利潤最大化と働き方への配慮
株式会社土屋顧問/土屋総研特別研究員
影山 摩子弥
【なぜ利潤を追求するか】
無償性は、崇高な印象を与えます。しかし、今の社会は市場経済で成り立っています。市場経済は、労働を提供したり、作ったものを販売したりして収入を得、それによって自分の生活を維持するためのものやサービスを購入するというしくみです。その中で、無償の作業を継続するには、それなりの所得を得ることができており、所得を得るための時間制約も大きくないといった厳しい条件を満たさねばなりません。無償性を求めるのはむしろ、非現実的な面もあるのです。
それは、企業も同じです。企業は「利潤の最大化」を目的に活動するので、従業員に過重労働を強いて過労死を生んだり、公害を生み出したり、コストを抑えるために有害な原料を使ったり、十分なチェックをしなかったりといった問題行動を起こしてきました。それゆえ、利潤が諸悪の根源であるとも言われてきました。
しかし、市場経済は企業に利潤追求を迫ります。利潤をともかく大きくすることを求めます。それをモデル化したものが「利潤最大化行動」であるわけです。では、どのようなメカニズムが働いているのでしょうか?
市場経済の中で倒産せずに事業を営み続けるには、企業は黒字を継続する必要があります。黒字は利益が上がっているということなので、利潤を意識することになります。
【利潤最大化行動を図る理由】
しかし、なぜ利潤「最大化」なのでしょう?儲かっている場合、そこそこのところでやめておけば、競争上不利な他の企業も倒産せずに済みます。利潤を意識するにしても、最大化を目指さねばならないのには理由があります。
市場経済は、基本的に他社と連携せずに、つまり、情報交換をしたり販売価格について相談したりせずに事業を営まねばなりません。他社との相談や協力が許容されれば、協力してわざと高い価格を維持しようとするなどの不正が生まれます。そのために独占禁止法という法律が作られているのです。そこで、市場経済は各企業が他社との連携を一切排除して「孤立して」経営をしているというモデルになります。
そうすると、儲かっていても、競争相手が何をしてくるかわからない、今年は良くても今後は負けるかもしれない(倒産するかもしれない)となります。そうなると、ほどほどのところでやめるのではなく、できるだけ儲けを上げて相手に有利にならないようにする、いざという時のたくわえを増やしておくということになります。それをモデル化したのが、「最大限利潤の追求」なのです。
【利潤最大化と社員のモチベーション】
利潤の最大化は、売上を上げるという要素とコストを下げるという要素のいずれか、もしくは両方を達成する必要があります。様々な企業努力でそれを実現できているうちは良いのですが、努力にも限界があります。アイデアも枯渇します。その結果、同じ給与でより一層働かせようとして過重労働を強いたり、対策費をケチって公害を生み出したりするわけです。
しかし、過重労働はかえって労働生産性を落とします。上司から見ればたくさん働いているように見えるので安心材料になるのですが、仕事への満足度は低くなります。良い会社だと思えず、帰属意識も低下します。その結果、仕事へのモチベーションも低下し、労働生産性も低下します。競争相手などの要因がどのような影響を与えるかわからないので、先が見えません。そうなると、企業は目先で判断してしまうのです。すべてを見通す地検がないことを限定合理性といいます。人は神ではないので、すべてを見通すことができないという意味です。
他方、社員の仕事に対する満足度が高く、帰属意識も高ければ、モチベーションも高まり、良い仕事をしてくれます。それゆえ、近年では、ワークライフバランスが大事だとか、ワークエンゲージメントが重要だとか言われるのです。利潤最大化を図るのであれば、むしろ、従業員のモチベーションや求心力を上げる努力をせねばならないのです。
では、給与を増やせばよいのでしょうか?必ずしもそうとは言えません。