第2回目シンビオシスフォーラム レポート

2021年8月7日㈯
第2回目シンビオシスフォーラム

~知的障害者の「活きる」を考える~
開催レポート

目次

■野呂一樹

重度訪問介護サービスを使った知的障害者支援~その現在と未来について~

①重度訪問介護は、知的障害者も利用できます。

重度訪問介護制度を使った知的障害の方の支援は可能です。当制度は障害者支援法の改正の下、2014年4月以降は身体障害に加え、知的障害・精神障害の3障害が対象となりました。

ただ実際は、支援の広がっている地域、そして全く広がっていない地域があります。

というのも、制度の成り立ち上、重度訪問介護は身体障害(脳性麻痺、頸椎損傷、ALS等の難病)の方の利用が多く、行政側の適用も大変多いため、知的障害の方への適用が全国的に見てあまり進んでいないのが現状です。

私ども株式会社土屋でも、600名ほどのクライアント(利用者)の内、知的障害者の支援は5%にも満たない状況です。やはり当社は「医療的ケアのできる重度訪問介護事業所」という面が大きいので、どうしても医療的ケアが必要なALS等の難病の方の支援が多いですが、今後は知的障害者の支援も少しずつ増やしていきたいです。

②株式会社土屋は「第三の選択肢」を提唱します。

知的障害者の方の支援には、「ご家族による自宅での支援」「病院、福祉施設での支援」がありますが、それ以外にも「第三の選択肢」があります。

今回は、この「第三の選択肢」を提案したいと思っています。

まず、「第三の選択肢」とは、知的障害を有する方の「ひとり暮らし(地域生活)」を、重度訪問介護による見守り支援と、関係者が連携した「ワンチーム」で支えることです。

現在、知的障害の方の支援で最も一般的なのは、ご家族による支援です。しかし、将来的に見ると、ご家族の高齢化や経済的な問題など様々な現実的な問題を抱えていて、私たちもそれを肌で感じています。

そういう中で、ご家族が支援できなくなった時にどうするか。福祉施設や入院を考えがちですが、入所施設が今後増えることはほぼないと思われます。また、グループホームでの支援でも、配置基準の問題、他のご利用者との兼ね合いなどで難しいことも多いです。

その中で、この「第三の選択肢」が重要となります。重度訪問介護による見守り支援と、重度訪問介護事業者だけでは上手くいかない部分を他の職種の方々と連携を取ることで、「ワンチーム」として知的障害者のひとり暮らし(地域生活)を支えていければと考えています。

■重度訪問介護による知的障害者支援は、多職種混成プロジェクト

①医療、福祉、行政それぞれが「できること」を持ち寄る

重度訪問介護による知的障害者支援は、利用者の一生をお預かりする「多職種混成のプロジェクト」です。我々もヘルパーと利用者としての関りだけではなく、利用者の一生をお預かりするプロジェクトとして取り組んでいきます。

ただ、知的障害をお持ちの方の「地域生活」を実現させるためには、重度訪問介護事業所だけではなく、ご家族を始めとして、医療・福祉・自治体といった色んな職種の方々がそれぞれ「できること」を持ち寄ることが必要です。

それぞれの役割の違いを超えて、「トライ&エラー」と「情報共有」を行い続けることが大切になります。

エラーというと、どうしても事故や失敗と思われるかもしれませんが、小さな失敗はしてよいと思っていますので、知的障害のクライアントが成長し、安心して地域生活を行っていくために、様々なことに取り組んでいきたいです。

また、自分たちだけではできないことなので、関係者と情報を共有し、「ワンチーム」を形成する。それこそが「第三の選択肢」である地域生活プロジェクトの成功の鍵だと考えています。

②「第三の選択肢」は、新しい家族関係を創造します

「第三の選択肢」は、新しい家族を作るというイメージが一番強いと思います。重度訪問介護を利用し、そこに様々な職種・団体・事業所が関わることによって、一つの家族のようなチームができると、ご家族も「支援者」としてではなく、良い意味で客観的に障害当事者の人生を見つめることができます。

現在、私たちはアパートでの独居支援を進めています。ヘルパーと利用者の1対1での支援となりますが、重度訪問介護は家の中で生活する際の支援であり、日中に生活介護等で活動する場合などは、他の生活介護事業所等との連携も必要となります。また自治体や基幹相談センター、医療機関、そして他事業所、相談支援事業所とも併せて、一つの家族として連携することが必要だと思っています。

■重度訪問介護による知的障害者支援は、中長期的視点と「初期設定」が大切

知的障害をお持ちの方が地域で暮らすためには、中長期的な視点と支援開始前の「初期設定」が大切です。

重度訪問介護が適用となるのは区分4以上の方ですが、重度の知的期障害を持っている方であれば適用となるかというと、それ以外にいくつか要件があり、当社のクライアントも強度行動障害や自閉症の方が多いです。

こうした特性をお持ちの方は、一生涯を通じて「誰かと共に生きる」ことを余儀なくされます。また、発語の有無、自閉症や他の障害の状態に応じて、支援内容や目標は大きく変わります。

だからこそ、ただ生活するという短期的な視点ではなく、1年後、3年後、5年後、あるいは10年後、20年後に、どのような生活を実現できるか、そしてどう成長していくかという「中長期的」な視点から、実際の支援を考える必要があります。

そこで大切になるのが、「初期設定」です。支援開始前に考えておくべきこととして、まずそれぞれの方の「特性」があります。

①日中の過ごし方を含む生活のリズム形成。これは食事、排泄、入浴、睡眠の時間や方法です。また、②喜びや怒り、コミュニケーションの表現方法。自傷、他害の傾向があるかどうか。そして、③どのような事象に「同一性保持」の傾向がみられるか。

また、パーソナルな部分ではなく、環境の部分、例えば住居等の環境面についても注目しています。①不穏時・興奮状態に陥った時を想定して、ガラス等の危険物をどう除去していくか。また②過度に興味を抱く物は何か。これには食べ物・通信機器・お金等ですが、それらが目に触れることがないように環境面でどう工夫していけるかも大切です。

当社のクライアントの支援でも、例えば平日の日中は生活介護等に通い、夜間に我々が重度訪問介護で支援に入らせてもらうなどがありますが、その中で、定期的な相談員のモニタリング、自治体への報告、通院の同行、ショートステイの参加などを行っています。

そうした中で、③生活介護事業所や他事業所との連携方法、送迎や拒否時の対応。あと④自治会や民生委員との連携も必要になります。

■知的障害者支援を成功させていくために大切なこととは
~利用者と支援者との信頼関係構築が何よりも大切~

重度訪問介護を利用して知的障害者の生活を支える上で、運営側が心掛けるべきことは、まず何よりもクライアント・アテンダントの「信頼関係」の構築です。

とはいえ、信頼関係の構築は簡単なことではありません。我々の経験からも、支援チームが安定するまでには最低でも1年はかかっています。そうした中で、コミュニケーションの「核」となるメンバーを一人でも多く育成しなければと考えています。

クライアントにとって「心を許せる存在」は支援継続上、必要不可欠です。

中長期的な視点を認識した上で、短期的な課題を設定し、仮説、検証を地道に繰り返し、経験を積み重ねていく。その中で色々と課題を挙げて、支援チーム内で情報を共有し、必要に応じてディスカッションすることが大切です。

また、介護はどうしても「感情労働」の部分が強いです。だからこそ、アテンダント一人ひとりのメンタルケアにも気を付けています。「燃え尽きる」ことがないように常に配慮が必要です。

■それでも「虐待」「不適切支援」はなくなりません

残念ながら、「虐待」「不適切支援」をゼロにすることは本当に難しいです。

・身体的虐待→暴行、不必要な拘束等

・心理的虐待→暴言、侮辱、無視等

・性的虐待→性的な行為の強要、不必要な言動等

・ネグレクト→食事、入浴、排泄等をさせない等

・経済的虐待→勝手に財産を処分する、金銭の搾取等

上記が虐待、不適切支援となりますが、私どもの支援先で、実際に「虐待」「不適切支援」が一度起こってしまいました。現在、理由等の検証段階ですが、アテンダントが「燃え尽きた」という部分は見受けられます。

支援に入ったばかりの支援者が「虐待」「不適切支援」を引く起こす確率は高くありません。多くの場合、支援者の「慣れ」あるいは「燃え尽き」から、「虐待」「不適切支援」につながると考えます。

ですので、できるかぎり日替わりでクライアントの支援に入れるように、アテンダントを揃えないといけない。介護業界は人材不足のため、事業所にとってはハードルが高いですが、その中でコミュニケーションの核となるメンバーがフォローしたり、アテンダント同士の密接な対話を通してメンタルケアを徹底し、同時に産業医等の衛生委員会も設置する方向です。

今回、虐待等の事案発生の際には、制度に則り相談員・自治体の方に報告し、県にも伺いました。しっかりと報告をし、「見える化」することは重要だと考えます。

ホームケア土屋では、「虐待防止委員会」の設置・運営、研修の実施等を通じて、虐待・不適切支援の防止に継続的に取り組んでいます。

■株式会社土屋は、知的障害者の「活きる」を地域包括の視点から取り組んでいます

このような中で、当社では知的障害者の「活きる」を、地域の中で、包括的な視点から取り組んでいます。やはり、一人暮らしをするとなると、どうしても住居の問題が出てきます。そこで、当社が住居を借り、当社とクライアント・ご家族とが契約するという形で住居を提供しています。

そして、我々が周りの自治会・民生委員の方々とも関係性を築き、クライアントが安心して生活できるような環境を作っていこうと考えています。

現在、四日市市で3棟借り上げ、1名の利用があります。月額家賃は3万5千円で、もう1名が現在、調整中です。また三重県だけではなく、他の都道府県でもこの事業を進めていきたいです。

知的障害者の生活を重度訪問介護だけでなく、デイサービス、計画相談等を加え、様々な角度から包括的に実現させていければと考えています。

■未来への課題

知的障害者は、転居等の環境の変化が苦手なケースが多いです。今、施設・グループホームに入所、あるいは在宅の方が、アパート等へ移転する際には、新しい環境に慣れるための一定の移行期間が必要です。いきなり引っ越してしまうと、知的障害者本人が上手く定着できず、アテンダント側も関係性が作れないことがあるので、数か月~1年くらいかけることも大切です。

ただ制度上、移行期間の支援(請求ルール)は認められていないので、当社では実質的に会社からの資金持ち出しです。もちろん職員にはお給料をお支払いしていますが、会社のサービスとして定着期間を作っています。

知的障害の方が地域で生活するのが難しいという中にはヘルパーとの関係性や環境との不適合があるため、このように慣れるための期間を作れば作るほど、その壁がどんどん低くなっていくのではと考え、このようにしています。

今回は介護側からの視点で、重度訪問介護を利用した知的障害者の支援の現状と将来の課題について、お話させていただきました。

■基幹相談センター・増田

~重度知的障がい者の地域移行と地域生活を考える~

津市基幹障害者相談支援センターは、行政から委託を受けた基幹相談支援センターです。津市障がい者虐待防止センターでもあり、障害者総合支援法の中に位置付けられています。

業務として、次の4つの機能があります。①地域の相談支援体制の強化の取組み、②権利擁護・虐待防止の取組み、③総合相談・専門相談、④地域移行・地域定着の取組み。

今回は主に、地域移行・地域定着についてお話しいたします。

■地域移行の流れ

地域移行とは、障害者支援施設や精神科病院に入院している人が、施設や病院でなく、自ら選んだ住まいで安心して自分らしい暮らし方、地域生活を実現することです。

地域生活の場所としては、自宅やグループホーム、アパート等があります。また、いきなり施設・病院から移行するのではなく、体験などをして地域生活に入られる方もいます。

津市の平成30年度~令和2年度の第5期障害福祉総合プランによると、入所施設からの地域移行の見込み量として平成30年度は7人、令和元年度は8人、令和2年度は10人としていますが、実績はいずれもゼロとなっています。

また、福祉施設の入所者ですが、見込み量としてはどんどん減らしていくというものでしたが、結果は280人から減っておらず、地域移行がなかなか進んでいない実態があります。

令和3年度~令和5年度にかけての第6期障害福祉総合プランの地域移行の見込み量では、令和3年度には5人、4年度には6人、令和5年度には6人となっています。結果を出すのはこれからですが、絵にかいた餅にならないように努力していきたいです。

■入所施設からの地域移行

入所施設からの地域移行については、障害者権利条約の第19条や、障害者基本法の第3条で、障害者が他の人と平等に居住地や、どこで誰と生活するかの選択はできること、特定の生活施設で生活する義務を負わないこと、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないことなどが明記されています。

どんなに障害が重くても、どんなに配慮が必要な方であっても、支援環境を整えることで地域生活が可能だと考えます。

また地域移行は、職員や支援者が勝手に進めていくものであってもなりません。意思決定支援が重要です。ご本人の意思を尊重し、地域で安心して自分らしい暮らしが実現できるように支援していく必要があります。

入所している重度の知的障害者の中には強度行動障害の方もいらっしゃいます。そうした方であっても、意思決定を丁寧に行うことで道は開けていくと考えていますし、実際に丁寧に時間を掛けて取り組んでいる施設もあります。

とはいえ、強度行動障害の方の地域移行は前に進みにくいというのも実情です。

■医療と福祉の連携

入所施設は利用者の生活全般を24時間支援し、精神科病院は検査や薬物療法、入院治療など医療でしかできない対応を行います。

不穏な状態となって自傷・他害など緊急的な状態になったとき、緊急避難的な本人の保護、レスパイト、薬物調整、こだわり行動や行動障害のリセットなどの為に入院治療を行い、状態が落ち着けばまた施設へ戻る。そのような連携を、医療と福祉は行っています。治療した後、戻るところがあるという前提で、病院が受け入れてくれています。

■施設入所(待機)者が減らない現状

施設入所待機者が減らない現状もあります。施設では、医療と福祉の連携が充実しており、専門的な支援が受けられる。重度や最重度の障害があっても見てもらえる。親亡き後も安心ということで、入所を希望する方がなくなることはないです。

しかし、実際のところは、強度行動障害の方をどんどん施設が受け入れているかといえば、全くゼロではありませんが、積極的というわけではありません。やはり強度行動障害の方などが不穏な状態になってしまうと、入院するなどがあります。

病院と在宅、ショートステイを利用しながら施設入所を待っている重度の障害者の方は多いです。選択肢として入所施設か病院か、そういった状況です。

■施設での受け入れが難しい利用者

強度行動障害のある方など、施設での受け入れが難しい利用者像として、

①押したり突いたり叩いたりといった突発的な激しい他害や自傷。例えば手をつなぐのもためらうような深い傷を作っていたりする場合もあります。物を投げたり壊したりの破壊行動、異食行為がある方。

②夜中に大きな声を出したり、床を叩いたりの粗暴行動を繰り返している方。

③目が離せなくて、マンツーマンで付き添いが必要で、支援に人手が取られてしまう方。

④問題行動の監視に終始しないといけないような状態の方。

こういった方々は、家庭だけでは見るのも厳しいのに、サービスの受け手がほとんどありません。マンツーマン対応しか難しいのに、不穏な時には男性が2人がかりで支援しても大変という場合があります。そういった方は施設での受け入れが難しいと言われます。

実際、すでに施設入所されている方であっても、職員がマンツーマンで密着していないと他害が及んで、入院が必要な緊急事態となることがあります。入院後、落ち着いて退院の話が出た時に、施設側が入所の継続が難しいという現状を伝えて、病院側が不信感を抱かれたり、トラブルめいた感じになったという話もあります。

■NGの理由

なぜ受け入れが難しいのか。そこには、


①支援するための専用スペースの確保が困難、
②高い専門知識とスキルを持った人材の不足、
③人員確保が困難、マンツーマンでの対応が困難、
④強度行動障害への高い支援スキルのある職員とともに統一的な支援ができない、
⑤他の利用者やご本人、もしくは職員の安全確保が困難。

そういった理由が挙げられています。

■第三の選択肢

施設での受け入れも難しい、でも家族だけでは支えきれない。強度行動障害の方は、きっかけはささいなことで反応してしまい、家族でも耐えきれない暴力に及んでしまうこともあります。

本人の状態に一生懸命対応しようとして疲弊し、ストレスが溜まり、危険回避のためとはいえ、擁護する側の立場である家族からの虐待、手が出てしまうといった深刻な事態を招くこともあります。

施設か病院か。病院は刺激を少なくするため、入院した場合は保護室で過ごすことも多いです。重度の知的障害の方、強度行動障害のある方は、施設か病院しか将来の生活がないのでしょうか。

地域生活の継続はできないのか、ということで、今回土屋さんから示していただいた重度訪問介護の活用「第三の選択肢」は、私も賛成です。

■強度行動障害の方に必要な支援

私が少し関わった方で、甘えたい衝動のコントロールが効かない方―重度の知的障害をお持ちですがADL面のことはあまり問題ない。でも要求が通らなかったとき本人の行動が社会のマナーを逸脱してしまう。自傷行為に及んでしまう。窓から出ようとしたり、画びょうを口に入れたり、いずれも人がいる前でしてしまう―がいらっしゃいました。

家族と暮らしていますが、家族の基盤が弱い部分もあり、一度決めたことを変えると小さなパニックが起きたり、些細なことから反応を起こしたりで、入退院をしている方でした。主治医の先生に、「一人暮らしは難しいですか」と伺うと、「一人暮らしは、とてもじゃないけど無理です」というお返事がありました。

けれど、重度訪問介護の話をさせていただくと、「可能性はあるかな。チャレンジしてみるというのもありだと思う」という言葉も頂いたりしました。

こうした強度行動障害の方が地域で生活していくためには、どのような支援が必要となるのか。NGの理由として先ほど示した5つのポイントを逆手に取れば、それが見えてきます。

①支援するための専用スペースを確保する、
②高い専門知識とスキルを持った人材を確保する、
③マンツーマンで対応する、
④強度行動障害への高いスキルのある職員と共に統一的な支援をする、
⑤他の利用者・本人・職員の安全確保ができるようにする。

■「重度訪問介護」への期待

上記の事柄は大変難しいことではありますが、重度訪問介護なら「支援するための専用スペースの確保」、「マンツーマンでの対応」、「統一的な支援」、「他の利用者・本人・職員の安全確保をしやすくする」ことは可能だと思います。

もちろん課題もあります。

①強度行動障害への支援スキルを高める。

強度行動障害の方はお一人お一人違うため、スキルの高い方であっても本当に難しい支援です。それだけに常に支援スキルを高める努力をしていっていただきたい。都道府県などで実施している強度行動障害支援者養成研修などもぜひ受けていただきたいです。

②虐待防止・身体拘束廃止の観点をもって適切な支援に当たっていただきたい。

③意思決定支援ガイドラインを遵守。

重度の知的障害者の中には自己決定や意思確認が困難な方もいらっしゃいます。関係者でしっかり情報を把握して、根拠を明確にして本人の意思を推し量っていくようにしていただきたいです。

■多職種連携で、重度知的障害者の地域生活を支える

医療と福祉、行政、家族など、多職種の人たちが連携協力し、チームとなって重度の知的障害者の地域生活を支えていけたらと考えます。

支援を行っていく中で、制度上のこと・地域の課題が浮き彫りになってきます。そうして浮き彫りになった地域課題は、地域自立支援協議会でも検討していきたいと思っています。

私の場合は、基幹障がい者相談支援センターということもあり、自立支援協議会やワーキンググループ会議の運営にも携わっています。地域移行や地域の中で見えてきた課題などを地域移行ワーキングで取り上げて、より良い支援につなげていくことができればと考えています。

■四日市 相談員支援専門員 池田

~本人主体の支援とは~

■障害者の生活の場

私は相談支援員をする前に、知的障害者の入所施設で働いていました。そこには約40名の男性利用者がおり、そのうち発語がなく、ジェスチャー・身振り・手振りなどでしか自分の想いを表現できない方が30名ほどいました。重度障害、強度行動障害と言われる方は当然みえました。

私は福祉を学んで、この世界に飛び込んだのですが、その中で最初に感じたことは、その方たちが、自分で表現するのも難しく時間の概念もない、また自分で何をしたらいいのか分からず受け身の生活で、提供されて初めて生活が成り立つ方たちなのかなということ。なので、施設の時間の流れで生活していくのは仕方がないことなのかなと思っていました。

そういう中で、この方たちに大切なこととして、まず安全な生活を提供するという視点がとても強く、それが施設の役割だと思い、支援をしていました。

そういう経験を踏まえて、相談員として地域に出た時に、想いの表現の仕方が不適切に出てきて他害・自傷・破壊行為などをしてしまう重度・強度行動障害の方で、地域生活をされている方がたくさんいる。そういう中で家族と同居している方が多くいることを感じました。

引きこもり問題として、8050問題がよく言われます。引きこもった40代、50代の方の面倒を、80歳になった親御さんたちが見ているという問題ですが、これは障害の世界でも一緒です。

兄弟もおらず、親せきも疎遠になっている中で、障害当事者の方が40、50代になって親が80歳になったときに、どういう支援を受け、どういう生活をしていけるのか。親亡き後の生活はどう確保されていくか。これをご家族がとても心配されていて、当時は選択肢が入所しかありませんでした。

また不適切な行動があり、家庭での中では見守り切れないとなると、入院しかありません。けれど入院しても、医療保護入院となるので「3か月で退院してください」と必ず言われます。その中で入院と在宅生活を繰り返し、間にレスパイトと言われるショートステイを入れ、ご本人とご家族が少し離れることで、ご家族にほっとした、安心した生活をしていただき、またご本人が戻って来る。この繰り返しというご家族を何名も見てきました。

話は変わりますが、障害者の支援施設で働いていたときに、高齢の親御さんに、「私たちがいなくなった後に、子どものことが心配だから施設にいれてほしい」という依頼もよく受けていました。けれど、施設に入ることが本当に安心・安全かを考えると、必ずしもそうではない。施設で生活することは安全ではあるけれども、その人の主体性や尊厳を守るという視点からは「充実した生活とは何なんだろう」と感じていました。

ご飯を食べ、少し活動し、お風呂に入って寝る。それが人の生活では絶対ありません。施設に入ることが、充実した生活を送るということでは必ずしもないと、相談員として地域に出ることで、とても感じるようになりました。

では施設がだめとなった時に、福祉サービスを使って次はどこかと考えると、グループホームが浮かぶと思います。ただ、私が相談員を始めた5年くらい前は社会資源がなく、重度の方を受け入れるグループホームはなかなかありませんでした。

厚労省がグループホームとして示した際は、自立度という表現の仕方もあり、区分2~3で、自分で作業所へ通えるなど自立生活ができる方を受け入れるグループホームはありましましたが、24時間体制で見守る必要のある方のグループホームは社会資源としてはほとんどない状態でした。

三重県でもぽつぽつと受けてくれるグループホームも出てきましたが、2~3年生活をする中で、他害や自傷があったり、飛び出したりという事で、受け入れが難しいと自宅に帰される。そうした時に、家庭では無理だとなり、入院しかなくなってしまう。このような状況を相談員をしながらすごく感じていました。

■重度訪問介護サービス ~「前例」を作る~

今までの重度訪問介護は、重度の肢体不自由者(身体)の方が対象とされ、障害者総合支援法が改正(平成26年4月から施行)になって、「知的障害者や精神障害者で著しい行動障害を有する者」も対象となりました。

障害者支援区分4以上で、認定調査の行動関連項目10点以上で強度行動障害が付きます。

強度行動障害の方に、制度的にも重度訪問介護を使って地域での生活を支援できるということになりましたが、入院生活と在宅生活を繰り返している方に利用していただこうと行政に働きかけをしても「前例がない」ということで、なかなか受けられない。

市の福祉課の方も、どういう生活をするのかイメージできないので、「本当に地域で生活できるの?」というのをよく言われました。

また、総合支援法の中にある、日中の活動と夜間の場は分けるというところで、24時間365日(月720時間)の重度訪問介護の支給はできませんと、ずっと言われていました。

なので、重度訪問介護サービスを使うだけでなく、日中の活動の場の確保に取り組みました。そこで、行政だけでなく、生活介護事業所などに働きかけをし、受け入れてくれる場所を探していきました。

生活介護事業所では、支援スキルや他の利用者との兼ね合いの中で週5日はなかなか難しく、週3日くらいならということで、複数の事業所に協力を要請したり、土日の過ごしの場として、ショートステイや日中一時支援をしている事業所を使ったりと、日中の活動の場を確保しました。

そして、夜間は重度訪問介護を使用し、24時間・月720時間をの生活リズムを行政に提示しました。行政には、それでもなかなかイメージしてもらえず、緊急時、イレギュラー時の対応について、何回も会議し、理解を得て、お願いしてきました。

医療機関についても困難でした。医療保護入院のため3か月で退院というところがあるので、家族の疲弊で自宅には戻れないとなると、ショートステイもうちでは難しいかなと、受け入れてくれる所もなく、精神科の先生には「社会の中で生活することが難しい人に地域生活ができるわけがない。社会的に迷惑をかけることになったとき、どうするんだ。地域生活はやめた方がいい」と言われたりもして、なかなか協力や理解を得られない期間もありました。

そうした中で、行政、精神科の先生、生活介護事業所、重度訪問介護事業所といった多くの方と会議し、「こんな場合はこうしていきましょう」と何度も話し合い、なんとか理解をしていただき、その人の生活が始まってきたという所です。

■地域の理解

とはいえ、行政や医療機関の理解を得るだけでは、重度訪問介護を使った生活はなかなか難しいです。一人暮らしには、アパートを借りる必要があり、大家さんや不動産屋さんの理解も必要となります。

自治会や近隣にも挨拶にいく必要もありますし、警察にも情報提供し、何かあった時に助けていただくという連携を取っていかなければならないので、相談員として各所に働きかけて理解を得られるように動きました。

例えば、居宅介護を使って一人住まいをしている方がいましたが、近所の方から「夜中に大声を出して騒いでいるので何とかしてくれ」と何回も連絡がありました。その度に隣近所を回って「すみません。こういう方でも地域生活しているんです。ご理解をお願いします」と何回も足を運んでいるうちに、逆に近所の方が心配してくれて、ご飯やお野菜を持って来てくれたりと、協力的になってきた例もあります。近隣、自治会との付き合いも、周りの関係者が丁寧に関係を持っていくことで理解を得られて、その方の地域生活が成立していきます。

■まとめ

重度訪問介護を使って一人暮らし・地域生活をされている方は三重県の中でも数人です。地域には、本当に大変で、自分の想いがうまく表現できず、自分の想いで行動できない方がたくさんいます。

だから、そういう人たちのために、行政・医療だけではなく、社会資源や事業所などを使い、みなでその人を支えていくということ。地域の社会資源の連携や、顔の見える関係を作って、そこに地域の理解を得ていくという仲間づくりが必要だと思います。

■独立行政法人大阪府立病院機構 大阪精神医療センター 医師 山下

強度行動障害と医療~医療と福祉がつながるには~

■自己紹介

大阪府出身で、2012年徳島大学を卒業し、そのまま沖縄の徳洲会病院で初期研修をしています。初期研修が終わった後に、沖縄の琉球病院で精神科医として働くことになりました。

私がいわゆる強度行動障害児者を見ることになったのは琉球病院が最初で、ここには50人ほどの強度行動障害が強い方が2病棟におり、そのうち一つの病棟を担当しておりました。

琉球病院の退職を機に、榊原病院で精神科医をし、今年から大阪精神医療センターの精神科医をしています。

■強度行動障害とは(強度行動障害支援者養成研修のスライドより)

「強度行動障害」とは、自傷や異食、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他害、器物破損、大泣きが何時間も続くなど、周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要となっている状態のことで、厚労省の定義です。

強度行動障害というのはあくまで状態像であって、診断名ではありません。医学的診断としては、重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症、もしくは自閉症スペクトラム障害というのが多く、8割程度いるんじゃないかというのが、2005年の中島先生の研究です。

杉山先生の研究では、自閉症の青年期パニック・トラウマが関与してるんじゃないかとか、チックと自傷の関係性が言われています。

行動障害の内容によって出現時期が非常に異なりますが、思春期ごろから強度行動障害の状態になる人が多く、適切な支援や環境の提供がされないと長期にわたり継続するということです。学校を卒業されてから非常に強度障害が出てくる方もおられ、学校を卒業する前後くらいから興奮状態が続く方が多いのかなと思います。

強度行動障害に相当する人は知的障害者の1%と推測されていますので、かなり狭い定義の中では8000人前後と言われています。ただし、福祉サービスにおける障害者区分による行動障害の基準では、のべ5万人以上が行動障害に相当するということです。

今、強度行動障害と言っていますが、海外では「チャレンジング・ビヘイビアー(challenging behavior)」と言われています。直訳すると挑戦的な行動と読んでしまい、本人から発する問題と聞こえてしまいますが、海外では「周囲の人が、本人が適切な生活を得られるようにチャレンジしていく」という意味で使われているようです。

チャレンジング・ビヘイビアーや自閉症スペクトラム障害に対して使われている治療は、心理社会的介入です。行動療法的アプローチが第一選択とされているということです。

■強度行動障害判定基準

強度行動障害判定基準表では、自傷や他害、物を壊す、生活リズムの乱れ、食事関係の強い障害。これは食事を投げてしまったりとか、食べなかったり、偏食であったり、いろんな多岐にわたる障害で、排泄関係の強い障害ということです。あと著しい多動や、著しい騒がしさ、パニックがひどく指導が困難であるとか、粗暴で恐怖感を与えて周囲の人が恐怖を覚えてしまう。そういった判定基準があります。

■強度行動障害の処遇

強度行動障害の方がどういったところで生活されているのかということですが、まず在宅や通所(生活介護)です。行動援護を受けている方は1万人以上で、重度訪問介護利用者は2019年で884人です。

また知的障害者施設や公法人立の重症心身障害者施設、精神科病院、国立病院機構の重症心身障害病棟にもおられますが、医療の中で考えているのは、地域に帰していきたい、地域の生活の中で彼らの幸せがあるんじゃないかということです。

というのは、精神科病院にいても、長期入院の方は保護室の中にいたり、行動制限を強いられている。そうした状況が彼らにとって幸せなのかが疑問です。

また2009年のデータ―協力してくれた精神科病院の中だけですが―では、行動障害の入院の方は1816人おられて、2014年には975名です。これは厚労省の考えのシフトチェンジですかね。全体的に精神科の長期入院を避けて地域移行を進めていくという流れの中で、975名の方が2014年では入院されている。半数近く減っているのでいいことかとは思います。

そういった移行支援を我々は考えていく中で、どのようにすれば地域移行できるのかですが、「精神科病院から出せばいいんじゃないか」という話になると思いますが、そういうわけにはいきません。

地域社会で生きるのが難しい人が精神科病院に入院されて、何もしないのにそのまま出されても地域や社会が困るだけであって、本当に悪いスパイラルにしかならないと思います。

■精神科病院として何ができるのか

強度行動障害児者の専門施設(公法人立重症心身者病棟の治療介入例)では、行動障害がかなり目立つ方などでは隔離行動制限もしますが、大事なのは行動療法的アプローチを取り入れているというところです。他にも彼らの楽しみやストレングスのために個別で療法を入れています。

また、生活を支援する人がいて、行動障害に対する全般的な看護を行います。医者、看護師、助手、療養介助職、保育士、心理士、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士といった、非常に多くの職種の方が関わっています。一般精神科病院ではここまでのことはできないかもしれませんが、榊原病院では行動障害に対するアプローチとして行動療法を非常に取り入れていたということです。

■問題行動の分析 ―氷山モデル―

行動療法というのは、問題行動を分析(応用行動分析)した上で、その行動に対して我々の関りによって行動を変えていく、変容させていくアプローチです。その問題行動の分析とは、氷山モデル(発達レベルや障害特性に応じた支援の必要性と環境要因や周囲の対応の分析)です。

課題となっている行動―自傷・他害、器物損壊など、いろんな問題―があると思いますが、そうやって表出される行動障害に対して、どういったところがベースにあるのか。例えば本人の特性であったり環境・状況の問題だったり、本人に対して適切な支援ができていないんじゃないかなどの我々の関わり方、そういったことを考えていく。

環境や状況要因としては、

①本人の見通しが立っていない、
②感覚刺激が多すぎたり、少なすぎたり。
③彼らが何をすればいいか分かりにくい状況、もしくはすることがない手持無沙汰な状況。苦手なのは
④命令されたり、指示されるような強制的な動きだったり、
⑤いつもと違う環境やスケジュールだったりとか、こういうところが結構あるかもしれないと。

また⑥活動、作業、学習内容が本人のレベルと合っていない。簡単すぎてもいけないし、難しすぎてもいけない。本人に合わせたレベルを考えていく。あとは
⑦衣食住にまつわる不快感。例えば衣服のタグが非常に苦手な子もいると思いますし、服の素材であったり、脱いでしまう子もいます。
⑧行動障害の後の周囲の関りという事で、我々の関わり自体が不適切な行動を強化している可能性があるんじゃないかというふうに考えていかなければならない。

■問題行動前後の観察 ―ABC分析―

どんなときに問題行動が起こるのかという事で、刺激、状況、きっかけ、手がかりを観察する。そのときにどんな行動が起こって、行動の後はどんなことになったかというのを考えていく。

結果としてどのように対応しているとか、困った行動はどんな状況で起こりやすいのか、起こりにくいのは逆にどんな状況なのか、そういった情報をチップスとして病棟の中で集めていく。

で、それらを元にストラテジーシートを作り、たとえば事前の工夫だったり、望ましい行動を記入する。そういった望ましい行動が出た時に、どんな風に強化していくのか。言葉で褒めてあげたり、一緒に遊んであげるとか、何かご褒美上げたりとか、手をつないであげる、身体をさすってあげる、いろんなことが、その適切な行動が出た時に強化してあげることもできるだろうと。そういった適切な行動を出してもらうために、我々がどんな工夫ができるか、ここが非常に重要なファクターになると考えています。

それを事前に本人に対して提案する。例えば視覚的な提示がいいんじゃないかとか、一緒に寄り添って歩いてあげるといい行動ができるんじゃないかとか、ここはかなりいろんなことが考えられると思います。

例えば視覚的刺激を十分使ってあげたりとか、事前に約束を提示してあげたりとか。そういった行動の中で望ましい行動が出た際に、しっかり行動を強化してあげられるようなものを作っていくという応用行動分析に基づく行動機能分析の対応も病棟内で行っていました。

■強度行動障害と医療

上述のようなことを考えてはいますが、今まで医療というのは通常疾患の受診や入院であったり、本人の緊急避難的な入院、施設や在宅からの一時的なレスパイトであったりします。

この一時的なレスパイトの入院は非常にニーズは高いです。ただ、やはり在宅や施設に帰れないことがあるとなると、我々医療機関も受け入れに消極的になってしまって、そうなると地域との関係性が悪くなるという悪循環なんですよね。これをどうにかしたいなと我々も考えています。

従来の福祉と医療の関係では、福祉ができることと医療ができることがバスっと分かれてしまっている。福祉ができることだと、生活全般の組み立てや環境の整備、家族や関係機関との連携。医療ができることだと、通院による薬物治療や入院治療ですね。

これだと、この狭間にいる人たちは、どこにいけばいいんだろうかと。狭間にいる人たちが、いわゆる宙ぶらりんになってしまって、どこでも難しくなってしまう。

なぜこんなことが起こってしまうのかというと、①重症心身障害者に関する医療は確立されていないというのと、この分野の医師がいないんですよね。専門的にしてらっしゃる医者もいないし、専門的にやっている病院はあるんですけど、そう多くはない。各県に1個そういう病院はあるかというと、別にないですね。

また、②医療が優越という幻想をもっている。医療が壁を作ってしまっているところも、個人的な意見としては感じます。

あとは③福祉に対する理解が足りていない。これは私も反省している所なんですが、この理解というのは福祉に対しての制度の理解もありますが、福祉に対する思いやり、地域に対する思いやりです。

我々が、その人を見た時にその疾病だけを見ていいものかどうか。その疾病性だけを見るのではなくて、やはりその人が社会の中ででどう生きていくのか、どう生きていってて、どう困っているのか、どう困っているから介入しないといけないのかという理解が足りないんじゃないかと思っています。

■医療(入院治療)で可能ではないかと考えられていること

強度行動障害養成者研修の中でも出てきますが、入院治療の中でレスパイト以上のことに踏み込んでいかなければならないと思います。例えば、①行動や情緒に関する評価。この評価があるないだけで、少し変わって来ると思います。これでご本人の関わりやすさだったり、こうすれば関わりやすいんじゃないかなどが分かります。

そして②より積極的な薬物調整ができるんじゃないかと。外来で薬物調整するのは結構難しい。彼らの薬物というのは直接的に効くわけじゃなく、間接的に効くので、ある意味、評価が難しいんです。

入院していただいている状況だと、ここら辺の評価は我々の目線、つまり24時間見られる中でできる。やはり外来診察の10~15分の間で、その1,2週間の間で起こった変化や出来事を伝えるのは不可能だと思うので、やりやすいというのはあります。

あとは③こだわり行動や行動障害のリセット。そして④行動療法や構造化による介入。これはできるんじゃないかと思っていますが、おそらくそのとっかかりレベルなんですよね。こういったふうにアプローチしたらいいんじゃないかとか、こういったようにやってみると、この子うまくいったので、今後も先があるかもしれないですよね、という所でアプローチできるんじゃないかと考えています。

ただ、現時点で可能と想定されるのは、特性理解と介入方法の検討と考えています。

■地域での連携を含む多職種共同

強度行動障害に対して、医療と行政・福祉・教育・家族・本人など、みなで平等な立ち位置に立って考えられればと思っています。

地域連携ということでは、医療と地域がつながっていくためにどうするのか。医療の側だけの意見ですが、医療としてできることというのは、おそらくそう多くはないです。往診、訪問看護、退院前訪問、ケア会議ですね。

私は往診などが好きですが、実際に彼らが生活する場所に行って、会って話すのは非常に楽しいアプローチです。そういったように実際に足を運ぶ努力が医療側にも必要だろうと思います。よくご家族から「先生、実際に見てないでしょ」って言われちゃうんですよね。

でも実際に見てないのに何かを判断するのは実は我々も結構難しいと感じていて、実際に見て一緒に考える、その協力姿勢を出していきたいとは感じています。

■一般精神医療への期待

今、一般精神医療で求められることは、福祉だけの対応では難しい、福祉と医療の狭間にある人たちに対する医療的アプローチと地域のネットワーク構築だと思います。現状の緊急避難、レスパイト目的での入院治療から、より専門性の高い医療的アプローチを行うと同時に、地域との連携を重視した「医療と福祉を行き来できる」ようなネットワークの構築が必要だと思います。

それを実現するためには、押し付け合いではなく、責任と負担を対等な立場で補完し合う、「医療と福祉が対話し、顔の見える関係を作っていくこと」が大事だと考えています。

そういった特殊な医療から一般の精神医療に変わりつつある、もしくは変えていかないといけないとは思っているますが、実際に変わりつつあって、2019年、2020年、今年もですが、学会の大きいシンポジウムが開催されています。

2019年度のシンポジウムでは「精神科医は強度行動障害に何ができるか」、2020年度は「強度行動障害の医療と福祉・教育をつなぐ」。昨年は「強度行動障害を伴う知的・発達障害児者の薬物療法と関係機関、家庭との連携」。

そういった流れの中で、強度行動障害医療研究会を発足されて、教科書もできたということです。

このように、全国的にはニーズは高まりつつありますが、おそらく一般精神科の中でどうしたらいいかというのは実はまだよくわかっておらず、まさに「前例」を作っている状況です。

専門性の確立を求められているけれども、どうしていいか分からない。今、トライ&エラーをしながら、一つの形を作っている状況だと思うんです。このような医療と福祉の連携は、厚労省が言ったから連携し合えるのかというとそういうわけじゃない。ここが大事だと思っていますが、顔の見える関係から豊かなネットワークが形成される。

この話が上から下に降りてきて、みな仲良くできるというものではなくて、おそらく下々の者が一つの症例を大事にして、みなで考えて手を取り合って、一つのいい形ができて、それが集まって上に出していく。

こうすればいいんじゃないかって言うように、モデルを出していくことによって、みなが手をつなぎ合えるような、対話が始まっていくと感じています。

 パネルディスカッション

野呂

山下先生のお話にあった「できること・できないこと」、「前例を作っていく」ということ。介護側はここまでできます、医療側はここまでできます、というのは今は答えは出せないと思いますし、地域によってもできないと思います。この間を取るのが相談員や基幹相談センターだと思いますが、池田さんは担当者会議で意識して意見などもらっていましたか?

池田

その方を支えようと思うと、みなの共通理解・共通支援がとても必要となるので、相談員は、医療も含めた各支援者の方の意見をまとめて統一する「柱」になっていくとは思います

野呂

基幹相談センターも「対話」の目線で見られると思いますし、ご家族からは最後の砦として頼られることも多いと思いますが、その中で積極的ではない事業所や医師に関しては、同じ目線で見ていただくよう、どのような努力をされていますか?

増田

気を付けている点は、あいまいな情報でなく正しい情報をお互いに伝え合うということです。あと、医療に関しては医療の専門ですが、こちらも理解するようにしますし、起こった出来事をみなで共有できる場を作っていくようにしています。また、色んな支援の中で課題があった場合、それをしっかりと収集する努力もしています。
 
基幹センターでは個別のケースについてはあまり関りはありませんが、困難ケースの地域移行や難しいケースには必ず関わらせていただきます。その際に相談支援専門員だけに苦労させるのではなく、一緒に動けるところは動かせてもらいますし、情報をしっかり集めて、課題を明確に拾い上げるように気を付けています。

野呂

医療に対する幻想という言葉がありましたが、どうしても医師の意見には「はい」と言ってしまう部分があります。フランクに話をするのは医療の面では難しいですか?

山下

医療の弱さでもあるかもしれませんが、自由度は非常に低いです。例えば入院のお話では、我々も病院の中で勤めているものとして、3か月以上入院してくれてもいいとは思いながらも難しい。システムの問題があります。その中でどうするかだと思いますが、医療側も分かってないところに対しての恐怖感があります。
 
私も最初は恐怖を覚えていました。見通しのつかない中で、どうやって退院調整するのか、地域移行させていくのか。ここは非常に難しいですが、最近、どのようにして2~3か月で関係を作って、一つの形を作っていくかとなった時に、すごく気が楽になったんです。というのも外に協力してくれる人たちがいて、我々はその人たちに対して何ができるのかというのをプレゼンテーションして提示する。その上で段階を踏んで、地域との関係や医療とのレベルが少しずつブラッシュアップされていくと思います。
 
見通しのつかない医療ではないということを、医療の中で広げていこうというのが出てきています。確立はされていませんが、それを軸に広がっていってほしいと思うので、決して怖くないし、処遇困難になることもないと。処遇困難になるときは、地域と医療が手を結べなかったときとだ思っています。そうでなければ、医療としても非常にやりがいのあるところだというのが広がっていってほしいです。

池田

最近、確実に医療と福祉の繋がりが密になってきて、5年くらい前と今とでは、先生たちがこちらの話を聞いてくれるという空気感が全く違っています。地域生活を主に置くと、先生方に「地域でどんな生活をするのか」と聞かれた時に、私たちがきちんと生活のスタイルや組み立てを伝えられないと、先生方も「そんな状態で地域に帰せるかな」となってしまいます。
 
なので、福祉側がきちっと伝える、それで先生方に意見をもらう。それを何回も繰り返すことで、先生方との信頼関係ができ、それが一つできると、違う方の地域移行の際にも「あなたね」という感じで、理解してくれる空気感はすごく出てきています。

野呂

知的障害者の方の共同住宅での支援が始まった時、我々も自分たちの支援の仕方が正解か分からない状況でした。とはいえ、アテンダントに現場に行ってもらわないといけないので、トライ&エラーを繰り返して、経験を積んで、その情報を共有していこうと。
 
ただ事業所の中だけでこれを進めてしまうと、方向性が合っているのかという怖さもあり、他の職種や事業者など、様々な方々との連携や助け、アドバイスがすごく必要だと考えていました。
 
この知的障害者の地域生活を進めていくには相談員、行政、基幹相談センター、そして医療の分野にも簡単に相談できるものがほしいですね。「顔の見える関係」をチームとして作っていって、それをまとめて、その方が成長し、地域での安定した生活を支えていければと思っています。

動画

開催の様子を動画でも配信しております。
是非、チャンネル登録の上、ご覧ください。

前半

後半

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