしろより一層効率的、効果的に業務をこなしたりすることができるようにすることが必要になります。

そのためには、会社側が従業員の精神的、肉体的状態を把握することが必要です。

それゆえ、健康診断やストレスチェックが行われたり、看護労働や介護労働のように対人サービスを行い、担い手にとって負荷が大きいがゆえにバーンアウト(燃え尽き症候群)の可能性が高いとされる領域ではバーンアウト傾向を把握するための指標MBI(Maslach Burnout Inventory)を用いたアンケート調査が行われたりするわけです。

精神的、肉体的な健康にかかわる調査は、単なる福利厚生というだけではなく、企業にとって重要な労務管理の意味があるのです。

そのような調査の中で、特によく知られているのが従業員の会社や仕事に対する満足度を測る調査です。

大企業だけではなく、中小企業も含めてよく実施されています。業者に依頼して調査を実施する企業もあるほどです。

【従業員満足度調査】

従業員の会社や仕事に対する満足度は、従業員満足度もしくは社員満足度と日本では呼ばれています。

英語では、employee satisfactionで、ESと略され、その満足度を測定する調査はES調査と呼ばれています。中小企業でも行われているよく知られた調査です。

なぜ、従業員の満足度を測定する必要があるかというと、説明するまでもないと思いますが、会社や仕事に満足していれば、前向きに働いたり、会社を辞めずに継続したくれたりするからです。

ES調査は、通常、従業員に対して、アンケート票を配布し、それに回答してもらう形をとります。

なお、「満足度」と表現していますが、「~に満足していますか?」と必ずしも問うわけではありません。

「あなたは、この会社をよい会社だと思いますか?」「あなたは、仕事のやりがいを感じていますか?」「あなたは、同僚と良い関係にありますか?」などといった質問が設定されている場合もあります。

回答の選択肢は、「とてもそう思う、そう思う、どちらでもない、あまり思わない、全く思わない」など、3~7項目を設定する場合がよく見られます。

上記のように、良く知られた調査ですが、いくつか課題があります。

【ES調査の課題1 指標がない】

ES調査には、決まった指標がありません。

つまり、公的機関や研究機関が「この質問項目で実施しなさい」といったものを発行しているわけではありません。

それは、自由に設計できることを意味しますので、企業が調べたい項目を設定できます。

しかし、その項目が、従業員の仕事に積極的に向かう姿勢や仕事を辞めない状態を把握するために有効な項目なのか、取りこぼしはないのか、といったことに対して不安を覚えることもあります。

そこで、コンサルタントに相談することを考える担当者(通常は人事課が担当しています)もいますが、必ずしもその企業に合った適切な設計になっているとは限りません。

【ES調査の課題2 分析が不十分】

ES調査を実施しても、その結果に基づいた分析が十分ではありません。

「この会社が好きですか?」「仕事のやりがいがありますか?」と尋ね、上記のような選択肢を設定して回答してもらったとします。

その各回答の件数や%を算出して、棒グラフや円グラフを作り、「1番の回答が最も多いです」「肯定的な回答(『とてもそう思う』『そう思う』を集計したもの)が~%となります」といったコメントを付けただけのものを分析と称して社内で報告することがあります。

これは単なる集計であって、分析ではありません。

何が会社を好きにさせているのか、会社が好きになることによって仕事への積極度や就労継続に影響を与えているのか、といった経営的な課題にかかわる情報を明らかにすることが分析です。

この分析をするためにアンケートを設計せねばなりません。

【ES調査の課題3 調査目的が明確ではない】

「2」からうかがえますが、ES調査実施の目的が明確になっていません。

満足度の高さが経営課題の解決に影響を与えることが分かっていれば、会社が満足度を測定する意味を明確に設定できます。

また、何が満足度に影響を与えるかを探るためであれば、経営課題を解決するための取り組みを明らかにするという目的が明確に設定されます。

目的が明確ではなく、集計をしておわりという状況があるのは、このような知識が不十分であるということも背景にあると思います。

例えば、「『会社が好き』との回答が1ポイント上がると、仕事へのやる気が~%改善する」ということが分かっていたとします。

そうすると、やる気がどれだけ上がったか、下がったかを確認することによって仕事へのやる気を上げるという経営課題が解決できているかどうかを確認できます。

また、「会社を好き」という気持ちを高めることが経営課題の解決に結び付くのであれば、会社を好きになる要因を突き止める必要があります。

そのためのES調査であれば明確な目的があることになります。

なお、会社を好きであることによって仕事のやる気が上がることが分かっている場合は、会社を好きであるという回答が増えているかどうかを確認すればよいです。

その場合、円グラフや棒グラフで示して前回より~%増えたなどというコメントを付けることはあり得ます。

その因果関係もわかっていないにもかかわらず、円グラフで示すだけというのは問題です。

【ES調査のうち職務満足度の項目例】

1999年に日本労働研究機構(現 独立行政法人労働政策研究・研修機構)が『雇用管理業務支援のための尺度・チェックリストの開発―HRM(Human resource management)チェックリスト―』という報告書を発行しています。

《『調査研究報告書』1999、No.124》そこでは、職務満足度の調査項目として以下のような評価尺度が導出されています。《同報告書、p.62》

「職務内容」

  • 大切な仕事をしていると感じる(意義)
  • 今の仕事は挑戦しがいのある仕事である(達成)
  • 今の仕事は達成感を感じられる(達成)
  • 経験をつむことによって、より高度な仕事が与えられる(成長)

「職場環境」

  • 十分な給与をもらっている(給与)
  • 勤めている組織の福利厚生は十分なものである(福利厚生)
  • 自分の組織の給与体系は公正、妥当なものである(給与)
  • 自分の組織の昇進制度は公正・妥当なものである(昇進制度)
  • 業績によって昇進が決まる(昇進制度)

「人間関係」

  • 職場は友好的な雰囲気である(職場全体の人間関係)
  • 職場では仕事上のコミュニケーションが活発である(職場全体の人間関係)
  • 同僚の多くに好感を持てる(団結力)
  • 私と同僚の間には良好なチームワークがある(団結力)

「全般的満足感」

  • 今の仕事が好きである
  • 現在の仕事に満足している
  • 今の仕事に喜びを感じる
  • 今の仕事に誇りを感じる
  • 朝、仕事に行くのが楽しい
  • 今の仕事にやりがいを感じる

これが唯一正しい調査項目というわけではありません。しかも、1999年の発行ですからかなり古いものです。

ただ、統計分析での検証を経て導き出された尺度なので、参考にすることもありうると思います。

さらに、これらの項目の得点が従業員の働き方や就業継続意欲、労働生産性につながるか、これらの項目を高める要因は何か、例えば、社会貢献への評価か、経営層の求心力か、上司・同僚との人間関係かなど、を確認するための項目を設定して調査をすることもあり得ます。

なお、最近では、ワークエンゲージメントという言葉も聞かれるようになり、ワークエンゲージメントの調査を社内で行っている企業もあります。

従業員満足度とどのように違うのでしょう?

次回はワークエンゲージメントについて取り上げてみましょう。

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