障害者雇用 – 定着率がキーポイント Part 1
株式会社土屋 取締役 兼 CCO(最高文化責任者)
古本聡
現在、全体的には、障害者雇用は順調に伸び出ていると判断できます。特に、2018年に障害者雇用促進法が改正されて精神障害者の雇用が義務化されたので、精神障害者の雇用は大きな改善を見せています。
行政団体や企業における雇用者数を見ると、法改正前の2017年では50,048人だったのが、2021年の初めのデータでは88,018人となっています。また、2021年3月に障害者の法定雇用率が2.3%に、0.1ポイント引き上げられ、企業では、障害者雇用対策が一層強く求められるようになりました。
ただし、法定雇用率を達成した企業は、雇用率引き上げ前の2020年時点で48.6%と、半数にも届いていません。また、大企業では障害者雇用率が高いものの、中小企業ではまだ雇用が十分に進んでいない現状があります。
(データ元:厚生労働省・令和2年度障害者の職業紹介状況)
先ずは、障害別の離職率に着目して、障害者雇用の実態について考えてみたいと思います。
2017年の厚生労働省職業安定局の障害者職業紹介状況調査データでは、入職1年後の離職率は障害の種類で離職率の違いがはっきりと表れています。一般求人も含む調査結果では、知的・発達障害者の入職1年後定着率が約70%と高く、その一方で、身体障害者が約60%、そして精神障害者が50%を切る状況です。この調査データから、精神障害者の職場定着が難しいことがうかがえます。
業種別の離職率はどうでしょう。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター障害者の就業状況等に関する調査研究(2017年4月)によると、入職1年後の障害者の職場定着率は金融・保険業で85.1%、郵便局や農業協同組合等サービス業が68.4%、研究部門や技術サービス業が67.8%などと高く、これはつまり離職率が低いことが分かります、その一方で、宿泊・飲食サービス業では47.8%、建設業が44.8%、 農業・林業が36.8%と、離職率が高い数値になっています。
それでは、せっかく職を得たのに障害者が離職する主な理由はどんなことなのでしょう。
ここでは、2013年に厚生労働省が実施した、平成25年度障害者雇用実態調査の結果データに基づいて、障害者の主な離職理由を見てみたいと思います。ただし、平成25年のデータなので、知的障害者のデータは含まれていません。
離職理由としては、まず「賃金や労働条件に対する不満」や「職場の雰囲気や人間関係」、そして「仕事内容が合わない」が身体障害者と精神障害者ともに上位に挙げられていました。障害者ではない勤労者にも観られる、最多の理由で、障害者雇用でも同じ状況だということです。
一方、身体障害者特有の離職理由としては、「会社の配慮が不十分」や「障害が悪化したため働けなくなった」、あるいは「通勤が困難になった」などが挙げられています。また、精神障害者からは「作業や能率面で適応できなかった」や「疲れやすく体力・意欲が続かなかった」、さらには「症状が悪化または再発した」などの理由が挙がっています。(2013年のデータ)
これらの障害者に特有の離職理由を考慮すると、雇用する障害者とのコミュニケーションを通して各人にふさわしい「合理的配慮」を個別に、しかも具体的に実施することが、障害者の職場定着にとっては不可欠だと考えられます。
次回の記事では、上に挙げられている離職理由を踏まえて、定着率を上げるためのキーポイントを考えていきたいと思います。