研修の講師として考える

研修の講師として考える

元宮城県知事・土屋総研 特別研究員
浅野史郎

このところ重度訪問介護従事者養成研修 統合課程の研修の講師をやっている。重度訪問介護の介助者(アテンダント)になるには、この統合課程の研修を修了し、資格試験に合格しなければならない。大事な研修である。

この研修でゲスト講師を依頼された。毎週水曜日13時30分から14時25分の55分間、ZOOMでの講義である。毎回30~40人が受講する。毎週毎週これだけの数だけ新しいアテンダントが増えるということだ。このことに、まず、驚かされた。

たった1時間弱の講義である。私はアテンダントの仕事はやりがいがあり、誇りが持てる仕事だということを伝えたかった。講義の最後には、次のようなメッセージを送る。

「1時間のこの講義では、介助の技術、知識について十分に伝えることはできません。伝えたかったことは、重度訪問介護の仕事がどれだけやりがいのある、素晴らしいものかということです。だから、この仕事を選んだ皆さんにおめでとうと言いたいのです」

私の講義ではパワーポイントを使う。一枚目のスライドには「おめでとうございます/浅野史郎からあなたに」と書いてある。履修者のAさんを指名して、「Aさん、どうして『おめでとうございます』と言われたかわかりますか?」と問う。

「この講義を受けられて『おめでとう』だと思います」という反応もたまにはあるが、ほとんどが「わかりません」と答える。それでいい。「この講義を最後まで聴いていくと、わかると思うよ。その時にもう一度Aさんに答えてもらいます」。こんな感じで講義は進んでいく。

履修者全員へのメッセージとしては、「皆さんは、これだけやりがいのある、人の役に立つ、自分を高める、感謝される仕事に就く。こんな仕事は、どこにもそこにもあるものではない。この仕事を選んで良かったねえ。おめでとう」。

講義では、「あなたの仕事でこんなことが実現するんだよ」として、いくつか実例をあげる。重度の障害者があなたの介助を受けて自立生活を実現すること。24時間介助を必要とする重度障害者に他の介助者とともに24時間介助を保障すること、介助で疲弊している家族を介助義務から解放すること、ALS患者の命を救うこと、である。

そして、重度訪問介護事業がどれだけすごいものか、そこでの仕事をすることはどれだけ素晴らしいことかを確認してもらう。

講義を終えるにあたり、皆さんに「足下に泉あり」の言葉を贈る。ドイツの哲学者ニーチェの言葉であり、私の座右の銘でもある。

皆さんはこれから重度訪問介護の仕事を始める。仕事を続けているうちに、きついな、つまんないな、別な仕事に変わろうかなどと考えることがあるかもしれない。そんなとき、足下の地面を掘っていきなさい。わき見をせずに掘っていく。そうすると必ず甘くておいしい泉が湧いてくるのです。

 

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