介護と経済28 ワークエンゲージメントの意味

ワークエンゲージメントの意味

【ワークエンゲージメントとは?】

ワーク(work)は仕事です。

エンゲージメント(engagement)は、約束や婚約、契約、従事という意味で使われる場合が多いと思いますが、経営領域の用語としては巻き込まれている状態や思い入れを持っている状態を示す言葉として使われます。

日本語では、会社への帰属意識などと訳すとそのニュアンスをくみ取れると思います。

したがって、ワークエンゲージメント(以下、WEと表記)は、仕事に熱意を持って取り組んでいる状態や仕事に没入している状態をイメージしていただければよいと思います。

このように整理すると、前回扱ったES(従業員満足度)と異なることが分かるでしょう。ES調査で使う質問票では、仕事や会社に満足しているかを確認する項目が並んでいます。

他方、WEは、仕事に向かう姿勢ないしその際の意識を確認するものです。

そうすると、「満足している」から「仕事に積極的に取り組む」という構図が想像できますが、ESは前半を構成する原因の部分、WEは後半を構成する結果の部分という因果関係になっている可能性があることが分かります。

そうだとすれば、わざわざWEを調べなくとも、従来の調査項目でESを確認すればよいはずです。なぜ、WEの調査項目が必要なのでしょうか?

たとえESがWEにつながるとしても、どの項目の満足がWEにどの程度つながるかは、企業や人によって異なる可能性があります。

また、企業にとっては、従業員が仕事に積極的に向かう姿勢や意欲をどの程度持っているかが重要です。そこで、WEが注目されるようになったのです。

特に日本では、身を粉にして会社共同体を支える金太郎アメ社員を育成する日本的経営のシステムには戻れない、かと言って脅しの成果主義はもってのほかという状況の中で、社員が積極的に働く姿勢を持っているかどうかを確認する指標が求められた面があります。

【ジョブインボルブメント】

ただ、ES調査の項目でも、仕事にのめりこんでいるかどうかを確認する項目が設定されることがあります。

前回紹介した、日本労働研究機構(現 独立行政法人労働政策研究・研修機構)の報告書『雇用管理業務支援のための尺度・チェックリストの開発―HRM(Human resource management)チェックリスト―』でも、ジョブインボルブメントという名称で、以下のような質問項目が検討されています。《 『調査研究報告書』1999、No.124、p.68》

1.現在の仕事で時間がたつのも忘れてしまうほど熱中することがある。
2.今の仕事が生きがいである。
3.今の私にとって仕事が生活のすべてである。
4.私にとって最も重要なことが、今の仕事に密接に関連している。
5.今は仕事から得られる満足感が一番大きい。
6.今の仕事にのめり込んでいる。
7.最も充実していると感じられるのは仕事をしているときである。

従業員が仕事にのめりこんでいるかどうか、仕事に対する積極姿勢を持っているかどうか(WE)は重要ですから、以前からそれに類する調査項目は開発されていたのです。

ただ、細かく見ると、ジョブインボルブメントの調査項目とWEの観点とは異なる部分があります。

そこで、改めて、WEという形で提起されることになりました。

WEの研究では、オランダのユトレヒト大学が有名で、ユトレヒト大学の研究者たちがWEに関する測定指標を開発しています。

【ユトレヒト大学の測定指標】

ユトレヒト大学の研究者たちが開発したWEの測定指標(尺度)は、17項目の質問からなるバージョン、9項目からなるバージョン、3項目からなるバージョンの3種類があります。

《WEについての文献としては、島津明人『ワーク・エンゲイジメント~ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を~』労働調査会、2014年をお勧めします。》

また、WEは、3つの要素から構成されます。活力、熱意、没頭です。これがWEの下位尺度となります。

まず、活力とは、仕事をしていると活力がわいてくるという意味合いで、それを確認する質問項目からなります。17項目での質問の場合、6項目が活力です。9項目の場合は3項目、3項目の場合は1項目です。

熱意とは、仕事に熱意をもって取り組んでいるかどうかということです。17項目での質問の場合、5項目が熱意で、9項目の場合は3項目、3項目の場合は1項目です。

没頭とは、仕事にのめりこんでいるかどうかを確認する項目からなります。17項目での質問の場合、6項目が活力です。9項目の場合は3項目、3項目の場合は1項目です。

各項目は、質問形式になっており、回答は7つの選択肢から選ぶようになっています(7件法)。

9項目バージョンで各質問を列記すると以下のようになります。《質問項目と回答の選択肢については、同書より転載》

<活力>

  • 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
  • 職場では、元気が出て精力的になるように感じる
  • 朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる

<熱意>

  • 仕事に熱心である
  • 仕事は私に活力を与えてくれる
  • 自分の仕事に誇りを感じる

<没頭>

  • 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
  • 私は仕事にのめり込んでいる
  • 仕事をしていると、つい夢中になってしまう

【回答の選択肢】

・全くない 0点
・ほとんど感じない(1年に数回以下) 1点
・めったに感じない(1ヶ月に1回以下)2点
・時々感じる(1ヶ月に数回)3点
・よく感じる(1週間に1回)4点
・とてもよく感じる(1週間に数回)5点
・いつも感じる(毎日)6点

企業が従業員を対象に調査を実施するのであれば、従業員をターゲットとした取り組み(ワークライフバランス、社会貢献への社員参加、育成・研修制度など)、ES、WEの3点について社内アンケートでデータをとり、その3点がどのような関係になっているか、例えば、取り組みがESを挙げているか、ESが上がると、WEが改善するかなどを確認すると、人的資本にかかわる社内の状況を把握することができ、人的資本の形成につながる取り組みを整備することができると思われます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!