小山内美智子さんのこと

小山内美智子さんのこと

元宮城県知事・土屋総研 特別研究員
浅野史郎

私の37年来の友人である小山内美智子さんが、今、とても困っています。

小山内さんは脳性まひで24時間365日の介助が必要です。

現在は、重度訪問介護の事業者であるNPO法人札幌いちご会が小山内さんの自宅にヘルパーを派遣しています。

ところが、いちご会のヘルパー登録者だけでは、小山内さんの介助に足りなくなりました。

そこで、4日間で70件の事業所に電話をかけました。なんとか3件の事業所の人が来てくれて、「私は生きていけるようになりました」と語る小山内さんです。

利用者自身がここまでやらないと介助者が確保できないのです。毎日、薄氷を踏む思いではないでしょうか。

小山内さんは、自立生活運動をする拠点として「札幌いちご会」を設立しました。実際に自立生活を始めたら、全国からたくさんの人が見学に来ました。45年前のことです。

当時は公的介助などないので、ボランティアに介助をしてもらっていました。それで自立生活は成り立っていたのです。実際には、ボランティア探しに苦労していました。

その頃と違って、今や、重度訪問介護事業があるので、公的介助に頼れる時代になりました。ああ、それなのに、小山内さんは困っています。ヘルパー不足のため、生活が脅かされているのです。

ヘルパーの数が不足しているだけでなく、ヘルパーの質も問題です。美しいヘルパーさんが来てくれて喜んでいたら、しばらく経つと突然頭を叩いたり、怒鳴ってくるのです。

「人柄は顔ではわかりません」と小山内さんは嘆くのです。

小山内さんは、重度訪問介護の事業者である札幌いちご会の理事長です。介助者を雇う立場でもあるのです。あらゆる手段で介助者になってくれる人を探しています。

先日、3人の若者が採用面接にやってきました。小山内さん自身が面接しました。2人は箸にも棒にもかからない。残った一人は、3日で辞めてしまった。札幌いちご会の苦難は続くのです。
 

介助者が足らないのは、小山内さんの札幌いちご会だけではありません。応募者が少ないこともありますが,採用されても辞めていく人も多いのです。

事業所ごと、地域ごとに状況は異なりますが、なべて介助者不足に苦しんでいます。折角、重度訪問介護事業という素晴らしい制度ができたのに、これでは制度の良さが発揮できません。

公的介助を受けたくても、介助者がいないために地域での自立生活をあきらめざるを得ないという重度の障害者がいるのです。

それでは、どうしたら介助者を増やせるのでしょうか。まずは、重度訪問介護事業のことを知ってもらうことです。

知ってもらうのは、この仕事はやりがいがあり、誇らしいものだということ。そんな仕事は、めったにないんだよと。

給与が低いのが参入の壁になっているので給与を上げる、そのためには介護報酬単価の引き上げが必要。これは、厚生労働省そして財務省にお願いしなければなりません。少々ハードルが高いようですが、できるはずです。

介助者になったのに途中で辞めていく人が多いのです。これが介助者不足に拍車をかけています。何故辞めていくのか、その原因を探らないといけません。

介助介助で追いまくられて、他のことをする暇がない。一対一の仕事なので、介助者仲間と話す機会がない。孤独感、不安感、抑圧感が払拭できない。昇給、昇任が限られている。介助のスキルを磨く機会がない、などなど。

原因が分かれば対処しようがあります。解決は難しいのですが、やってみる価値はあります。

小山内さんは困っています。当事者団体である札幌いちご会の運営の中核を担う人材不足が深刻な状況にあります。いちご会の理事長を小山内さんから継いだ人が、退職してしまったのです。

やむなく、小山内美智子さんが理事長職に戻りました。それでも法人事業は継続していかなければなりません。介助者不足も解消しなければなりません。来年70歳になる小山内さんはまだまだ楽になれないのでしょうか。

このコラムは、「いちご通信」No.216 2022年10月号に掲載された「いちご会に奇跡がおきますように」という小山内さんが書いた記事に触発されて書いたものです。

小山内さんが困っている、札幌いちご会が困っていると書いていますが、これは誰にでも、どこにでも起こることです。個別に解決が図られるものではありません。

重度訪問介護事業に関わるすべての人が、知恵と力を結集して解決していきたいものです。
  

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