サテライト型雇用の意義と課題
株式会社土屋顧問/土屋総研特別研究員
影山 摩子弥
今回は、介護の話から少し離れますが、最近注目されているサテライト型について、お話ししましょう。
【サテライト型の定義】
「サテライト型雇用」とは、雇用した障がい者に、会社内で就労してもらうのではなく、自宅や駅前などの貸しブース、農園、(本社内ではなく)特例子会社などで働いてもらう形態を言います。つまり、会社から離れた場所で働いてもらうので、「サテライト型」と表現します。
サテライト型に分類されるために、常に会社から離れた場所で仕事をしていなければならないかというとそうではなく、週に1日自宅で仕事をする日があるとか、1日のうち、午後は近くのカフェで仕事をするなどというケースもあります。ただ、ここでは、ほとんど出社しない場合や本社の健常者社員と接触がない場合を想定しています。
なお、介護のお仕事はクライアントの元に出向いて仕事をするので、会社の外で仕事をしています。顧客の元に出向く営業職も会社の外で働いています。しかし、リモートワークとは言いません。クライアントや顧客を会社に呼びつけるわけにはいかず、出向くという業務形態をとっているためです。営業職は、報告書やプレゼン資料を会社に戻ってきて作成しています。しかし、書類の作成を自宅などで行っていればリモートということになるでしょう。介護職も報告や書類作成、事務処理などの必要がある場合に、会社に出向いて行っていれば、リモートではないことになりますが、それを自宅やカフェで行っていれば、リモートということになるでしょう。
【サテライト型の種類】
特例子会社とは、障がい者の雇用に関わって、厚生労働大臣に特別に認められた子会社のことで、本社の障がい者雇用率を算出する際、特例子会社で雇用している障がい者の数と合わせて算出してよいとされている子会社です。障がい者が就労している就労継続支援事業所や就労移行支援事業所のようにたくさんの障がい者が働いています。
特例子会社の場合、その子会社の中で働いていたとしても本社の健常者社員たちと交流することがほとんどなく、本社から切り離されて施設にいるかのような形になるので、それもサテライト型の一環です。
また、自宅や駅前などアクセスの便が良いところにある貸しブースなどで働いてもらう場合もあり、その場合、一般的にテレワークやリモートワークと表現されます。なお、細かいですが、「テレワーク」は、主に健常者のケースを想定した働き方改革の一環で政府が普及させようと取り組んでおり、その関連で次のような特別な定義があります。
「テレワークとは、ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方です。」
*総務省:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/18028_01.html
そのため、ICT技術をほとんど使わないような場合や、政府の事業の一環と勘違いされることを避ける場合、リモートワークという表現を使うことがあります。両者は、もともとは会社以外の場所で就労するという同じ意味の用語です。
【サテライト型の意味】
このようなサテライト型は、障がい者雇用の現場においては、従来から活用されてきました。例えば、四肢が不自由なので、外出が難しい、障がい特性から人ごみの中が苦手で、満員電車には乗れないため通勤が難しいなどといった場合、テレワークが有効です。
また、駅から会社が離れていて、交通の便も悪い、公共交通機関のバスも走っていないという場合、リモートワーク用のブース(机といすのワンセットから成ることが多いです)を借りてそこを使ってもらうといったケースもあります。
また、周りが障がい者の方なので、安心して就労できるので、特例子会社でお願いしたいという当事者の方もいます。
【サテライト型の課題】
サテライト型の場合、リモートワーク用であるとともに障がい特性に合っている仕事を切り出さねばならないという2重のハードルがあり、仕事の切り出しが難しい場合もあります。また、サテライト型のうち、ほとんど会社に出向かない、本社の社員と交流がないといった場合、健常者社員との接触が希薄になります。そうなると、健常の社員の障がい理解が進まない可能性が大きくなります。それでは、社会的包摂(誰も排除されず、皆が経済社会の活動に参加している状態)にとって重要な、相互理解につながっていきません。さらに、この講座で扱った、「障がいがある社員と健常の社員との間に生ずる相乗効果」が生まれにくくなります。
また、リモートワークをしていると、他者との接触が希薄になるので孤独感を感じてしまうこともあります。その結果、障がいのある社員が退社してしまったという事例もあります。
それに加え、サテライト型のうち「雇用ビジネス」と言われる形態が、2023年あたりから問題されるようになりました。次回は、「雇用ビジネス」を扱いたいと思います。