障がい者が生む相乗効果
横浜市立大学都市社会文化研究科教授
影山 摩子弥
相乗効果(シナジー効果)とは、複数の要素が相互に影響を与え合い、単独の要素では生み出せない効果を言います。マイナスの場合もプラスの場合もあります。
このような効果は身近なところに無数にあります。「試験勉強を友達と一緒に行ったら、教えあったり互いを意識したりして、一人で行うよりも大幅にはかどった」という場合、プラスの相乗効果と言えます。
他方、「友達と一緒に試験勉強をしたら、おしゃべりに夢中になって、ほとんどはかどらなかった。一人で勉強したほうが良かった」という場合、マイナスの相乗効果といえます。
お肉に塩・コショウをして焼いたら、すごくおいしくなったというのも相乗効果です。火も含めると4種類の要素の相乗効果と言えます。
さて、大分県にある甲斐電波サービス株式会社というオフィス機器の販売やレンタルを手掛ける、社員10名ほどの会社では、かつて成果主義を導入しました。
給料減らすぞ、クビ切るぞ式の脅しの成果主義は、まともに機能しません。
社員は皆会社に対して不信感を持ち、上司と部下という縦の関係でも、同僚との横の関係でも会話がなくなり、ぎすぎすしてきます。
「今日会った顧客が、あなたが担当している商品が欲しいみたいだった」などの耳寄りな情報だけではなく、通常の連絡も滞るので、業務がうまく回らなくなります。
この会社はまさにそのような状態になり、成果主義をやめますが、会社の雰囲気は良くならず、倒産寸前まで行きます。
それを救ったのが、知的障がいのある高校生でした。実習で受け入れたところ、その際だけ、障がい者を軸に社員のコミュニケーションが復活します。
社長が毎日算数と国語のドリルをやらせ、採点したのですが、障がい者の遅々とした成長が見えると、健常者の成長はよくわかります。
そこで、社員がある業務ができるようになったことを社長が把握していることを伝えると、それほど自分のことを気にかけてくれていたのかと、社員の社長を見る目が変わってきます。
そこで、その高校生を正規雇用したところ、会社はV字回復を遂げ、倒産を免れました。
同様の事例は、神奈川県にもあります。お弁当を作り、店先でも販売している会社の調理場では、社員の人間関係が悪かったそうです。
しかし、知的障がい者を2名雇用したところ、障がい者の支援をめぐって人間関係が良くなり、業績も毎年黒字を更新するほどになりました。
また、株式会社三越伊勢丹ソレイユでは、健常者だと疲れてしまったり飽きてしまったりする、贈答品につける小さなリボンづくりや伝票のスタンプ押しなどの単調な業務を障がい者が担います。
障がい者は、単調な業務をクオリティやスピードを落とさず、延々と行う能力を持っています。そのおかげで、接客業務に携わる健常者社員が、疲れる業務をしなくてよくなり、お客様満足度が上がりました。
まだまだ異なるパターンの事例が多々ありますが、このへんにしておきましょう。
さて、それぞれ得意な分野を担うという分業による相乗効果はわかりやすいです。しかし、人間関係が良くなり、業績にまで影響を与えるという点は、必ずしも自明ではなりません。
特にどのようなメカニズムでそれが生ずるのかわかりにくい面があります。
そこで、業績が良くなるなどということは他の企業でもいえるのか、それはどのようなメカニズムで生ずるのか、を明らかにする調査を行いました。