介護と経済31 障がい者の就労と経済的包摂  2/2

障がい者の就労と経済的包摂  2/2

【障害者雇用促進法】

障害者雇用促進法は、よく考えられていると思います。

第3条では、就労を通して経済的包摂が保証されることが記されている一方、第4条では、それゆえ、障がい者は自覚をもって職業人として自立していかねばならないとされています。

第3条 障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるものとする。

第4条 障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。

しかし、職業人としての自覚をもって、就労を通した経済的包摂を目指したとしても、就労先がなければそれは実現しません。

そこで、法第5条では、「事業主の責務」として、事業主に障がい者を雇用し就労の場を提供するとともに、その職業能力を開発し、向上させる取り組みをするよう求めています。

第5条 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。

企業や行政に法定雇用率が課されて、障がい者の雇用が求められているのは、このような法的背景があるのです。

さて、ここで考えねばならないのは、第3条にある「経済社会を構成する労働者の一員として」という一節です。

構成するというのは、あるものの一部になっていることを意味しますので、包摂されている状態を意味すると考えることができます。

では、経済社会を構成する労働者とは、どのような存在でしょう?

【労働者としての障がい者とは】

「経済社会」とは、一般的にはあまり使われない用語ですが、社会の経済面、もしくは、経済からアプローチして見た場合の社会といったニュアンスの言葉です。

つまり、社会の経済過程、簡単に言えば、経済と解していただいてよいです。では、「経済を構成する」とはどのようなことでしょうか?

平たく言えば、経済の要素の1つとなっているということです。企業に雇用されて働いているので、その点では、経済の要素になっていると考えられますが、それだけで足りるのでしょうか?

障がい者雇用にかかわっては、好事例もあれば、課題を感じざるを得ない取り組みもあります。現代の様々な取り組みを概観すると、もう少し細かく見てゆく必要があります。

資本主義社会は、市場経済(しじょうけいざい)からなる社会です。

市場経済では、企業などの生産者が生産したものが商品となり、市場(しじょう)で販売され、貨幣と交換されて他の事業者や消費者の手元にわたります。

つまり、市場経済で売ることを前提とした製品やサービスを生産する作業を行っている場合が、経済を構成する労働者と言えるのです。

難しい言い方をすれば、市場で販売するための経済的価値ないし市場的価値を生む労働を行っている者が、労働者となるわけです。

もちろん、製品の人気がなく、売れなくてもよいのです。少なくとも、販売することが前提となっている製品を作る労働を担っていることが必要です。

しかしながら、その際、注意せねばならないのは、製造部門にいる従業員だけが労働者というわけではないことです。

人事部門や財務部門、在庫管理部門、営業部門などの部署にいる従業員も、製造部門を支える仕事をしたり、製品が商品として実現される(販売されることです)業務を担ったりしており、間接的に市場的価値を生む仕事に従事しています。

コストや品質を考え、製品を作るための一部の部品を社内で内製化している場合もあります。

その場合、市場で販売するための製品を作る部品ですから、内製部門にいる従業員も経済的価値を生む労働の一環を担っていると言えます。

間接部門も含み、経済社会を構成する労働者なのです。

この点を細かく論じたのは、近年問題になっているサテライト雇用の問題点を明らかにするためです。

【サテライト雇用と経済的包摂】

障がい者を雇用し、農園やサテライトオフィスで働いてもらうために、農園やサテライトオフィスを運営する事業者を活用するケースを、サテライト雇用と言います。

特に農園型のサテライト雇用が問題となっていますが、障がい者が栽培した農作物やその加工品を販売することなく、本社の健常者社員に無償で配布してしまっています。

これでは、障がい者が経済的価値を生む労働に従事しているとは言えません。

有機栽培の農産物を育て、社員の健康を考えたメニューとして社員食堂で提供している場合、社員の健康に貢献する福利厚生事業を外注化せず内製化し、その一環を担っているとも言えますから、市場的価値を生む業務の遂行に貢献していると言えます。

しかし、単に無償配布するだけでは、経済社会を構成する労働者としては扱われていないことになります。

これでは、障がい者を雇用し、農園貸業者と契約することによって労働する現場を調達してきているものの、障がい者を経済過程において社会から排除しているようなものです。

この点が、農園型サテライト雇用がもつ問題の1つということができるでしょう。

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