障がい者の就労と経済的包摂 1/2

【経済的包摂とは?】
前回は、社会的包摂を扱いました。
社会的包摂とは、すべての人が排除されて孤立したり、孤独な状態で放置されたりすることなく、社会の一員となり、互いに支え合う状態を意味すると書きました。
社会的地位がある者や権力者も排除されてよいわけではありませんから、「すべての人」が対象ではありますが、クーデターでもない限り、地位がある者や権力者がそうそう排除されることはありません。
社会的包摂の議論において特に念頭に置かれているのは、障がい者や性差別下にある女性、性的マイノリティ、引きこもり者、刑務所の出所者などの社会的弱者とされる人々です。
ただ、「社会」は広いです。政治の領域もあれば、経済の領域もあります。研究の世界で「社会」という時、極めて大雑把には2つの使い方に分けられます。
1つは、社会全体をイメージする場合です。政治や経済の領域を含めてすべてを包括する場合です。社会的包摂の「社会」は、こちらの意味で使われていると解せます。
一方、もう1つは、政治や経済と分けられる社会生活の領域で、社会学が対象とする領域です。具体的に言うと直接の人間関係の領域や人間の活動の領域です。
例えば、NPO活動の研究は、この領域の事象としてアプローチされることが多いです。社会の各領域は、特徴的な制度やルール、考え方などがあるので、切り分けてアプローチする必要があるのです。
そこで、社会的包摂を語る場合、特に具体的にどのように進めるかを議論する場合には、社会を構成するそれぞれの領域における包摂をどのように考え、どのように進めるかをその領域の特性に合わせて議論せねばなりません。
このコラムを書いている私は、経済学が専門なので、経済の領域における包摂、つまり、経済的包摂について考えてみたいと思います。
【SDGsにおける包摂】
社会的包摂は国際的にも課題となっているので、国連が提起するSDGs(持続可能な開発目標 sustainable development goals)でも取り上げられています。
SDGsでは、「ゴール10 各国内及び各国間の不平等を是正する」の下位目標(ターゲットと言います)「10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含(inclusion)を促進する」で扱われています。
なお、その指標は「10.2.1 中位所得の半分未満で生活する人口の割合(年齢、性別、障害者別)」となっていて、経済的指標が使われています。
様々な状態の発展途上国から先進国も含むため、わかりやすく、客観的で、大まかな指標にならざるを得ないと思われます。
また、女性の社会参画という論点では、「ゴール5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」のターゲット「5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する」が該当すると言ってよいでしょう。
その指標としては、政治領域に関しては、「5.5.1 国会及び地方議会において女性が占める議席の割合」、経済領域に関しては「5.5.2 管理職に占める女性の割合」とされていますが、女性が意思決定から排除されているのは、ジェンダー不平等であるとともに、女性の排除の一環と言ってよいからです。
このように、包摂をどのように進めるかは、包摂せねばならない主体がどのような状況に置かれているのか、どのような属性や条件を持つのかによって影響を受けます。
では、日本における障がい者の経済的包摂をどのように考えたらよいのでしょうか?
【障がい者の経済的包摂】
日本における障がい者の経済的包摂を考える際、「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」が参考になります。
この法律は、1960年に施行された「身体障害者雇用促進法」が前身となっています。社会情勢を踏まえ、1987年に障害者雇用促進法となりました。
もちろん、消費も経済的カテゴリーの1つですので、障がい者の経済的包摂には、消費者としての参画も入ってきます。
ただ、消費の領域は、社会活動の領域であったり、趣味や娯楽、余暇など個人的活動の領域であったりし、社会的領域という面を持ちます。
言い換えれば、企業が生産し、流通させ、販売しているものを、購入するという行為を通してのみ、経済的参画の地位を担うため、企業活動の領域には深くかかわっていません。
むしろ、雇用されることによって就労し、生産や流通を担う方が経済過程の中核部分に参画することになる面が強いです。
そこで、雇用による就労を通した経済的包摂を見てゆくことが必要となります。